帰宅 梨亜
「美奈、梨亜が疲れてる。先帰るぞ」
「え!?」
「うん分かった。気をつけてね」
いやいや、分からないでしょう! 私のされたことなんだよね? 議題は。私がいなくなってどうするの。というか、もう勘弁してあげて!
必死に待ってと言う声むなしく、計人につかまれ教室から離れていく私。
「計人……「駄目だ」
「美奈に……「駄目だ」
「私……「駄目だ」
先程からくり返されるやり取り。私が何か言おうとすると、計人がすかさず却下。
せめて、何言おうとしてるのかくらい聞いてくれたっていいじゃないかー!!
「学校には戻らせねぇし、あいつらには金輪際関わらせねぇし、美奈なら問題ねぇし、手を離すつもりもない」
不満げに口を閉じたら、ちらりとこちらを見てきっぱりと言い切られた。分かってるなら、少しくらい交渉の余地を残せ!
「で、でも……「駄目だ」
計人はこちらにくるっと向き直ると、すわりきった眼でこう告げた。
「いいか、お前は下手したら大怪我したり、最悪死んでたんだぞ? そんなこと平気でやろうとするやつらに近づくな」
言って、また家に向かって歩き始めてしまう。
「だったら……「美奈はあんなやつらに負けやしねーし、自分が危なくなるような真似はしねぇ」
「そ、そんなの……「ああ見えて、美奈は護身術を学んでる。そもそも危険だと感じる場面にはしねーし、万一のことがあっても、武術一般身につけまくってるあいつが負けることはねぇよ」
「あ、あのね……「いいから。おとなしくいい子にしてろ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でられ、反論すら許されないまま家まで着いてしまった。
家に帰ると、計人がティーハニーのたっぷりかかったパンケーキを作ってくれた。
「おら。ホットケーキミックスのだから、あんまふわふわじゃねぇけどな」
「ううん、そんなことないよ。ありがとう、美味しい」
メープルシロップも美味しいけど、ティーハニーも何だかほっとする味がする。
「それ食ったら、風呂入っとけ」
大変な目にあったんだから、ゆっくり体を休めろよと言いながらオレンジジュースをことんと置いて、向かい合わせに座られる。
――確かに埃っぽいかも。
倉庫でついた埃を落とすため、言うとおりにお風呂へ入ってバスタブへ沈み込む。
まだ夏が猛威を振るっているこの時季にお風呂に浸かるのは流石に熱いかもしれないとも思ったけれど、周りが熱いので、却って体の芯が冷える気がした。
――また二人に迷惑掛けちゃったなぁ。
暢気に少し待ってから助けを求めればいいや、なんて考えていたせいで、結局二人を物凄く心配させてしまった。
美奈が怒るところなんて初めて見たし、計人だって眉間の皺が固定してしまいそうだ。
こんなことなら、周りに変だと思われようと気にせず、さっさと出てしまえばよかったと反省しつつ、風呂から上がる。
――暑い。
せっかくお風呂で汗を流したばかりなのに、このままじゃすぐに汗まみれになりそうだったので、ささっと着替えて空調の効いたリビングへ向かう。
私が来たのを見た計人は、冷たいカルピスを用意してくれた。
「これ飲んで、じっとしてろ」
そう言いながら、私の手からタオルを奪い、まだ濡れている髪を取って拭き始める。
「計人いいよ、自分でやれるから」
「いいからじっとしてろ。心配しなくても痛めねぇようにすっから」
振り向いてタオルを取り戻そうとするも、すぐに前を向かされて頭皮のマッサージでもするかのように丁寧に拭かれていく。
タオル越しに伝わる手の感触が心地よく、段々と瞼が重くなっていくのを感じた。




