「なかみえるちゃん」と勇者
その頃のグランディオーラ城内では…。
勇者の行動は約半ニールごと、フーリー大臣の下へと報告されていた。
大臣の私室となっている執務室に、分厚い書類を抱えた女性兵士が現れ、勇者の行き先と目的、滞在時間が伝えらる。
精霊坑道での大立ち回りについては「見張り役」が同行せず、単に大勢の子供を保護したとだけ報告された。
それよりも…。
大臣は受け取った紙束をめくり、声を荒げた。
「彼らはカーモ家に行って何をしていたのだ!」
フーリー大臣の表情が一変し、報告していた兵士が驚いて数歩後ずさりを。
勇者が「ごむだっく」を大量に仕入れようとカーモ家に向かったと兵士が伝えると、フーリー大臣はため息交じりに「そうか…」と吐き出すように喋り、しばらく押し黙ったままとなる。
「勇者殿がカーモ家へ近づかぬよう見張りを強化するように。「ごむだっく」が必要なら、今回、タングラートへ出荷する分を勇者殿に回せ。そろそろ他の「入れ物」を用意する時期だ」
女性兵士を下がらせ、執務室のドアロックを確認してから本棚に触れる大臣。
本棚が左右にずれると、隠し昇降機が出現した。
大臣は扉を開けて狭い箱に体をねじ込むと、下向きの矢印を腹の肉を使って押す。
扉が自然に閉まった箱は三十メーエルほど下り、そこで再び扉が開く。
扉の先には魔導ランプに照らし出された五十メーエル四方の大部屋。
いくつかの作業机が並んだそこで十数人の男女がせわしなく動き回り、一抱えほどもある部品のようなものを組み上げていた。
フーリー大臣は作業を監督していた男を呼びつけ、耳打ちをする。
「カーモ家からの材料搬入を一時取りやめた場合、何日ほど持つ?」
「大臣、あの材料の備蓄は一日ないし二日程度で…」
「まぁ、それなら良いか。どうせ明後日には「お帰り」に…」
大臣は組みあがったばかりの部品をいくつか確認した後、昇降機に体をねじ込み地上へと戻った。
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お子様達を一時商業ギルドに預け、貴族街にあるホテルへと戻った僕達。何故かコルトさんも。
お仕事は大丈夫なのかなと思ったが、コルトさんが不在の時はスキンヘッドのいかついおっさんが代行するらしい。
ホテルのロビーに入ると縦横高さ1メートルほどある黒地に金色の豪華な装飾が施された箱が鎮座し、その箱の前には数人の兵士の姿が。
「預言書の勇者様、国王陛下からのお届け物でございます」
グランディオーラ国王から?
兵士全員が片膝をつき、そのうちの一人が仰々しい挨拶を。
ふたが開かれると、中身は黄色一色であった。
「「あひるちゃんなの!」です!」
双子が僕によじ登り、目を輝かせる。
つい先ほど入手困難といわれた「ごむだっく」が割とぎっしり詰まっていたのだ。
「古代遺跡でのご活躍の褒美の一部としてこちらを」
軟禁された方からの贈り物か…何かありそうだ。
ルティリナがいればにおいで危険の有無を調べられたのだが…。リトルマイアさんからの危険信号は今のところ出ていない。
相手に不信感を与えぬよう、ひとまず受け取っておくことにした。
しかし、いつまでもロビーに放置するのも…。
まずは部屋に持ち帰り、中身の確認である。
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最上階のスイートの床に、大小さまざまなあひるちゃんが散らばっている。
「「このこもおへんじがありませんなの」です」
双子は片っ端から「おはなし」を試みているが、今のところ全部「はずれ」である。
「ぐえ?」と疑問系で鳴いたあひるちゃん。ちらばった「ごむだっく」の間を走り回り、自分の仲間がいないか探している。
うちの子達もサイズ別に分類するという作業をしている。
「勇者さま、この子はおなかのところが開くようですが…」
少し大きめの「ごむだっく」を調べていた姫さまが、裏側にふたのようなものを見つけ、早速開こうとしていた。
「姫さま、いきなり開けないようにね」
黄色いボディを光にかざしても何も見えない。
何か調べる手立ては無いだろうかと…。とりあえず振ってみるのも危険なので、ああ、姫さま!早速シェイクを!
「「マスター!すまほーちゃんでちぇっくなの」です」
双子に「すまほーちゃん」を渡すと、何かのアプリを起動し、カメラ部分を「ごむだっく」に向けた。
相変わらず原理は不明だが「ごむだっく」の内部構造が白黒で映し出され、中には何も入ってない事が確認できた。
「非破壊検査装置か!」
中身を確認した「ごむだっく」のふたを開いてビーンズと呼ばれる補助銅貨を入れると、画面に銅貨のシルエットが映し出された。
ついでに組成まで分かるようで。
「うお!それはいったい何なのだ!」
コルトさんが謎の叫び声を上げ、僕に飛びついてきた。
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「密輸の取締りですか?」
「勇者さま!なりませぬ!」
鼻息を荒げたコルトさんはどこかの冒険者ギルド長のように僕にへばりつき、姫さまがひっぺがそうと必死になっている。
「うむ。粗末な置物をくりぬいて高価な物を詰め込み、通行税をちょろまかそうという輩が横行しているのだ」
急激な増税が原因のようで、それ以外にも国外への持ち出しが禁じられた特殊な精霊石などを詰め込むなど、取り締まるのが難しいという。
僕達の話を聞いていた双子が、早速魔帯石のきれっぱしを準備している。どこで拾ってきたんだろうか。
「「せいれいさん!こたえてくださいなの!」です!」
さいせいくんRXほどのサイズの石材が眩しく輝くと、スレートPCのようなデバイスが完成した。
「「マスター、「なかみえるちゃん」かんせいなの!」です!」
「パーソナルリグ」の機能限定版、正面に表示用魔導陣、背面にカメラ用の魔導陣が埋め込まれた内部構造を見るだけというシンプルなものだ。試作ということで録画機能などもついていない。
人に向けると画面に白っぽいシルエットが浮かび上がり、お財布や武器などに黄色や赤といった色がつく。
ちなみに被験者一号は僕である。いきなり女性に向けてすっぽんぽんが表示されてしまったら大変なので。
シースとレーネ、何かとんでもないものを作ってしまったような気がするが…。
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11/26 誤字修正
カモー家→カーモ家
ご指摘ありがとうございます。




