薬師、薬に溺れる
刺客かと思いきや…。
震えるミランダからお酒の乗ったトレイを受け取り、僕用に用意されていたガウンを着せてベッドに座らせる。
僕はドレッサーの椅子をベッドの近くに運んで座る。
「ミランダ、ゼオライドさんに何を頼まれたの?」
ミランダはトレイの上にある小さなビンを指差す。
「勇者様にあの薬を飲ませるよう指示をされました。出来なければ屋敷から追い出すと…。」
ミランダがこうやって白状するのも織り込み済みだとしたら。僕はまんまとはめられたのか?
「その薬だけど、命に関わるようなものなの?」
ミランダははっと顔を上げ、首を横に振る。
「いいえ、勇者様からフィリーさまの記憶だけを消す薬だと聞かされています」
「フィリーの記憶?僕から消せばどうなるの?」
「勇者様からフィリーさまの記憶を消し、その状態でフィリーさまのお見舞いをさせようと。そうすれば自分のことを忘れてしまった勇者様に幻滅して・・・」
「して?」
「フィリーさまは勇者様に恋をなさっています」
「!」
「ですから、フィリーさまが勇者様のことを嫌いになるように仕向け、以前のようにゼオライドさまを好いてもらうためには、勇者様にフィリーさまのことを忘れてもらうのが一番だと」
お見舞いに来た知人が初対面みたいな感じで接したらそれはびっくりするよね。
それなら、フィリーの記憶から僕を消せばいいんじゃないという疑問が。
「そんな危険なことは出来ないとゼオライドさまが。もともと記憶を消す薬は、妖精の国に偶然迷い込んで来た人間の記憶を消して人里に返すときに使うものです。妖精に使えば害が出る可能性もあります」
なかなかにデンジャーな感じがする。
「それは根本的な解決になるのかな…」
「はい、何度もゼオライドさまに進言しているのですが、ゼオライドさまは薬の力に頼るところが大きいようでして」
そういえば、ミランダの受け答えは12歳ぐらいとは思えないくらいしっかりしている。もしかして、またもや見た目と年齢の差が激しい人(ry
年齢を聞くのはやめておこう。
「勇者様はおそらく私の年齢のことをお考えのようですね。このお屋敷のメイドの中では最年長です…。いつも童顔といじられて…」
最年長といってもほかのメイドは皆若い。妖精の年齢がどうなのかは分からないが人間換算で20代半ばくらいだろう。
泣き出しそうになるミランダをなだめる。ついいつもの癖であたまをわしわしとやってしまった。
「エイトさま、そのくらいで」
ソネッタさんがややお怒りモードで登場した。おどろいて声を上げそうになったミランダに何かの術を掛け、眠らせるソネッタさん。
ミランダは2つあるベッドの1つに寝かされた。
「エイトさま、ベッドが1つしかありません。どういたしましょう?」
僕は空いたベッドに横になり、隣に空きスペースを作る。
「こうして一緒に寝るのはひさしぶりですね。エイトさまから溢れる魔力の波はとても心地よくて…」
結局朝までソネッタさんの山脈にしがみつかれ、ほとんど眠れなかった骨なしチキン野郎とは僕のことです。
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朝、気が付くとソネッタさんの姿は無く、ミランダはそのままの姿勢で眠っていた。
「ミランダさん、朝ですよ!早く起きて!」
ゆさゆさとミランダさんをゆすると、夕べは気が付かなかったが、なかなかの山間部が見え隠れする。
「はい!あの!夕べは大変失礼を?あれ、私はいったい…」
トレイの上のお酒は半分ほど減っており、お酒がすこし残ったグラスの横の小瓶は空になっている。
ソネッタさんが細工をしていったようだ。
「とても情熱的なお話を聞けてよかったですよ」
すこし意味深なことを言ってみる。実際は何も無かったのだが。
ミランダは顔を真っ赤にして乱れた寝巻きを直すと寝室を後にした。
僕は薬を飲まされ、フィリーのことを忘れている設定だ。すぐ顔に出てしまうのにうまくいくだろうか。
ゼオライドとの腹の探りあいがはじまります。




