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異世界に呼ばれた僕は姫様を食べるようお願いされた。  作者: まなみ5歳


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魅惑の癒し手(スーパーヒーラー)と恐怖の筋肉(マッスルインフェルノ)

勇者の下にやってくるのはようじよだけではありません。

新たなる筋肉の使者。勇者はどう立ち向かう!

そしてお風呂での惨劇とは!

「せいっ」


ぱこん!


「とりゃ!」


ぱこん!


情けない掛け声を出している僕は薪割りの真っ最中である。

結局剣の稽古らしきことはまったくやれない状態のため、少しでも基礎体力を付けようと斧を振るっている。

最初はもえが「ザ・シード」を渡してくれたのだが、薪に触れるだけで真っ二つになってしまうのでまったく訓練にならず、マーガレットさんに頼んで重めのバトルアックスを借りたのだ。

煮炊きと見張りの分の薪を製造する単調作業。姫さまの精霊の加護が続く間は体が楽に動く。


今回の調査は魔導士が大勢居るので煮炊きに魔力も使えるのだが、いざ戦闘時にガス欠という事態は避けたいので天然の火力に頼るのだそうだ。

割った薪は双子ともえが運んでくれる。


突然背後から声がした。


「よぉ、にいちゃん!精が出るな!」


「うわあああああ!」


それまで何の気配も無かったのに、突然声をかけられておしっこちびりそうになった。

バトルアックスを盾にして振り向くと、ガタイのいいおっさんが立っていた。

暗い茶色の髪に青い瞳。かなりもじゃもじゃの無精ひげ。

ただ、筋肉のつき方はどちらかというとシャープで、激マッチョという感じではない。

しかし酒臭い。よっぱらいが絡みに来たのか?

おっさんは薪割りの台に置いた細めの丸太をつかんでおもちゃにしながらたずねる。


「薪割りなんて召使いにやらせればいいのに、おまえさんみたいな貴族が何してるんだい?」


おもちゃにされているのは多分僕のほうだ。


「最近体を動かしてないので、体力づくりにと…」


「そうか!邪魔してわるかったな!つか、体力なら夜のほうでがんばればいいんじゃねーか?」


よっぱらいのおっさんはバラの騎士団と魔導士組がきゃーきゃー言いながら夕飯の支度をしている方向を見ると、げらげらと笑いながら離れていった。

薪割りに戻ろうとしたら、また背後から声が


「酒と女と「力」にはおぼれるなよ!あと、邪魔した詫びを置いてくわ」


「は、はい、肝に命じます。お侘びですか?」

異様な迫力に押されてしまいしどろもどろになる小心者。


振り返ったものの姿は見えなかった。


「何?」


薪割りの台に載せてあった丸太が突然乾いた音をたててバラバラになり、100膳くらいの「割り箸」に加工されていた。


「あるじさま!おはしがいっぱいです!」


もえが目をかがやかせている。

あの一瞬で割り箸を作る?よくわからないけれどありがたくもらうことにする。

しかし何故割り箸。こちらの世界に来てから、もえが「ザ・シード」で作り出した箸以外は見ていない。


「勇者さまー!ごはんですよー!」

「エイト!食事だ!」

メイド服にエプロン姿の姫さまとやはりメイド服姿の精霊女王が呼んでいるので、もえをかかえてみんなのところに戻る。

なにこの「ダブル新妻はだんな様が恋しくてついつい暴走しちゃうの」的なしちゅえーしょん。


ビーフシチューっぽいシチューと日持ちのするすこし固めのパンが今夜のメインだ。

パンはシチューにひたせばやわらかくなるので問題ない。


地面に腰を下ろし、みな思い思いの場所で食事を取る。

食べながらも周囲への警戒は怠らない。

そういえばさっきのおっさんは近づいたのがまったく分からなかった。

あれが敵ならば僕は今頃。


「リーダー!これあつい!」

元「はうはうどっぐ」のルティリナにはシチューが熱すぎるようだ。

スプーンを逆手にもって舌を出してはうはうしている。フーフーして冷ましながら食べるように実演してみた。


「勇者さま、ふーふーあーん」

「いや、わらわがふーふーするぞ」

姫さま、精霊女王、それはどこで覚えたのか。僕の記憶か!姫さまにも伝えたのか!

1回だけ悪友に連れられてメイド喫茶に行って非常に恥ずかしい思いをしたなぁ。

まさかメイドさんに囲まれて暮らすとは思ってもいなかったけれど。


「姫さま、精霊女王さま、エイトさま?」


ほんわかメイドソネッタさんの怖い声がする。

二人はさっと自分が居た場所に戻る。


フィリーは二人の行動に気をとられて動きが止まっていた。


ふと精霊女王や地精霊ってごはんたべるんだ!と思ったが、一応精霊らしい双子も食べるから普通なんだろうか。


そしてさらに謎の多いもえは、さっき手に入れた割り箸でシチューを食べようと悪戦苦闘している。

「もえ、シチューをお箸で食べるのはすこし無理っぽいから今日はスプーンを使いなさい」

「はい、あるじさま!」


割り箸をたくさん入手できたから、塗り箸を作ってみるのもいいかもしれない。


双子はマイペースにおしょくじをすすめている。この子たちが食事で文句を言ったことは無い。


夕飯が終わり、近くの温泉から出るお湯を引いた炊事場で食器洗いを手伝う。

たぶん魔導で浄化すれば一発なんだけれど理由は前述。


騎士団や魔導士のみなさんに混じって、てきぱきと働く姫さまに精霊女王のことを聞いてみた。

姫さまはすこしほっぺたを膨らめて

「べ、べつに仲良くなったわけじゃなくて、その、情報交換とか必要かなと思って…」

何の情報交換なのか、あえて聞かないことにしました。


そんなわけでお風呂の時間。


今日は背中を流す前に、昨日の戦闘で負傷した人の治療が先になりました。

応急処置で傷はふさがっているものの、女性の体に傷が残るのはよろしくないと思い、姫さまとフィリーのヒール訓練も兼ねて。

姫さまとフィリーは一応戦力外なので魔力を使っても問題は無いだろう。

あとこの二人は浄化や火系の魔導はまだ使えないのだ。


僕はあることを思いついてそれを実践することに。


フィリーと姫さまが治療をしている最中に、僕が二人に魔力を流すとどうなるか。


地精霊や精霊女王に「吸われた」経験を元に、なんとなく魔力の放出がコントロール出来そうだなと思い、二人がヒールを使用して魔力が切れる前に補充しようという計画だ。

治療中、二人の背中から魔力を流し、つまりは充電しながら放電ということが出来ないかなということで。


結果は。


すこしやりすぎて魔力が二人を経由し、そのまま治療魔導の腕輪を通してスーパーヒール状態になってしまった。

(ちなみに僕が腕輪を付けてもヒールできない。適正の問題で)

傷跡もほぼ残らずきれいになり、中には長年悩んでいた古傷も消えて大喜びする女性騎士も!

(なにかのつうはんばんぐみのようだ)

しかし、これがかなり「ヤバイ」副作用があり、先日みなさんの背中を流したとき以上の惨事となってしまい。


「魅惑の癒し手」という変な二つ名をいただくことになった。

もしかすると先日の入浴時も手のひらから無意識のうちに魔力を流していたのかもしれない。


風呂場から例によってつやっぽい声が響き、周りで野営していた男が浮き足立ち、それをいさめる仲間の女性による鉄拳粛清があちこちで見られたという。


その後、姫さまと精霊女王に挟まれてお風呂タイムとなりましたが、針のムシロ状態のためあまりリラックスできませんでした。

地精霊も参加しているし。

たすけてソネッタえもんさん!


---


見張りの時間。


赤竜王の隣で毛布をかぶり、焚き火をしながら周囲を警戒する。

途中まで姫さまと精霊女王が僕の隣に座ってなにやら話し込んでいたが、冷えてきたのでテントに入ってもらった。

膝に「はうはうどっぐ」状態のルティリナを抱えて暖を取っていたが、それでも体の末端が冷えるのですこし運動をすることにした。


あらかじめ借りておいた木剣を取り出す。


姫さまと離れ、時間がたつにつれて姫さまのもつ三色精霊から受けていた加護の力がほぼ消失したようだ。

これは薪割りのときにも感じた。これが消えるのを待っていたのだ。


仮契約の精霊は身体を加護する力が弱いのか、すこし木剣を振っただけで息が上がる。

あばれん坊ローブのようなメチャクチャなことはできないようだ。

身体能力はおそらく自分が元の世界に居たときとほぼ変わらない。この状態であれば普通に体を鍛えることも出来るだろう。


それでもぶんぶんと音が出るくらいに素振りをしていると、胸の奥から声が聞こえた。

とっさに振り返り木剣をかまえると、少し離れた場所にさっき話しかけてきたよっぱらいのおっさんが立っていた。

「今度は素振りか…さっきは気がつかない振りをしただけか?にいちゃん」

かなり鋭い目つきだ。よっぱらいとは思えない。


「こんばんは。あの時は分からなかったのですが、今は精霊の声が聞こえたので」

この人にうそを言っても多分ばれるという直感がして、本当のことを話す。


「さっきまでにいちゃんの周りにいた厚い気配が消えて、別の気配を感じる。こっちが本物か」

おっさんはなにかを発見したのか急にニヤニヤしだす。


「どうだいにいちゃん、ちーっとばかし俺の酔い覚ましにつきあってくれんか?」

男はその辺に落ちていた木の枝を拾うとこちらにビッ!と向ける。


木の枝の先からおびたたしい量の「殺気」が放出され、僕の眉間にじりじりと突き刺さる。

紫色の針が刺さる感覚。あまりの不快感に眉をひそめる僕。


「やはりさっきの気配が消えて敏感になっているようだな。」

おっさんはしたり顔で言う。


「本気で打ち込んで来い。怪我をさせるからなんて心配はいらねー。にいちゃんの剣ならかすりもしないだろうからな!」


「はいっ!」

返事と掛け声が混ざった声を出し、おっさんに打ち込む!

あらかじめそこに居たといわんばかりによけられてしまう。


「せいっ!」

今度は横なぎに剣を振るう。剣先は空を切り、おっさんのニヤニヤ顔が焚き火に照らし出される。


「おせーな!それで女を守れるのか!にいちゃん!」

時間を忘れておっさんの影を追う。

切込みが単調にならないよう、その昔FPSで鍛えた乱数表を使った攻撃?なども駆使したがすべて見切られてしまう。


気がつくと、あたりに人だかりが出来ていた。

見張りをしていたほかの冒険者達が見学している。


結局1回もかすらせる事もできずに終了した。

「にいちゃん。にいちゃんが追っかけてるのは殺気の残像だ。その先を見なければいつまでたっても上達しねーぞ。あとそんなむちゃくちゃな殺気を出して女のケツを追っかけるなよ、俺みたいに失敗するぞ!」

おっさんは肩で息をする僕の背中をドンと叩くと、そのまま去っていった。


「あ、ありがとうございます」

僕は既に暗闇に消えたおっさんに一礼した。


あたりに静けさが戻る。


---


「おい、マッスルキング。いい婿さんをひろったじゃねーか!」

「ま、まだ婿になると決まってはいない」

「なんだ!そのつもりはあるのか!」


野営地から少し離れた茂みの中。

焚き火を囲んで縮こまるむさくるしい筋肉2人。

一人は山のような筋肉。もう一人はシャープな筋肉。

飲みなおしとばかりに干し肉をかじりジョッキをあおるシャープ筋肉。


「そういえば何度かいいのが来たな。俺も鍛えなおさないとダメか!」

シャープ筋肉の着古した上着に、何箇所か新しい切れ目が出来ていた。

「これはマッスルキングに弁償してもらうことにしよう!がははは」

「いや、あいつらを突き出した金で新しいのを買うか」


少し離れた場所に30人くらいの盗賊がぐるぐるまきにされている。

さらに離れた場所に「ぶるーぶる」がつるされている。

あとは低級の魔獣の討伐部位がいくつか転がっている


ぐるぐる巻きにされているのは、野営地に魔獣を放ち、混乱に乗じて金品を奪う魔獣使役盗賊だ。

いわゆるMPKである。

勇者のお披露目ウィークで稼いだ商隊を狙う計画のようだったが「たまたま居合わせた」筋肉ブラザーズにより阻止された。

そして、二人の後ろには数頭の「はうはうどっぐ」が「ぶるーぶる」のおにくを分けてもらいかじりついていた。

盗賊を捕らえる手伝いをしたごほうびだ。


「野生の「はうはうどっぐ」が人間を手伝うってのも不思議な話だ」


シャープ筋肉の独り言に暗闇から女性の声が答える


「エイトさまが保護された「はうはうどっぐ」の仲間です。エイトさまをリーダーとして認めて守っているようですわ」


「それと、マッスルキングさま、今日「も」手出しをされるとはどういう」


女性は山脈を揺らして食って掛かる。


「わ…わるかった、娘が心配でな」

「がはははは!さすがのマッスルキングもこのメイドには頭が上がらないか!」


マッスルキングはワイバーン領で勇者たちが戦っている最中、森に潜んでいた曲者を片っ端から捕まえていたのだ。


「あまり過保護なのも自粛していただきませんと、エイトさまが強くなれませんので」


「わ…わかった」


「それでは野営地に戻りますので、そちらの盗賊の監視はおまかせしますわ」


すっと気配が消える。


「ふぅ…あいかわらずおっかないメイドだな!マッスルキング!」

「…」


---


そんな三人のやり取りなど知る由もなく、明日の筋肉痛におびえて仮眠を取る勇者であった。

マッスルキングとシャープ筋肉、ソネッタさんには何かつながりが!

勇者の放出する魔力は副交感神経に作用し、沈静作用があるようです。


前回野営地が空だったのは勇者のお披露目ウィークでみなさんは城にいたからです。

今は帰りの人たちでにぎわっています。


次回はようやくお城へ帰れそうです。

そこで勇者を待ち受ける新たな試練。

「城の主」(仮題)


8/27 typo修正とか微妙な修正とか。

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