黒髪の悪魔
「ひめたべラジオ第九回放送」
王妃「ひめたべラジオ9回目、今日はマッスルキングさんとオパールがお届けします」
筋肉「最近出番が少なくて、筋肉が固まってしまいそうです」
王妃「だからと言って討伐依頼の出ていない巨大魔獣退治に出られるのはおやめください!シルフィールが心配しますから」
筋肉「…はい、気をつけます」
王妃「それではお便りの紹介を。ペンネーム「しらゆきひめ」さんから。「勇者さまと早く結婚したいです!お父様の力でなんとかしてください!」」
筋肉「よし、分かった早速手配しよう」
王妃「国王、ちょっと待ってください。この筆跡は…あなたの?」
※スタジオ裏でとっちめられる国王
王妃「大変お騒がせをいたしました。それでは来週の放送をおたのしみに!」
とりあえず戦闘は終わった。
一度、ギガンティスさんの屋敷に戻ることにした。
下着姿で気絶している少女は目の毒なので、例によって僕の上着を巻いてある。
小型のゴーレムは用意してもらった荷車に載せて、赤竜王で牽引する。
この少女に聞けば捕まった魔族の人たちの情報が分かるかもしれない。
気絶した少女とゴーレムはギガンティスさんの許しを得てからライスリッチフィールド城に運ぶ予定だ。
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「分かりました。ゴーレムとその少女の身柄は勇者様に預けましょう」
残りの外套の一味は、最初に捕まえた連中と屋敷の地下に閉じ込めてあるが、ライスリッチフィールドに引き渡すという。
半日程度のつもりがすでに滞在2日目になろうとしている。姫さまもこちらに来てしまっているので一度帰らなければならない。
どのみち外套の一味を引き取りにもう一度くることになるだろう。
帰る前にフィリーの様子を見ることにした。
フィリーはまだ眠っている。ゼオライドはフィリーの看病をしながらうつらうつらしている。
姫さまがフィリーの手を取り、顔色を見てから僕に訴える。
「勇者さま、フィリーにヒールをしてあげたいのですが」
ギガンティスさんに許可を取り、あまり強くないヒールを行うことにした。
姫さまがヒールを行うと、姫さまとフィリーの治療魔導具が共鳴を始めた。
姫さまとフィリーを中心に淡い光が広がり、部屋中を満たす。
「これは…レンジヒール!」
ソネッタさんが驚く。一定範囲内の対象にヒールを行える力のことで、2人以上の術者が放つ治療魔導の波長がきれいにそろわないと起こらないのだそうだ。
そういえば、姫さまとフィリーはいつも一緒にヒールの練習をしていたけれど、これほどの力を秘めていたとは。
オパール王妃のヒールにも匹敵するくらいの力強さを感じる。
ちなみにフィリーが瀕死の僕に使った力は純粋な妖精の力で治療魔導とは違うらしい。とおせっかい精霊が教えてくれた。
部屋に溢れていた光が収まる。フィリーはもちろん、長い間王子の怨念に蝕まれていたゼオライドや牢に閉じ込められていたギガンティスさん、奥さんの体調もよくなるというおまけもついた。
僕?ゴーレムの少女に当り散らしたのがどうしてだろうってくらいに心穏やかになりました。
もしかしてストレス?ハゲルノ?チルノ?(毛が)
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「それでは、改めてフィリーのお見舞いに来ます」
「勇者様、お気をつけて」
ノーマンに門を出してもらい、ライスリッチフィールド城へと戻る。
緊急事態なのでなるべく城門に近い場所に出られるようお願いをした。
荷車を牽引した赤竜王を見た門番が驚いていたが、事情を話して宮廷魔導士長のサバンナさんとシルビアさんを呼んでもらう。
城の中でゴーレムが暴れたりするとやっかいなので、城の外で検分をしてもらうつもりだ。
万が一があればすぐに呼んでもらうことにして、僕は「自宅」へと戻った。
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庭先のいつもの場所に赤竜王を停める。
全体を覆える仮の天幕と洗車?用の足場なども用意してもらってあり、さながら整備工場のような雰囲気である。
ちなみに例によって遮蔽魔導が掛けられており、外からはただの青い芝生にしか見えない。
ソネッタさんに手伝ってもらい、もえと姫さまをコクピットから降ろし、まだ目覚めない後部座席のお客人も抱えて降ろす。
ゴーレムに乗っていた少女。
まだ体のあちこちに緑色の液体がこびりつき、わずかだが異臭もする。
「よし、風呂だ」
僕はナタリアを呼んで風呂の準備をお願いした。
そして僕はなぜか見逃していた。コクピットからふよふよと漂い出てくるもう一人の客人を。
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「で、ソネッタさん。どうして僕も?」
「エイトさまが身柄を任せられたのですから、調べるのは当然ですわ」
いたずらっぽく言うソネッタさん。
調べる=身体検査的な?
ソネッタさんには逆らえないので、僕もいつものバミューダを履いて風呂に入る。
セパレートの水着に着替えさせられた少女をソネッタさんとナタリアが支えて洗い場で待機していた。
ここで目覚められると非常にまずいなと思いつつ、ささっと背中を流そうと思ったら
「だめですよ、エイトさま。乙女のやわ肌はもっと丁重に扱っていただきませんと」
仕方ないのでジョブ「風呂屋の三助」を起動する。
「んっ…ふう…」
どうも魔力のコントロールがうまくいかない。この子自身の魔力が強いのか、僕の魔力もそれに引っ張られるようだ。
意識が無いはずなのに、なぜか悶える少女。
一緒に入っていた姫さまが浴槽の中からこちらをにらんでいる気がする。
とりあえず、少女の体を確認する。魔力の流れが異常なのは置いといて、見た目はおかしなところはなさそうだ。
お約束的な教会の紋章なども無い。
髪は金髪のようだが、例の緑色の液体のせいか、くすんだ緑がところどころ入っている。
山脈は並盛りだが今回の案件にはあまり関係ない?
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ようやく少女を洗い終わり、少女はソネッタさんとナタリアに頼んで着替えさせてもらうことにして僕は浴槽に沈む。
すこしむっとしている姫さまが近づいてくる。
「勇者さま、危ないことは控えてください…」
僕が赤竜王を飛び出して、ゴーレムの前に立ったことを責める姫さま。
タヌキ大臣のゴーレムを思い出して怖くなったという。
「ごめん…」
思わず姫さまを抱き寄せる格好になってしまったところで、ソネッタさんの割り込み(インタラプト)が!
少女が目覚めたという。
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何度も言うが、この家では女性の普段着はメイド服になる。
ソネッタさんの威光(字が違う気がする)による。
先日来た魔族の娘、サフランとその護衛のランサーさんも例外ではない。
そして期待の新人、「はうはうどっぐ」のかえでにもメイド服が支給されている。
したがって、目の前にいる少女にもメイド服があてがわれているのだが。
ソファに座り、エプロンの端っこをさわさわして落ち着かない様子である。
「…偽勇者」
「できればそれはやめてほしいです。勇者というのに抵抗があるなら名前で。僕はエイト・マスダという」
「エイト…」
「後ろに浮かんでいるのはエイトが殺した女性の霊ではないのか?」
「…来ちゃった」
「これはただの妖精です、あと僕は人殺しなどしたことはありません」
何故ソニアがいるのか、とりあえずうめぼしを放って撃墜して話の続きをすることに。
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少女はアルマと名乗った。偽名なのかどうかは分からない。
教会に出入りするきっかけになった母親の病、偽勇者に関するひどい情報、ゴーレムに乗ることになったのは教会への恩返しだということも再度確認した。
誘拐された魔族に関する情報は得られなかった。
しかし新たな情報を得た。それは黒髪の女性の存在。
こちらの世界では真っ黒な髪というのは非常に珍しいようだ。癒しマイスターこと、リーナの髪が黒に近いが、それでも青みのほうが勝っている。
「ゴーレムはその女性が関わって作っているのか…」
加えて、僕に関するひどい話の根源もその女性らしい。何か恨みを買うようなことをしたのだろうか。
アルマは落ち着かない様子で居間を見回す。
姫さまとサフランは来週から行くことになった学校に備えての予習。
もえと双子は「すまほーちゃん」を使って何かよからぬ相談をしている。
ルティリナとかえでは「はうはうどっぐ」状態で仲良く就寝中だ。
ナタリアはてきぱきと片づけをしたり、姫さま達にお茶のおかわりを運んだりと忙しそうだ。
目つきのするどいメイドことカレラさんとサフランの護衛のランサーさんは庭先で剣術の稽古をしている。
「まだ、疑っているの?」
アルマは僕が奴隷を買って酷いことをしていると聞かされていたという。
「しばらく様子を見させてほしい。それと…命を助けてもらった礼もしたい」
ゴーレムから降りた際に外套の一味に矢を射掛けられたのは覚えていたようだ。
「ソネッタさん、アルマの家族の保護をお願いしたいのですが」
もしかしたら向こうはアルマが寝返ったと思っているだろう。当然家族の命も危険にさらされる。
「エイトさま、すぐに手配をいたしましょう」
アルマはびっくりしていたが、ここまでやらないと気がすまない。
アルマの住んでいる村に「メイド隠密部隊」が派遣され、ついでに教会も殲滅されたが、誰がやったのか知る由も無い。
もっと言えば、アルマの母親の病気もアルマの魔力を欲した教会の陰謀だったようだが、いまさら伝えることでもないだろう。
こうして、だだっ広い「自宅」の一室に見習いメイドのアルマとその母親が住むことになった。
何か忘れてる。
ああ、ソニアだ。このおさわがせ妖精がとんでもない事件の火種になったりならなかったりするのはもう少し先の話である。
国王様は勇者に玉座を明け渡して、自分は魔獣退治を続けたいようです。
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9/30 typo修正しましま




