学校の裏山にて 3 梨亜
そういえば、セクション分けしてる人いたなぁ。あれのやり方って、どうやるんだろう?
夢追人とは、天界人が勝手にやっているだけで、それが本当に正しいのかは知らないし、地界人がその活動を知っている訳もない。
――そもそも、天界人が守っている時点で、それ自体が異世界からの干渉じゃないか、という説もあるし。
それなのに彼女は、夢追人になったと言っただけで、聞いたことのない単語に戸惑いもせず、大まかな事情をほぼ正確に読み解いた。
――やっぱり、私途中で眠ってたのかな?
首をひねりながらそんなことを真剣に考えていると、計人が話しかけてきた。
「他に、何かあるのか?」
急な質問に、思わず間抜けな声が出る。
「へっ?」
「へ?、じゃねーよ。説明不足だって言ったの、てめーだろ」
呆れた様に言う計人。美奈も、何かある? とばかりに小首を傾げている。
ようやく出てきた自分の言葉は、我ながらえらく間抜けに聞こえた。
「何で分かったの?」
何を? という表情を浮かべる美奈と、何故か威張る計人。
「何が?」
「だから言ったろ? 最低限は伝わってるって」
「だ、だって、夢追人になる、としか言ってないような気がするんだけど?」
「まぁ、そうだな。それしか言ってねーからな」
「他に聞いておくことあった?」
何故、話がかみ合わないのだろう?
――ひょっとして、私が物凄く理解力に乏しいの?
いやいや、それはない!と、思う。。思いたい。
段々と自信がなくなってくるが、さすがに、あの一言で、夢追人になったいきさつまで出てくるのは変だろう。私は間違ってはいない! 筈だ……。
「今の話は、どう聞いたら、そんな結論になるの?」
そう聞くと、やっと理解できた、とばかりに美奈が口を開くが。
「えーっと」
「ミナ、ささっとすませとけ」
面倒くさい、とばかりに入れられた横槍が入れられる。
「じゃあ、いくつか具体的な部分を説明するのでいいかな。一番聞きたいこととかってある?」
一番……。いや、一言がどうしてそこまで膨らむのか、その思考回路が全部知りたいが、どの部分が聞きたいかと問われると。。
少し考え、聞いてみる。
「じゃあ、山口さんが、計人が私に助けられて夢追人始めたって思ったのは何で?」
「あ、うちの組、山口二人いるから、美奈って呼んで?」
「分かった、美奈。私も、梨亜でいいかな」
「はーい、じゃあ梨亜ちゃん。改めてよろしくね」
「で、計人が梨亜ちゃんに助けられたと思った理由ね」
まぁ、理由は色々あるんだけど、という前置きの元、告げられた答えは。
「うーん、夢追人やるって言った時の計人の態度かな?」
言いつつ、何かを思い出すように、明後日の方へ顔を向ける。
「自分から進んで『やりたい!』というのではないけど、やること自体は決めていて、その決意は固い感じだったでしょう?」
そんな決意、見て取れたのか。私にはやる気ない様にしか見えなかったけど。。
ちらり、と計人の方を見てみるが、説明は美奈の仕事、とばかりに、木を眺めている。
……美奈の勘違いじゃないのかなぁ?
「あと、会ったばかりみたいなのに、『梨亜』って名前呼び捨てにしてるし、結構打ち解けているじゃない?」
一人うんうん、と頷きながら続ける。
「だから、他の夢追人がきっかけで、サポートは梨亜ちゃん、とかいうのではなく、梨亜ちゃん自身が、夢追人やる直接の理由なんだろうなって」
「で、そんな短時間で、その人のためにやろう!と決意するのって、何か恩を受けたからかなって」
……成程?
まぁ、それだけでそこまで分かるのか、という疑問はあるが、彼女がそれだけ計人のことを理解しているということなのだろう。多分。きっと。
しかし「何で私自身が夢追人やれなくなったと思ったの?」という疑問は残る。
「んーと。最初は、ただ単に、夢追人の数が足りなくて、誰でもいいから手伝ってほしい、というのもあるかな、と思ったんだけど」
「その場合、梨亜ちゃんが転校してきてまで、一緒にいるのはどうなんだろうって」
「もし人手が足りないなら、分散させたいと思うでしょう?」
違うかな? とばかりに小首をかしげ、上目遣いに見上げてくる。
――う~ん、可愛い。
はっ! うっかりおかしな世界の扉を開きそうになった気がする。いけないいけない、きちんと聞かなくちゃ。
「まぁ、二人一組のお仕事で、ペアの人が丁度いなくて困ってたから一緒に、ってのもあるかなー、とは思ったんだけれど」
「そこら辺は、勘違いしてても特に問題ないし、どちらでもいいかな? って」
てへ、とばかりに笑いながら答える美奈に、
「私自身が夢追人だった、と思ったのは何で?」
と、問えば、
「それは」
一旦言葉を区切り、ちらりと計人を見て、また話し始める。
「助けられたことに恩義を感じて、全く関係ないことをやるんだとしたら、計人は、もう少しやる気なさそうにするかなぁ? って」
……。
今でも十分、やる気がなさそうに見える私は、思いっきり胡散臭そうな眼を計人に向ける。
すると、口をはさむ機会を待ってたとばかりに
「ほら、もう十分分かったろ? 分かったら、菓子食おうぜ、菓子」
「あ」
いかにも、もう終わりでいいだろ、とばかりに告げられた言葉に対し、美奈が慌ててお菓子を取り出す。
「美奈の菓子は、奪い合いが起こる位うめーんだから、感謝して食えよ」
差し出されているクッキーは、くるみやレーズン、チョコチップ入りなんかがあり、確かにとてもおいしそうだ。
「よかったら食べてみて?」
どうやら、説明は終わりにされたらしい。
正直、まだまだ聞きたいことは山ほどあるのだけど。。
特に、計人はいつも他人に説明する際、こんないい加減な説明しかしないのか、とか、面倒だからと話を打ち切るのかとか、これより更にやる気のない計人というのは、一体どんな酷い状態なのかとか。。
ひょっとして、計人と付き合うには、これくらい察しがよくないとならないの?
それとも、長年一緒にいると、こうも理解出来るものなのかしら。
数十年はおろか、数百年ずっと共にいる上司の顔を思い浮かべ……。
――無理。私には分からない。
自分の達した結論に黄昏ながら、お菓子をいただくことにしたのだった。
ちなみに、クッキーは、さくさくで、口の中に入れるとほろっと崩れる、一枚食べたら止まらなくなる味だった。