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走れ!勇者暴走特急!

勇者の乗ってきた車視点のお話です。運転席には誰もいませんよ。

異世界から漏れ出した力によって偶然生み出された生命体。

向こうの世界では「精霊」と呼ばれる存在。


魔力のない世界では活動することもままならず、双子の姉妹は生まれてからずっと眠っていました。

いろいろな物に神様が宿るといわれる日本のとある工場で作られた自動車に「封じ込められて」から6年、鉄とアルミでできたゆりかごに抱かれ、「マスター」に会うそのときを夢見て。



---


勇者が目覚めて姫さまに体の自由を奪われあれこれされていた丁度そのころ。



国王の命令により、勇者の乗り物が調べられることになった。


「預言書」の指示により勇者との面会を明日にされてしまった国王が、乗り物を見るくらいなら大丈夫だろうとたかをくくったのが悪かった。


さわるなと言われればさわりたくもなる。

目の前におもしろそうなおもちゃを置かれてだまってみていられない男児の心境である。


「預言書」の思惑通りである。


---


「勇者殿の乗り物に万が一があったらどうするつもりだ!」


調査責任者が怒鳴った。


現場に緊張が走る。


勇者の乗り物の調査に当たっていた魔導士が測定器の操作を誤り、魔力を逆流させてしまったのだ。



一瞬まばゆいスパークにつつまれる車体。

調査責任者は顔面蒼白になる。


その瞬間、車載MPUの奥深くで眠っていた精霊の姉妹に魔力が流れた。

魔力が呼び水となって、勇者のいた世界では存在しなかったエーテルを吸収し魔力への変換が始まる。

彼女たちが眠っていた6年の間にサブシステムに蓄積されたさまざまな情報が一気に解凍され、「マスター」に関する情報がインプットされた。

それと同時に車体の制御権がすべて開放される。



真っ赤に塗られた金属で覆われた乗り物から、やや調子の強い声が聞こえた。


「「わたしたちをおこしたのはだれ?」です!」


だれもいない運転席。

インストゥルメントパネルに明かりがともり、バッテリー近くに配置されたメインリレーがカチカチと音を出す。

いくつかのセルフチェックの後、クラッチペダルがひとりでに踏み込まれ、セルモーターが唸りをあげる。


キュルルルルルルル! フォン! 


その場にいた誰もが乗り物を凝視したあと、一目散に逃げ出す。


「エンジンしどうかんりょう!オルタネータでんあつせいじょう。」

「オイルプレッシャーせいじょう!きていすいおんとうたつまでアイドリングぞっこう!です!」


乗り物の前からは子供の声が、後ろからは野獣が唸るような不気味な音が聞こえる。


雲の子を散らしたように逃げ出した兵士と魔導士が戻ってきて戦闘態勢に入る。


「だれか!シルフィール姫と勇者殿に報告を!」


一人の兵士が伝令に走った。



3分ほどにらみ合いが続いたそのとき、乗り物の目が光った。


「すいおんはこのくらいでよさそうですね」

「りょうかいです!」


「マスターはどこですか!」

「かくしだてするとようしゃしないです!」


突然点灯したライトにおどろき、車の前にいた兵士が一斉に避難する。


ふたたびクラッチペダルが踏み込まれ、ギアが1速にすべりこむ。

サイドブレーキがリリースされ、アクセルが踏み込まれると同時にクラッチペダルが戻る。


一瞬のホイルスピンの後、車体は何かにはじかれるように飛び出した!


呆然と見送る兵士と魔導士。


調査責任者が思い出したように叫ぶ。

「何をしている!勇者殿の乗り物を追うんだ!」



滑りやすい石畳の上を持ち主よりも上手にターンしたそれは、まだ見ぬマスターを探して暴走を続けた。


警備の兵士以外はおらず、だれにも危険が及ばなかったのは不幸中の幸い。


なすすべもなく剣を構えて右往左往する兵士を尻目に、野獣の悲鳴にも似た甲高いエキゾーストサウンドを奏でながらあてもなくぐるぐると走り回る。


「あちらにマスターのせいたいはんのうがあります」

「らじゃー!りょうかい!です」


カウンターをあてながら強引に進路を変更する。


そこは城からすこし離れた場所にある迎賓館。


迎賓館のとてつもなく大きなドアは先ほど伝令に走った兵士により開け放たれていた。


「よういはいいですか、れーねちゃん」

「いつでも!です!しすねーちゃん!」


アクセルが踏み込まれ、4輪すべてのサスペンションに魔力を集めて思いっきり縮め、一気にリリースする。


彼女たちにはマスターが見ていた海外ドラマのデータもインプットされていた。



「「ターボジャンプ!」」



魔力を開放し1.3トンの物体が空を飛ぶ!


迎賓館前、数メートルの高さの階段を易々と飛び越え、だだっ広い玄関ホールにワンバウンドで着地したあと、大理石の床に黒々とブラックマークを塗りつつハーフスピンをして停止する。


目的地は一番奥の部屋。そこからマスターの気配がする。


真っ赤なじゅうたんのしかれた廊下を進み、扉の前で停止する。


扉の向こうではすでに大騒ぎになっていた。


「いきなりおこされてきげんがわるかったとはいえ、すこしあばれすぎたかしら、れーねちゃん」

「です!しすねーちゃん!」


「「マスターにあいにいきましょう!」です!」


十分に魔力を得た精霊の姉妹は6歳くらいの子供の姿となり、顔を見合わせると仲良く手をつないでマスターのいる部屋へと飛び込んだ。




勇者は本日二度目のまな板攻撃を受けるのであった。

勝手に暴走する姉妹のお話でした。

元々は車の擬人化をしようと脳内で構想していた未発表のお話を焼きなおしたものです。

姉妹の名前は「れーねちゃん」、「しーすちゃん」つなげるとアレです。

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