観察結果 隊長
俺が、美奈を監視することになって数日。
まずは、順調に同じ家に入り込むことが出来た。
協力してくれた五十嵐に感謝だ。
しかも、初日は結城も同じ家に泊まり、同じ部屋でガールズトークとパジャマパーティーをしていた ――俺達男性陣は、客室をそれぞれ一室ずつ借りた。助かる―― ので、これ以上ない程の監視体制に出来たし。
だが、この状態をいつまで続ければ良いのか、全く想像出来ないのが問題だ。
最初は、タイミングを見計らって美奈の力を封じてしまえばよいと思っていた。
いくらなんでも、自分の世界で鳥に変身したりするような機会はないだろうし、使われない能力ならなくても同じだろう、と。
しかし、美奈は夢人だという。
夢人が力を封じられたら、共鳴は起こせなくなってしまう。今まで出来ていたことが出来なくなるようなことは、勝手には出来ない。
かといって、共鳴は出来るようにした形で他を封じるというのは、前例もないため出来るのかも分からない。
それに、どうも美奈は無意識の内に力を使っているようだ。
五十嵐の手伝いで異界からの痕跡を見つける時など、自分の周囲から網目状に探知の力が走っていくのが感じられる。
これを封じてしまうことは、美奈にとってはいきなり眼が見えなくなった、という状態に近いのではなかろうか?
――問題は、何故そんな力を意識もせずに使えるのか、だが。
この地界は、力の行使という概念が殆どない。せいぜい、超常現象や魔法といった、想像上での力として存在する程度だ。
世界に共鳴する程度ならともかく、自分自身に宿る力を変化させ、望みの結果を引き寄せることなど、力の存在を知らない人間に出来るものだろうか?
――まぁ、実際に出来ているのだから仕方がないか。
美奈が力を使える今、何故そんなことができるのかを考えても、問題の解決にはならない。
俺は、現実逃避の様に逸れていく思考を感じ、ため息をついた。
「厄介だな」
「何がですか?」
「!?」
思わず言った独り言に返答が返ってきて、声のした方を向く。
そこには、お茶と茶菓子を乗せたトレイを持った美奈が、こちらを覗き込むようにして立っていた。
「こんばんは、隊長さん。お返事がなかったので入ってきてしまったのですが、驚かせてしまいましたか?」
なんでも、お茶をしようと来たが呼んでも返答がなかったので、出かけているのかと思って中を見ようとしたそうだ。
「あ、あぁすまない。少し考え事をしていた」
「何か問題ですか? 私でお力になれることがあるなら、お手伝いさせていただきますよ」
そう聞かれるが、さすがに本人には何も言えない。
「いや、平気だ。それより、美味そうだな、それ」
誤魔化すために持ってきた菓子へと水を向けると、ぱっと笑顔になる。
「そう見えます? 今日のは結構美味しく出来たと思ってるんで嬉しいです。お時間あったら一緒に食べませんか?」
「あぁ。これ、美奈が作ったのか?」
竹の器に入った綺麗な色の水羊羹を見る。冬真っ只中であるうちと違い、こちらは暑いため、清涼感のある瑞々しさがなんとも美味そうだ。
「はい。結構簡単に出来るんですよ。」
甘さとか味も好きに調節できますしね、と笑いながら椅子に座る美奈を見て、いっそのこと、こいつを危険人物扱いしている頭でっかち共をここに連れてきて、害の欠片も見えない美奈を十分に思い知らせればいいんじゃないか、という考えがよぎる。
――まぁ、無理か。
あんな嫌味なやつらが大挙して押し寄せてきた日には、美奈がストレスで倒れかねない。
危険を冒してまで友人を助けるために動き、今また一度出会った事がある程度の人間に手を差し伸べるような心優しい人間が、悲しみで心を曇らせることがないように守らなければ、と強く思った。




