いらつき 計人
――くそっ、梨亜のやろー。
心の中で悪態をつきながら、風呂に浸かる。
美奈に「そっちは隊長さんと一緒に入ったら?」と言われたのを、断固拒否して ――何が悲しゅうて、野郎二人で一緒に風呂なんて入らなきゃならねーんだ!―― 一人入っている風呂は、客室用備え付けと違って、大浴場というに相応しい大きさだったが、俺のいらつきを抑える効果はないようだ。
背中を壁に預けながら、さっきのことを思い出す。
人を「匹」呼ばわりするようなやつには天誅を、と、色々痛めつけられた。――踏まれた足は、骨折でもしたんじゃねーかって程痛かったからな。
『そんな失礼なこと言うやつに、美奈はどうしてこんなに寛大に付き合っているのか、理解に苦しむわ』
うるせー、付き合いなげーんだよ!
『あんな素敵な恋人に相応しくなるよう、努力しようとは思わないの?』
知るか! 美奈は文句言わねーよ! つか、そもそも、恋人じゃねー!
『あれだけずっと一緒にいて、付き合ってないなんてあり得ないでしょう?』
幼馴染みが一緒にいて何がわりいんだ! 大体、あれだけ一緒にって言うんなら、俺と一番一緒にいるのはお前じゃねーか!
『私達は仕事。それ以外の意味は一切ないでしょうが』
「あぁ、くそっ」
ああ言えばこう言う澄ました顔を思い出すたび、異様にむかつく。
ついでに、そんなことでむかつく自分にもまたむかついて、俺は何かを振り払うかのように、勢いよく湯から出た。
「お疲れ様ー、水菓子どうぞ?」
広間に行くと、美奈がとりどりの果物を用意していた。
「おぅ」
皿を貰って、ひょいひょい好きなのを取っていく。
「少しは感謝とか、遠慮とかしたらどうなの?」
またうるせー事を言うやつがいる。
「もう洗ってあるもんを残したってしゃーねーだろうが。――サンキュな、美奈」
どういたしまして、と笑う美奈とは大違いだな。全く。
「計人一人のためにあるんじゃないの、皆で食べるためのものなんだから」
気にせず取り続ける俺に、むっとした表情で言い募ってくる。
「皆のもんなんだから、俺が取ったっていーだろーが」
「皆が取れるよう、気を使えって言っているの! 大体、計人はいつも美奈に甘えすぎなのよ」
「あぁ?」
「何? 正論過ぎて言い返せないからって、脅すなんてみっともない。大体、計人は……」
段々とヒートアップしていく俺達を見て、たいちょーさんが口を出してきた。
「結城」
名前を呼ばれただけなのに、梨亜は背筋を伸ばして、ピンとそちらに向き直る。
「はい、隊長」
「ここは他人様の家だ」
「申し訳ありません。ただ、計人が……」
「結城」
隊長がもう一度呼ぶと、梨亜は項垂れ、素直に謝った。
「はい、すみません。――美奈もごめんね?」
「ううん、にぎやかで楽しいよ」
が、俺に対してはなかった。おい。
それどころか、むかついて睨んだ俺に、ふんっと顔を背けやがった。
何か苦いものを含んだような顔をして額に手を当てた隊長を尻目に、俺達の仁義なき戦いは再開された。
美奈はというと、暢気に両方頑張れ~、と笑っていた。
呆れきったたいちょーさんに見放された戦いは、夜遅く、美奈が「梨亜ちゃん、一緒に寝ない?」と引き離すまで続けられた。




