帰宅 計人
「え? 計人今日は帰るの?」
どうやら、美奈は俺が泊まってくもんだと思ってたらしい。
――まぁ、いつもならそのまま泊まるしな。
だが、今日は泊まっていくわけにはいかない。
梨亜が言ってたじゃねーか。明日の朝までに帰ってくるかもしれないって。
もし、梨亜が帰った時に、俺がおらずに一人になってみろ。あいつは絶対、絶対に! 俺の楽しみにしてたNoロールを食う! 帰って冷蔵庫開けて、見つけた瞬間に食う! 俺もまだ一欠片も食べてねーのに!
許せん! 俺のNoロールを奪う輩には正義の鉄槌下すのみ!
「あぁ、梨亜が帰ってくる可能性もあるしな」
「そっか。なら、ハヤシちょっと持っていく?」
「本当か!?」
心残りだった、ハヤシライスを味わえるチャンスにとびつく。
「うん、但し食べる前にちょっと煮てね」
「おぅ!」
「じゃあな」
「また明日」
「おぅ、また明日」
たいちょーさんと美奈に見送られ、ホクホク気分で帰ったが、家は真っ暗だった。どうやら、梨亜はまだ戻ってないようだ。
俺は、ひとまず冷蔵庫にハヤシを入れ、Noロールを取り出して、少しだけ切って食った。
「……まだ腹、膨ってんかな」
わざわざ買ったのに、そんな美味くない気がする。この味のために帰ってきたってのに、期待外れすぎる。晩飯の後、コーヒーゼリーまで食ったせいだろうか。
――今度美奈にロールケーキ作ってもらうか。
そもそも、美奈が作る菓子が美味いのに、何でわざわざ買ったのか、いまいち自分の行動が分からなかった。
ただ、この前梨亜が美味しそうだと見ていたのを思い出して、何となく美味そうだと思ったんだ。
――丁度、今日がケーキフェア最終日だったせいだな。
美味いデザート独り占めは諦め、テレビをつけるが、面白い番組がない。
誰かにメールか電話、という気分でもなく、ただぼーっとバラエティ番組を眺めていた。
「――あ、何か美味しそうなもの食べてる」
いつの間にか寝ていたらしい俺は、すぐ後ろから聞こえてくる声で眼を覚ました。
「あれ? 計人起きた?」
声の方を振り向くと、梨亜がソファの後ろからこちらを覗き込んでいた。
「んあ? 帰ってきたのか、梨亜」
「うん、ついさっきね。ただいま計人」
「あぁ、お帰り」
「ロールケーキ、私も食べたい。あるよね?」
聞きながらも、勝手に冷蔵庫を開け、中を覗き込む。
「ロールケーキはいいが、ハヤシライスは明日の朝だからな」
一応、釘を刺しておく。
「ハヤシライス? 作ったの?」
「美奈がな。煮込みハンバーグの後は必ずハヤシライスなんだよ。ハンバーグの肉汁が既にデミグラソースに溶け込んでるから、じっくり煮た味が簡単に出来るーってな」
「へぇー、そうなんだ。――ところで、私の分もあるよね?」
「まぁ、二人分でも多いくらい貰ったからな」
途端に喜んで、楽しみにする単純な梨亜を見ていると、ついつい笑えてくる。美奈みたいに上手にはいかないが、明日の朝はオムハヤシにしてやろうか。
「さて、いっただきまーす」
勢いよく両手を合わせ、早速ロールケーキをぱくつく美奈。
「んー、おいしーい!」
ロールケーキを頬張りつつ、幸せそうに頷く。
何となく美味そうに見えて、自分のフォークを梨亜の皿にのばし、少し奪って食う。
一眠りして腹が落ち着いたせいか、さっきより美味い。
「ちょっと計人、何するの!」
怒った梨亜が、俺の皿の残ったケーキを殆ど奪い取り、食べる。
「夜にそんな食うと、太るぞ」
「おあいにく様、ここ数十年、全然体形変わりませ~ん」
俺の脅しも全く意に介さず、自分の分も取られまいと皿をガードしつつ食べる梨亜を見て、やはり今度、美奈に作ってもらって皆で食おう、と思った。
農ロールが好きな友人のエキサイトっぷりを思い出してしまった。元気かなー?




