妖怪ソース唇と勇者
迎賓館の大浴場に併設された休憩施設。
ベンチに腰掛け、風呂上りの果実水を飲んでひといきついているところだ。
砦から連れ帰ったお子様達はナタリアたちに買ってきてもらった真新しい服を着せられ、大興奮。
そんなに騒いだらせっかくお風呂に入ったのに汗を…。
ちなみにお金は当然のことながら僕のギルドカードから。
購入先は懇意にしている例のランジェリーショップ。最近、既製の子供服の取り扱いを始めたのだ。
店長の知り合いが趣味で作って売っているとかいないとか…。サイズも豊富だが、何故か大人用は存在しない。
そこの子たち、おぱんてぃーむさまの見せっこはやめなさい。早速双子が真似をしてかぼぱんを露出させ、もえはそれに加わろうか迷っている。
今まではふんどしのように布を腰に巻いていただけだとか。
「いつものメイド服でよろしければ、すぐにご用意できましたのに」
お風呂上りのソネッタさんがちょっとだけほっぺたを膨らませ、僕の右隣に座るとぴとっとくっついてきた。
ソネッタさん、どれだけメイド服のストックがあるんですか!
「いつもソネッタさんにお願いするのも心苦しいですし、それに…」
「エイトよ、すでに子供達に情が移っておるだろ?無駄な努力をするでないわ」
ユークレス王妃がニヤニヤしながら僕のひざを指差す。
そこには白いワンピースを着た茶色いうさみみの子が!いつの間に!
「エイトは子供達にメイド服を着せないことで距離を取ろうと思ったのだろう。隠さんでもいい」
うちの子達ほぼ全員がメイド服を着ているが、これは僕にとって家族の証のようなものだ。
家族が増えることはいいことだと思っている。でも、増え続ける家族全員に気を配れるか自信が無い。
「深く考えすぎだエイト。おぬしが副担任をやっている学校の校長を見習うのだ。彼女は数百人近い子供を抱えているのと同じだぞ」
確かにルナール先生は大勢の生徒の面倒を見ている。僕にはルナール先生のような懐の深さがはたして…。
「それとな…今すぐにでもシルフィールと結婚すれば、この国全部がおぬしの」
王妃は僕の左隣に座り、ひざからうさみみの子を持ち上げ、自分のひざに乗せる。
「お、おばあさま!それは内緒にして!」
今度は姫さまが僕のひざに納まり、王妃に抗議している。何か秘密でもあるのだろうか。
「エイトさまが国王さまに…そして、私は」
ソネッタさんが壊れた!のもつかの間。
いつもおぱんつぇりあ様をまろびださせる例の狐耳メイドさんが現れ、ソネッタさんになにやら耳打ちをして戻っていった。
あっ!何も無いところでずべしゃーーーと転んだ!無難なホワイトでした。
一瞬でお仕事モードに戻ったソネッタさんが周囲を確認してから小声で話す。
「エイトさま、ご自宅の周辺によからぬ気配があると連絡が。例の教会の一味のようです」
「勇者さま…」
ひざの上に居る姫さまの表情が曇る。むしろ今まで「自宅」に来なかったのが不思議なくらいだ。たとえ来たところでひそかに配置された「メイド特殊部隊」やソネッタさん謹製の各種えげつない罠にて撃退されるだろうが、今はたくさんの子供達を預かっている。あまり派手なことは出来ない。
「お昼はいつもの屋台村で買うとして、帰りは遠回りをしながら「従者の星」に行こうか」
「屋台なら任せろ!」
屋台メシと聞いて、食い倒れクイーンの目が光り、彼女は手にしていた僕の皮財布を思いっきり開き「バリバリ」と音を立てて皮ひもがちぎれ飛び、縫い目がほつれた。
「あ、すまない…エイト」
それ結構気に入ってる「ぶるーぶる」皮の財布だったのに。「もう!」と文句を言っておいた。
牛皮だけに…もう?とツッコミをいれてくれたのはおせっかい精霊だけでした。
あとで針と糸を借りて直そう。
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お昼の買出し班を何故かマイアが取り仕切り、屋台村に吸い込まれるのを横目に見ながら僕達はぐるっと回り道をして「従者の星」を目指す。
うちの子達と手をつないでたのしそうに歩く、砦で保護した子供達。
道すがら、僕は「すまほーちゃん」を使ってライラック村にいる「自宅警備精霊」を呼び出し、ラルフさんにつないでもらう。
パレードが順延し、ナタリアの妹達の帰りが一日伸びたことを伝える。
次にアニーを抱っこして「すまほーちゃん」を渡し、ラルフさんと話をさせながら歩くうちに「従者の星」へと到着。
その前に見知った顔が!
「婿どの!」
「勇者殿!」
変装してもイケメンまでは隠し切れない、アトレーンのフリードリッヒ国王様が、これまた何を着ても隠しきれない筋肉の城壁、マッスルキングさんと二人で並んで僕達を待っていたのだ。
「イケメンx筋肉のおじさま…ぶはぁ!」
ベルさんが鼻血を出して若干大変なことに。うっかり忘れていた。この人の英雄掛け算体質を。
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姫さまのヒールによりベルさんの出血は収束、200歳のうら若き森の乙女が血濡れになるというスプラッターな展開を経て、ようやく遅い昼食会となった。
合宿所の床にローテーブルが並べられ、その上に並べられた屋台料理を皆が思い思いにつつく。
「勇者殿、昨晩のこと、ぜひお聞かせを!」
加勢に出ようとしたフリードリッヒ国王は部下から城にとどまるように釘を刺され、はらはらしながら一晩過ごしたという。
マッスルキングさんへの説明も中途半端であった為、僕の隣にやってきて「「「がったい!がったい」」」とわめく、見た目ようじよ三人のコーラスをバックに事の顛末を伝えた。
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「グランディオーラの孤児達がここまで連れてこられたと…グランディオーラからの移動にはアトレーン国内を通過する必要があり、そこでの検問にも引っかからなかったとは…」
自国の国境警備に穴があったと知り、フリードリッヒ国王が肩を落とす。
「それなんですが…もしかすると「転移魔導具」が使われたのかもしれません」
と僕が言うと二人が同時に首をかしげる。そしてまたベルさんの鼻血が!
「「転移魔導?」」
戦火により失われた魔導の技術。馬車で一週間の道のりを瞬きの間に往復できるといわれる転移魔導。
黒尽くめの連中が突然消えた際に失われた魔導具が使われた可能性が高いと、おせっかい精霊も顕現して一緒に説明をする。
「そのような力が使われたのですか…。やつらのしっぽを捕まえられないのは普段から使用して…」
マッスルキングさんがアンチ預言書の教会に兵を送っても、必ずといって良いほどもぬけの殻なのだと言う。
「脱出用に転移魔導を使えるとなると…」
今にして思えば僕を襲ってきた最初のゴーレム犯も、同じようにして逃走したのかも知れない。
そして。
僕の目の前においてあった「びっぐくらーけん焼き」の数が足りない。どこかに転移したらしい。
「ソニア?口の周りについたソースが見えているよ?」
空中に浮かぶ「妖怪ソース唇」がしまった!と声を出し、逃走を図ったのでさくっと捕まえて口の周りをふき取る。姿かくしてソース隠さず。
「あの…よかったらどうぞ!食べてください!」
砦で助けた一番年上の女の子が、そっとぶるーぶるの串焼きを差し出す。
「ありがとう。でもちゃんと食べてね」
「でも…」
僕は串焼きから肉を半分だけはずし、残りを女の子に返す。
「それじゃ半分だけもらうね」
それを見ていた砦で助けたお子様達が固まった。
受け取った女の子は頬を赤らめている。
「あれ…また何かやらかしたのか僕…」
グランディオーラでは串焼きにまつわる話があるらしい。
珍しく3000文字くらいに。
次回仮題「串焼きの誓い」




