不在 計人
朝、飯を食っていた俺に、同居人が言ったのはこんな言葉だった。
「計人、私今日は向こうに帰るから。学校は病欠だって言っておいて」
「おぅ、明日は戻ってくるのか?」
「うん、明日の朝までに戻るかは怪しいけど、明後日も学校お休み、とはならない」
「了解」
となると、夕飯は一人か。かったりーな、美奈んちでも行くか? そうだ、それがいい。そうしよう。
「じゃ、行ってきます」
「おぅ、俺は今日夕飯外で食うから、予定変わるようなら早めに連絡してこいよ」
「了解。それじゃ、また明日」
俺んちに大穴が開いて、梨亜が落ちていく。――これで穴が塞がんなかったら大惨事だな。
バカなことを考えていたが、すぐに閉じた。釣り糸垂らして何か釣れないか試してみようと思ったのに、残念だ。
登校は ――特にいつも梨亜としているわけでもないのに―― 久々の開放感を感じる。学校へついても梨亜がいないということが新鮮なんだろう。
教室に入ると、美奈が話しかけてくる。
「お早う、計人。梨亜ちゃん、まだ来てないの?」
珍しいね、という美奈に、梨亜の欠席を告げる。
「はっ!? 結城さんが欠席? そしてそれを何故お前が知ってる?」
美奈が何かを言う前に、明後日の方から感想がとんできた。
「おい、俺に対する挨拶はなしかよ?」
「そんなことに構ってられるか。結城さんは風邪か? 怪我か? ひょ、ひょひょっとして、お前、家に無理矢理連れ込んで今日は身動き取れないほどのことを結城さんに……!?」
俺は、ひとまずこの脳内お花畑な同級生を拳で黙らせた。
「阿呆。病欠だとよ」
「いってぇな。で、何でそれをお前が知ってんだよ」
「おばさんに言われたんだよ、休ませるから言っといてくれって」
「何だとー!? お前既に親に挨拶済みか!? この二股男!」
「え!? 計人、付き合ってる人いるの?」
「いるか! ――まったく、誰が二股だ、誰が? まだ一人とすら付き合っちゃいねーぞ」
二股出来るほどの相手を寄越せってんだ。
「……これが無自覚ハーレム主人公というものか」
「誰がだ!」
もう一度殴って沈没させておく。ったく、手間かけさせやがって。
だがまぁ、言いたいことは分からないでもない。
どうせ、梨亜と美奈の二股だって言いたいんだろう。
俺だって、何も知らずに俺みたいなやつを見りゃ、二人の女に囲まれてどっちか決めかねてるリア充爆発しろ、と思う可能性が高い。
――だが実際は、なぁ?
片や仕事のために監視を兼ねて張り付いているだけであり、片や完全恋愛対象圏外な幼馴染み。現実なんてそんなもんだ。
しかも、二人がいるせいで、俺は相手がいるものと思われて、他の女子には見向きもされない ――二人がいなくても見向きもされねーって意見は聞かねぇ―― だろう。
……あれ、そう考えると俺って結構侘しい人生送りそうじゃね?
ちょっと暗澹たる未来が見えそうな気もしたが、今のところそんなに恋愛したいって欲求があるわけでもないので、忘れることにする。
流石に、教室で堂々と『今日梨亜が家にいねーから、夕飯食いに行かせろ』と言ったら、またバカが騒ぎかねないので、メールをプチプチ打って送信しておく。
美奈から『OK。メニューに希望あったらお昼までに教えて? 何もないなら今日は煮込みハンバーグになります』と返ってくる。やりぃ。
美奈の煮込みは、特性デミグラスソースたっぷりの絶品ハンバーグだ。そして次の日は、煮込みに使ったソースで、ハヤシライスが作られる。
――やばい、腹減ってきた。




