呼び方 梨亜
いつもの見回りの帰り道、隊長と出会った。
場所的に、丁度そろそろ美奈と分かれるかどうか、という地点だったので、引継いで見張るべく待っていたんだろう。
「こんばんは、隊長さん。どこかへお出かけですか?」
「いや、今戻るところだ。美奈もか?」
一緒に帰ることになった二人に、計人が話しかける。
「なぁ、前から気になってたんだけど」
「ん、なぁに、計人?」
聞き返す美奈を通り越し、隊長に向かって話しかける。
「たいちょーさんは、俺を五十嵐って言うし、梨亜は結城だよな?」
「そうだな」
それがどうかしたのか? とばかりに頷く隊長。
「確か、副隊長の事も名字で呼んでたよな?」
「鳥谷か? そうだな」
なおも続く似た質問を怪訝そうに肯定すると、計人は「だったら」と首を傾げた。
「何で、美奈は美奈なんだ?」
言われて気付いた。
確かに隊長は、美奈だけ名前で呼んでいる。
――他の人で、名前で呼ばれている人っていたっけ?
さっと思い浮かべる中に、名前で呼ばれている者はいない。これは一体どういうことなんだろう?
隊長を見ると、隊長は何やら暫くの間美奈を見つめ、首を捻りながら言った。
「美奈、お前名字なんていうんだ?」
「はっ?」
予想とかけ離れた答えだったのだろう、思わず声をあげた計人を見ながら、隊長は淡々と述べた。
「俺も、多分鳥谷も、美奈の名字聞いたことないぞ?」
それって、美奈が名前だけ名乗ったということ? そう思って美奈の方を見ると、不思議そうな顔が眼に映った。
「あれ? でも隊長さん、私の名前知ってらっしゃいましたよね?」
言い当てられたし、と指摘する美奈に軽く頷きながら、さらっと告げる。
「あぁそれは、結城が報告の中で時々口にしていたからな」
よくよく聞いてみると、こういうことらしい。
「五十嵐の方は、報告主体だったからフルネームで聞いていたが、美奈の方は基本協力者とだけ言われていたからな。時々美奈って単語が混ざるんで、協力者の名前が『美奈』だと思っていただけだ」
つまり、当てずっぽうの決め付けだな、と言う隊長に、美奈は納得したように頷いた。
「そういえば、最初に正体当てられたので、自己紹介はしませんでしたね」
だろう? という言葉に、美奈がぺこりとお辞儀をする。
「では、改めまして。私の名前は山口美奈です。よろしくお願いします」
「あぁ、よろしくな。――これからは、山口って呼んだほうが良いか?」
「そうですね……、美奈と呼ばれるのに慣れてしまったので、よければそのまま『美奈』が嬉しいです」
「あぁ、分かった。こちらも、既にお前は『美奈』というイメージだからな。そのまま呼ばせてもらう」
「――と、いうわけだ。分かったか?」
「あぁ、すんげーよく分かった。」
何故か疲れたような顔をした計人が、げんなりと返事をした。
「どうしたの? 計人」
計人は、ふるふると首を振って呟く。
「一緒に住んでんのに、名前すら知らなかったのかよ……」
その後も、何かぶつぶつ言っていた気はするけれど、それはよく聞き取れなかった。
「ところで」
「ん? なんだ?」
「それを言うなら、どうして俺は『隊長さん』なんだ?」
「あ?」
「え?」
「俺は確かに結城の隊長ではあるが、お前らの隊を率いている事実はないんだがな。それに、自己紹介もしたはずだが」
これまた確かに。
「あぁ、そりゃただ単に、美奈の言い方真似しただけだ」
言われて美奈に視線が集まる。
「隊長さんを『隊長さん』って呼ぶ理由ですか? うーん、最初に会った時、私は個人というより隊長という役職を持った人を探していたからですかね?」
私のことを助けてくれるであろう『隊長』と話を進める必要があったから、名前より役職の方が重要だったということのようだ。
改めて、心配かけてたんだなぁと思った。
ごめんね? 二人とも。




