仲直り 梨亜
「梨亜ー?」
「梨亜さーん」
「もしもし、梨亜さーん?」
「もしもーし、聞こえていますかー?」
周りをうろちょろとうるさいな。聞こえてるけど答えないだけに決まってるでしょう?
「梨亜ちゃあん、無視されたら計人悲しい!」
あまりの気色の悪さに思わず反応しかけるけれど、我慢よ我慢。無視ったら無視。付け上がる隙を与えないようにしないと。
そんな決意も新たに、なおも色々話しかけてこようとする計人を視界に入れないようにしていると、
「――それ、ひょっとして私の真似?」
登校してきた美奈がにこにこと笑いながら声をかけてきて、ささくれた心が少し癒される。
――やっぱり美奈は可愛いなぁ。
「おぅ、美奈」
「お早う、美奈。計人が感染らない様に離れた方がいいよ」
私は美奈を守るべく、計人の半径1メートル以内に入らないように忠告する。
「ふふふっ。お早う二人とも。今回は何があったのかなー?」
美奈は私の忠告に逆らわず、計人から離れる ――丁度私を挟んで計人の対角線にくる―― ように近づきながら問いかけてくる。
「ちょっとした冗談を言ったたらだな。理解してもらえなかったってだけの話なんだが」
梨亜が過剰反応しちゃってな、と嘯く計人。
だけとは何だ! だけ、とは!
のうのうと言ってのけた計人に反論しようとしたが、その前に美奈が人差し指を突き出して、めっと嗜める。
「もし、本当にちょっとしたことだとしても、相手が怒ってるんだから謝らなくちゃ」
「はぁーい。――梨亜、ごめんなさい」
計人が、見た目だけはおとなしく、如何にも反省しましたとばかりの表情で謝った。と同時に、美奈がうるうるお眼々で見上げてきた。
「……ダメかな? 梨亜ちゃん」
さらに、とどめとばかりに懇願するように言われてしまった。
うっ。これは卑怯でしょう。
この ――物凄~く軽いのりとはいえ、謝られた―― 状態で許さなかったら、私が美奈を苛めているみたいじゃない!
計人を許す気は全くなかった私だけど、美奈の援護射撃が飛んできてしまったからには白旗をあげざるをえない。
「……二度はないから」
「ありがとう! 梨亜ちゃん!」
渋々と ――それでも釘を刺すのは忘れずに―― 許した途端に、満面の笑みの美奈にお礼を言われた。そのまま思い切りぎゅむっと抱きつかれたけど、ドキドキはしていない。うん、正常だ、私。
「ありがとー! 梨亜チャン! ……ぐぇ」
美奈に続いて抱きついてこようとした計人を反射的に殴った私は悪くないと思う。
「梨亜サン、暴力は良くないとオモイマス」
「計人さん、セクハラは良くないと思います」
「セクハラではありません。親愛の証、スキンシップです」
「暴力ではありません。教育的指導、愛の鞭です」
結局、私達の仁義なき戦いは、クラスメイトに見守られながらホームルームが始まるまで続いたのであった。




