不審人物 1 計人
俺らが梨亜の世界に行ってからしばらく。
相変わらず、ちまちまと異世界の痕跡とやらを消していってる。
なんとなく、ボランティアの地域清掃員になった気分がするのは気のせいだろうか。
今日は美奈がいないため、小さな痕跡を見逃して梨亜に怒られたりした帰り。
梨亜が一瞬難しそうな顔をしていたかと思うと、勢いよく声を掛けてきた。
「計人」
「あ? 何だ?」
「えーっと、美奈なんだけどね」
「? 美奈に何か用か? 呼び出すか?」
携帯取り出しながら言うと、大慌てて手を振ってくる。
「いや、出来ればむしろ美奈にはオフレコでっ!」
変なやつ。
しばらく息を整え、落ち着いた梨亜が言うことには……。
「隊長と美奈が一緒にいられるようにしたい?」
「う、うん。出来れば、私が計人のとこ居させてもらってるみたいに美奈の家に居候、みたいな」
「何だって、またそんな?」
俺としては当然の質問だったんだが、それを聞いた途端、梨亜の眼が分りやす過ぎるほど明らかに泳ぐ。
「……おい、一体何の悪巧みだよ?」
「し、失礼な! そうじゃなくて、えーと」
何かを必死に考えた様子の美奈は、やがて顔を上げ、しどもどと言葉を繰り出した。
「そう、内緒なんだけど、その、た、隊長がね、えーと、そう、美奈を気に入ったみたいで!」
――おい、誰か、もうちょっとましな嘘のつき方教えてやれ、こいつに。
呆れてものも言えずにジト目になる俺に、更に言い募ってくる。
「だから、ほら、一緒にいた方が嬉しいじゃない? あっ、勿論、別に、付き合いたいとかそういうんじゃなくて」
とりあえず、そのまま黙って聞いてみることにする。
「勿論、美奈と計人の仲引き裂こうとか、邪魔しようなんてのは思ってもなくて、ただちょっと、近くに居られたらな、とかその程度で!」
うん、そうか。えらくたいちょーさんの心情に詳しいな、お前。まるで今必死に言い訳考えてるみたいだぞ。うん。
関西人でない俺でも、突っ込みたくなる。
「そ、それに、えーと……その」
駄目だ、こいつ。自分で何言ってるんだか、分んなくなってんじゃねーか?
「成程な」
俺がそう言うと、ぱぁっと破顔し、
「そう! だから、私達で二人の手伝いを……!」
勢い込めて言おうとするのを遮ってみる。
「特に、美奈の手伝いにはならねーんじゃねーの?」
適当な揚げ足取りに、必要以上に慌てる梨亜。
「え、えーと、うん、そうだけど」
「まぁ、手伝ってやるのはいいけどな」
途端に、がばっと顔をあげて、こちらを睨み付けんばかりに見つめてくる。だが、
「まぁ、まずたいちょーさんに、どれ位本気か聞いとかないとなー」
という言葉に、ピシッという音が聞こえそうなほど、見事に固まった。
「俺としても、大事な幼馴染みに、軽い気持ちでちょっと粉かけよう程度で近付くやつに、協力するわけにはいかないからな~」
わざと、気がつかない振りして、うんうんと続ける。
「やっぱり、本人の意思を聞いて、どの程度協力するか決めないとな。いやぁ、情熱的な想いが聞けるといいな~」
そう言って、ちらっと見た梨亜の顔は見事なまでに真っ青だった。
人って、追い詰められると本当に真っ青になるんだな。――大丈夫か? こいつ。




