僕の2時間戦争
いわゆる勇者のタイムシェアリングです。
「トップバッターはアイリスでいいんだな」
「あ、ああ。初めてなんだ。勇者、やさしく頼む」
「で、どうやさしくすればいいんだ?」
「そんなこと言わせるな!痛いのはいやだからな。そっとたのむぞ」
「それは困ったな。頭痛のするような難しい問題も出すぞ?」
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僕は罪滅ぼしのため、まずはお嬢様1人あたり2時間程度個別に拘束されることになった。
今日はアイリスとシルフィール、明日以降もえに双子、ルティリナの言いなりになる。
アイリスは最近勉強が遅れ気味で「学校」の授業についていけないというので、分かる範囲で教えることになった。
2時間の特訓でどうにかなるとも思わないが、少なくとも道筋だけはつけてやらないと。
こちらの世界では裕福な貴族でない限り、読み書きや簡単な加減算すら習えない。
筋肉の帝王がその改革をしている最中であるが、学校も教師もキャパシティ不足は否めない。
今は生徒を3回入れ替えでやっているそうだ。
アイリスは妹リーナの面倒を見ながら働き、勉強もして、僕のところに修行と称した暴力行為(!)にもやってくる。授業に出られないこともあり、どんどんと遅れてしまう。
妹といえば、最近、癒しマイスターのリーナをもふもふしていない。ルティリナとはまた違った手触りなのだ。
ルティリナはやわらかさの中にしっとり(アンダーコート)があるが、リーナは本当にやわらかさんなのだ!
脳内でろりけもみみをいじくりまわすシミュレーションをしていると、アイリスのうめき声が聞こえた
「で、どうだ。分かりそうか?」
現実世界に戻ってきた僕。
アイリスは今、二桁の減算に挑戦している。
ちなみにこちらでは反復練習といったことはしていないようだ。
僕はアイリスに教科書を見せてもらい、それに習って加算、減算の即席のドリルを作り、解かせている。
アイリスが悩んでいる間に、問題をどんどんと量産していく。ちなみになぜか紙はそれほど高価ではない。入手は比較的簡単だ。
理由は例の勇者本にある。あれを作るために魔導を用いた特殊な印刷技術と製紙技術が発達したらしい。「預言書」が関わっていることは確かだ。
ちなみに途中から問題製作に偏りが生じないよう、すまほーちゃんを使って僕の中にいる精霊女王の分身を呼び出し、簡単な問題作成プログラムを実行させている。
生体コンピュータでプログラムを作成するなんて、よく考えたらすごいことだよなと思いつつ。
プログラムと言ってもまずは計算式の概要を教え、次に同じような式を数字がなるべく重複しないように作ってと言うだけだ。本体と違って非常にものわかり(・・・・・)がいいので助かる。
1時間ほど経ったあたりでアイリスの頭から煙が出始めた。煙に見えるのはたぶんおせっかい精霊のいたずらだろう。
あまり詰め込んでもだめだろうということか。
「アイリス、ずっと勉強だけじゃ疲れるだろう、息抜きに打ち込みでもやるか?」
「よしわかった!」
「残った問題は持ち帰って時間があったらやってみればいい。今度来たときに答えあわせだ」
アイリスは問題用紙をすばやく片付けてかばんに押し込めると、いつものように木剣を持ち出し、庭先へと急ぐ。
「こい!勇者!ノックアウトしてやる!」
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打ち込みの間、シルフィール姫は木の影から様子を伺っていた。某アニメのおねいさんのような感じだったので思わず吹きそうになった。
「せいっ!やっ!とう!はっ!」
いつもの暴言が出ないのでこちらも調子が出にくい。
「いつもの感じで掛かって来い!」
とは言ったものの、なぜか不完全燃焼のまま約束の2時間が過ぎてしまった。
「アイリス、また今度な!」
「あんまりほかのおっぱいには触るなよ!」
ほかのおっぱいって…。
アイリスはしぱぱぱぱぱ!と走っていく。あれ、今日はスカートだったのか。しかも短い。
ちらちらと見える白い部分を目で追いながら見送る。アイリスよ、僕はおしりフェチでもあるんだ。
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「シルフィール姫、僕は軽く汗を流してきますので、しばしおまちください」
「う、うん。」
しどろもどろになる姫さま。
カラスの行水をして居間に戻ると、姫様が待っていた。
今日は簡素な若草色のワンピースに猫耳帽子をかぶっている。
「あのときの服?」
こくこくとうなずく姫さま。
姫さまが身に着けているのは、僕達が初めて屋台村に行ったときに使ったカモフラージュ用衣装だ。
僕は白い綿のシャツに茶色のカーゴパンツといういでたちだ。あと、アイリスに殴られたあざが治らないので即席の眼帯をしている。
「勇者さま、ちょっと座ってください」
姫さまは僕を座らせると、眼帯をはずしヒールをしてくれた。
いつもより治療の魔導具が強く輝き、ずきずきとした痛みは一瞬で消えてしまった。
「ありがとう、姫さま」
「これから出かけるのですから、護衛の方には能力を出し切っていただきませんと」
強く言ったつもりらしいが、姫さまは笑っている。
「さぁ、まいりましょう。お嬢様」
ソネッタさんに軍資金を借りる。
借金の額は聞きたくない。
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とはいえ城下町でいける場所は限られている。
今日は露天が立ち並ぶバザールに行くことにした。
屋台村ほどには集まっていないが、こちらにも食べ物屋がいくつかある。
クレープっぽい屋台があったのでまずはこれを買うことにする。
なにかのフルーツっぽいソースがはさまったものを姫さまと食べながら、露天に並ぶものを眺める。
食料品はもちろん衣類に生活雑貨、家具までなんでもそろいそうだ。
おせっかい精霊がほっぺたをつつくので、何事かと思ったら、アクセサリーショップがあった。
精霊は「BuyNow!」と書かれたキャプションつきで下向き矢印のマーカーを出している。
アクセサリー売りのおねーさんに声を掛ける。茶色いねこみみが愛らしく動いている。アビシニアンっぽい毛色だ。
「すいません、ちょっと見せてもらってもいいですか?」
おねーさんは僕と姫さまをすばやく見定めると、
「彼女さんへのプレゼントですか?どうぞごらんになって!」
目の前で山が揺れているが、見とれていたら姫さまに即殺されそうだ。
アクセサリを見ている姫さまの顔が緩む。ようやくいつものだらしない姫さまに戻ったようだ。
精霊の一押しは銀細工のついたチョーカーらしい。
「すいません、これを見せてもらってもいいですか?」
「お客様、お目が高い!これは精霊の加護があるといわれている精霊石をあしらった一品です!」
精霊の加護か…。姫さまは3つも持ってるよね。多くても大丈夫なんだろうか。
紫色のきれいな石のはまったチョーカーを姫さまにあてがってみる。
「おいくらです?」
露天とはいえ、結構な細工がしてあるからそれなりの値段だろうと覚悟を決める。
「200Rでどうでしょう?」
異世界物価換算によれば1Rは約100円となっています。と何処かのクイズ番組が脳内再生される。
2万円か。妥当といえば妥当だが、こちらの生活水準で考えると結構な金額かもしれない。
ちなみに荒稼ぎしようと思ったら上位種の出現で狩場が封鎖されてしまった「はいはいこぼると」1回討伐で50Rだったはず。
うっかり数千体ほど倒してしまった「りざーどまーん」の換金の連絡も無く、いまだに借金生活なのだが。
「はい、買います!」
100Rは銀貨1枚。まめちしき!と精霊の声が聞こえる。
10Rは鉄に似た材質の貨幣、1Rが銅貨。その下はビーンズといわれる銅の粒貨になる。コーヒー豆のような形をしていて1個が0.01Rらしい。
そんな精霊の言葉を聞きながら、ソネッタさんに借りたお金で支払う。
「あら、値切らないなんて不思議な人ね。これは150Rで売っても十分儲かるのよ?」
このおねーさんは商売に向いてない気がする。
「お店の内情をばらしてもいいんですか?」
「私は留守番だからいいの!せっかくだからおまけつけちゃう」
指輪とネックレス。それほど材質はよさそうに見えない。通販番組でありがちな全部まとめて19999円!送料は別!みたいなノリなんだろうか。
あと、ビロードのような材質の袋をおまけしてもらい、露天を後にした。
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池のほとりで果実汁を飲みながら休憩をする。
「勇者さま、さっきのチョーカーをつけてもらえます?」
「了解!」
きつくない程度に革のベルトを締める。よく見ると首輪にも見える。深く考えたらだめだ。
「勇者さま、似合ってます?」
「とっても似合ってますよ。おひめさま」
僕は「すまほーちゃん」で姫さまを撮影し、それを見せる。
姫さまは「すまほーちゃん」を見ながら言う。
「勇者さま、ごめんなさい。アイリスが来ることをちゃんと伝えていればあんなことには」
「謝るのは僕のほうだ。成り行きとはいえ、サフランと二人っきりで出かけてしまって」
いつのまにかじっと見詰め合っていると、「すまほーちゃん」のアラームが鳴った。
二人で思わず吹き出してしまった。
「さぁ、帰りましょう。勇者さま」
「姫さま、お手を」
人通りのまばらな道を「自宅」へゆっくりと帰る。
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そんな二人を遠くから恨めしそうに見つめる影があった。しかし、二人の周りには鉄壁の防御体制が敷かれている。
「ここはひとまず引くことにしましょう。ゴーレムバカの姉さまの出方も気になりますが」
黒髪をゆらした長身の女性はその場を後にする。
謎の人物が現れ、余計にややこしくなりました。
精霊一押しのチョーカーも気になります!




