夕食 隊長
学校にいる美奈から、メールが着た。
『今日、計人がご飯を食べに来ます。今日のお夕飯、七時前くらいでも平気ですか?』
今日は結城が天界に戻っているからだろうか?
何となく、妻が旅行中に浮気をする間男みたいだな、という変な冗談が浮かんだ。
『了解。今日は早めに戻る』
すぐ返事をする。元々今日は、結城の代わりに美奈に張り付いているのだから、平気でない訳がないんだし。
――美奈の下校に偶然鉢合わせることにするか。
俺は、放課後まで屋上に潜むことにした。
「おー、相変わらずうまそーだな」
運ばれてきた料理に、計人が歓声をあげる。
「ふふ、どうぞめしあがれ。――隊長さんもどうぞ」
「あぁ、いただきます」
「いただきます」
今日の夕飯は、煮込みハンバーグに玉ねぎのスープ、たっぷり野菜のサラダに、もやしのナムルだ。
美奈の作る料理は、ご飯と味噌汁にメインと副菜ということが多いが、今日は珍しく汁物がスープになっている。
「やっぱうめぇな、美奈の煮込みハンバーグ」
「お褒めに預かりまして」
「に、何で美奈んとこのサラダって、別にめずらしーやつ使ってもねーのにうめぇんだろーな?」
「うーん? よく分からないけど、サラダ作るときって、種類を多くすればするほど味に奥行きが出るっていうよ? それかな?」
一つだけだと苦手な味でも、沢山の中にあると好きな味になったりすることもよくある話、だそうだ。
「ふーん、そんなもんか」
うんうんと頷く美奈に、そういえば、と五十嵐が声をかける。
「婚約どーなったんだ?」
婚約? 美奈のか?
突然の話題に驚く俺をよそに、美奈は返事をする。
「うーん。一応ね、社会人になってどうかってのも見た方がいいかなぁって」
「ふーん、そうか」
俺にはよく分からない会話だが、ひとまずお祝いの言葉を口に出しておく。
「婚約するのか? おめでとう」
「ありがとうございます」
そう答える返事にも、隠し切れない喜びが……、特に感じられないのは、気のせいか?
「結婚の時期も決まってるのか?」
この世界は、大抵大学を経て社会人になってから結婚する者が多いため、高校時点で婚約というのも早めな気がするが。
「はい。二十歳にしようかな、と思っています。……本当は、十六と同時に、と思っていたんですけど、そうなると、相手の方の年齢がちょっと」
どうやら、お相手は二歳以上年上ではないらしい。今すぐ結婚されてしまうと、流石にここにいることは出来ないし、新婚さんに張り付いているのは野暮すぎるので、美奈には悪いが助かる。
――しかし、五十嵐が美奈の恋人じゃないのか。
ともすれば、恋人よりずっと親密な二人の関係については少し気になったが、興味本位で聞くようなことでもない。
「そうか。まぁ、ゆっくり恋愛期間を楽しむのもいいんじゃないか?」
「そうですね、そういうのも少し考えておいた方が良いかもしれません」
――今現在楽しめてないような答え方だな。
そういえば、これだけ美奈に張り付いているが、相手と思しき男に見当がつかない。五十嵐以外の男で美奈が話すのは、使用人か、下手をすると俺が一番になるくらいだ。
遠距離でなかなか会えないのか? それで、出来るだけ早く結婚してしまいたいと思ったのかもしれないな。
「そーいや、たいちょーさんは、結婚してんのか?」
夕食を堪能しつつ、つらつらと考えていると、五十嵐が聞いてくる。――最後に、そのなりで、と付け加えられた気がするが、気のせいだろう。
「いや、する相手も暇もないからな」
ひくつく頬を抑えながら答える。
「ってか、たいちょーさんは、俺らの感覚でいうと何歳くらいなんだ?」
確か、俺らより途方もなく寿命が長いんだよな? という五十嵐に軽く頷く。
「俺らは、ここの地球人とは成長の仕方が違うからな。一概に何歳相当だ、とは言えん」
「簡単にいうと、赤ん坊時代が短く、幼児時代で少しの間成長が止まり、そこからは青年まで一気に成長して、そこからは、成長速度は人によって変わる。ずっと青年のまま、死ぬ直前に一気に老いるものもあれば、少しずつ成長して壮年といわれるところまで均一に成長する場合もある」
結城の場合は、今のところずっと青年状態のまま止まっているようだ。
「じゃあ、隊長さんは今、成長期なんですか?」
――まぁ、そうくるよな。
「俺の場合は、多少特殊でな。……時々、幼児から青年への成長途中に、成長が止まるものがいる。そういったものは、大抵ある時いきなり止まっていた成長が再開されるんだが、いつ再開されるのかは分からん」
もっとも、俺ほど長く成長が止まってる例は類を見ないんだが。……いつまでも成長しないことはない、と思うしかないな。
「そうなんですか。なら、他の人達が少ししか味わえない時代を多くすごせるんですね」
ちょっとラッキーですね、と笑う美奈と、実はそれが青年時代の成長限界だったりしてな、とからかう五十嵐。
俺の特異性を理解していない二人の態度に、何となく気持ちが軽くなった気がした。




