不審人物 2 計人
まるでリトマス試験紙の様に顔色を変えた梨亜に、感心と心配とを同時にしつつ、とりあえず反応をみるため、しばらく様子を見ていることにする。
――しかし、いい天気だな。
ポカポカとした陽気と濃い緑の香りに、一人ゆったりした気分になっていると、突然のどかな雰囲気をぶち壊して挙動不審な動きをする影が一人。
「け、けけ、け、計人さん……」
俺はそんなくどい名前を持った覚えはないんだがな。ってか、こいつに『さん』付けされるって初めてじゃね?
「出来ますれば、只今までの会話は忘れていただけますでしょうか?」
祈るように手を組んで、すがりつくような眼をこちらを向ける。
ものっそ真剣だな、おい。そんなに隊長に聞かれたらマズイ話だったら、最初っから言うんじゃねーよ。
あまりの低姿勢に呆れ、思わず心の中で突っ込んでいると、
「お願いします! どうかご慈悲を!」
と言って、何と土下座してきた。マジか!? 道路だぞここ。
「……って、おい! やめろ、立て!」
この状態はまずい。
今のところ周りに人は見えないが、さっきから何人も通りかかっている人はいるのだ。
こんな所誰かに見られて、通りすがりの人たちに「ちょっと、見て。こんな公衆の前面で女の子に土下座なんてさせて」「五十嵐さんのところの息子さんよ、やーねー」とか言われてみろ!
どう考えたって、俺が悪者じゃねーか! 俺は今後もこの街で生活していく必要があるんだぞ、少しは考えろ!
「分かった、分かったから! たいちょーさんには言わねーよ! 言わねーからともかく立て!」
恐る恐る上げられた顔には、うっすら涙が浮かんでいた。
「お前なぁ……。そんだけ困るくらいなら、最初からつくんじゃねーよ、そんな嘘」
ため息をつきながら、うっと詰まる梨亜の腕を掴んで立たせ、さっさと家に帰るべく歩き出す。
「ほら、帰るぞ。話しだいで協力してやっから、家で理由聞かせろ。なんかあんなら、とりあえず話せる部分だけでいいから」
「う、うん。分かった、ちゃんとした理由考える」
おい、考えるって言ってんぞ、こいつ。この期に及んで、ごまかす気満々かよ。
まぁ、今度はどんな嘘を考えるんだか見てみるのも悪かねぇんだが、最後まで理由を聞かないわけにも、無視する訳にもいかねーんだろうなぁ。
下手に放っておいて、勝手に美奈にちょっかいだされても厄介だし、先にこちで聞いておかなきゃなんねぇよな。
しっかし、たいちょーさんが美奈んちに行きたいって……。何の意味があんだ? 少なくとも、ちょっと日本観光来たかった、とか、じゃ、ねぇよなぁ……。
考えれば考えるほど、面倒ごとに首を突っ込もうとしているとしか思えない自分にため息が出た。




