交渉 梨亜
「ところで、隊長さんは、ご用事はもう終わられました?」
そう尋ねられ、はっとする。
ご飯のあまりのおいしさと、隊長が存在感消していたことで忘れかかっていたけれど、本来の目的は、隊長を美奈の家に入れることだった。。恐るべきご馳走の魔力!
用事はあなたの監視です、と言ったらどんな反応するだろう……。
そんな事はおくびにも出さず、隊長が答える。
「いや、まだだ。暫くこちらにいることになるんだ」
「そうなのですか。では、今日泊まる場所とか、もう決まってらっしゃるんですか?」
早めに決めておかないと、もう暗くなるし、という美奈。
「まだなんだが、どうするかと思ってな」
どういうことでしょう? と首を傾げる美奈に、
「基本的に、作業を地界人に見られるわけにはいかないし、夜中に出たり数日戻らなかったりする可能性もあるから、ホテルは難しいかと思ってな」
と隊長。
まぁ、隊長一人でホテルは難しいだろう、色々、そう色々と。
「かといって、部屋を借りるというのも、いつまでいるのか決まっていないし、そもそも、そんなに資金が潤沢に用意されているわけでもないしな」
こちらの戸籍を用意するのも面倒だし、と呟く隊長。
――用意しても、隊長では契約出来ませんよ、等と言ってはならない。絶対に。
「ちなみに、おれんちは、居候一匹でいっぱいいっぱいだからな」
むかっ!
横からちゃちゃを入れる計人に、ひとまず応戦する。
「一匹って何よ、匹って!」
「あぁ? 居候のくせに、態度でかいんじゃねーの?」
「いてもらっている身で、図が高いんじゃないの?」
こちらが仁義なき戦いを繰り広げている間に、美奈と隊長の話も進んでいたらしい。
「……駄目ですよ、野宿なんて! うちのホテルなら、言われない限り中に入りませんし、融通は利かせられますよ? 無料でいいですし」
「申し出はありがたいが、さすがにそこまでは甘えられん」
「料金なら、滅多に使われない特別室を使ってもらうので、こちらもメリットあります。空き室を痛まないようにするのは、結構手間かかりますから」
「それは、結構難しいと思うぞー」
ちゃっかりと二人の話を聞いていたらしい計人が、横から突っ込みを入れた。
「え?」
「確かに、お前が言えば大抵の無茶は通るだろうけどな。でも、さすがに小学生が何も言わずに数日間空けたり、夜中に出て行ったら、ホテルは心配するだろ」
何せ、オーナー様がくれぐれもよろしく頼んだ相手だしなぁ、とうんうん頷く。
横で、隊長が黒いオーラを出し始めているのは見なかったことにしよう。うん、小学生って言ったのは私じゃない。私は何も聞いてない。
「それに、補導でもされようもんなら、何で子供だけでそんな長期間泊めたんだとか、夜中出て行くのを止めなかったのかとか、色々面倒くせーこと言われると思うぞ」
計人の指摘に、美奈はうーん、と考え、何やら計人の方を見るが、即座に無理、と断られている。
どうやら何かを断られたらしい。何を頼んだのかも、どう断ったのかもさっぱり分からないが。
相変わらず、二人は何も言わずとも分かり合えるようだ。――便利でうらやましいこと。
何となくもやもやした気分を感じていると、暫くの間腕を組んで考えていた美奈が、一度計人の方をちらりと見てから、隊長へと顔を向けた。
「なら、いっそのことうちに泊まりませんか?」
思わず、はい、是非ともお願いします、と言いたいのを堪え、聞いていないふりをしながら計人をつねる。――少しあちらに注意を取られたが、こちらの仁義なき戦いはまだ続行中だ。
「それは正直助かるが、平気か?」
「はい、部屋だけは沢山余ってますので。但し、時々私の趣味の料理に付き合ってもらうことになりますけれど」
ふふふっと笑いながら美奈がいうことには、基本的に、料理は家付の料理人 ――最早突っ込みを入れる気力もない―― がやってくれるが、時々自分で作りたくなるそうで、その時は家中皆が美奈の手料理を食べることになるそうだ。
「計人計人、この家ってどれ位人が住んでるの?」
思わず気になったことを、こっそりと尋ねてみる。
「んー、ここ、本宅じゃねーからなー。殆ど通いだったと思うぞ?」
「えっ!?」
このお邸が別宅……?
「それって、本宅はもっと大きいっていったりする?」
「そりゃ、別宅より小さい本宅ってあんまりないんじゃねーか?」
ですよねー。
「とりあえず、日中いるのは十人かそこらだろうな」
いまいち、多いのか少ないのか分からない。普通に考えれば、美奈一人に十人ってのは凄いと思うが、このお家を掃除するだけだって大変だろうし。
こんな凄いところのお嬢様を監視なんてして大丈夫かしら?




