預言書が見せるバッドエンドな世界
情景としては照明を落としたスタジオにスモークを炊いて弱めのスポットを落としてる感じです。
気を失っていたのか。
まぶたを開くと視界にもやがかかっている。頭の中で何かが渦巻いている感じがする。
周囲を確認する。どうやらさっき見かけたお城の中に通されたようだ。
まだ日は高いはずなのに部屋の中は薄暗く、ろうそくの火がぼんやりと辺りを照らしている。
正面には玉座に座った王様のような人物。隣にはハンバーガーを食べていたと思われる女の子が立っていた。でも雰囲気がすこし違う。
さっき走ってきた女性騎士は僕の後ろで片ひざをついて控えている。
三人とも顔の辺りに影が落ちていて表情がよくわからない。
かろうじて王様の口元が動くのが見えた。
「勇者よ、よくがんばってくれた。そなたの5年にわたる活躍によりこの地に平和がもたらされた。」
頭の中に直接響くような気味の悪い声がする。
5年?活躍?さっき来たばかりなのに。
王様は玉座の前にあるサッカーボールサイズの水晶珠に手をかざした。
ぼんやりと光るそれには何かが映っている。
最初はチューニングがずれているような感じだったが徐々に鮮明になる映像。
いまどきの若い人にアナログチューニングが通じるんだろうかとぜんぜん違う心配をする。
そこには僕がいたと思われる「世界」が映し出されていた。
日本のニュース番組のようだがアナウンサーがオーバーな身振り手振りをして絶叫している。
声は聞こえないがこめかみに青筋が見えた気がした。
テロップには「地下から現れた謎の敵性生物による攻撃が続き、各国の主要都市は壊滅状態」と書かれていた。
アナウンサーの背後にあるモニターに炎と黒煙に包まれた都市が見える。
そして、禍々しい姿をした大小の怪物達が破壊の限りを尽くしていた。
怪物は炎の玉や稲妻を放ち、地面をえぐり、建物の破片を投げ飛ばし、何かを探すようなそぶりを見せる。
その表情には何故か焦りの様なものが浮かぶ。
その様子を見て逃げ惑う群集。土煙を上げてゆっくりと倒壊する高層ビル。
教会で祈りをささげる人々。病院の外にまであふれるけが人。親を探しているのか泣きじゃくる子供の姿。
怪物が襲っているのは世界中の都市のようだ。テレビ番組で見覚えのある場所が火の海と化していた。
テレビカメラが動き回り、めまぐるしく変わるシーン。
取材中のレポーターらしき人の背後で大きな爆発が起こる。
さらに画面が切り替わる。地上には戦車と歩兵が、空には戦闘機が飛び交う様子が映し出される。怪物に無数の銃弾やロケット弾を浴びせるもあまり効果が無いようだ。
カメラはスタジオに戻り、憔悴しきったアナウンサーの下に「謎の敵性生物に対し戦術兵器の使用検討」というテロップが一瞬見え、そこで映像が途絶えた。
言葉を濁していたけど核兵器なんだろう。そんなものを使えばたとえ怪物を倒せても・・・。
王様は映像が消えた後、斜め上を向いて遠い目をしているようだ。あいかわらず目元は影で見えない。
「記録によればこの地での魔族との戦いは千年以上も続いていた。魔族は人間に害をなす忌むべき存在。やつらを倒しても魔力の満ちたこの世界では何度も復活を繰り返すため、一時的に勢力を弱められても滅ぼすことは不可能であった。」
「20年前、この国に代々伝わる預言書の解読に成功した。魔族を一網打尽にしたのち、魔力のない空間に転移させれば自然消滅し、問題は解決すると記述されていた。」
「さらに預言書の解読を進めるうち、今まで見えなかった頁も現れた。そこには魔力の無い異世界から勇者を召還するゲート(異世界門)の作成と、勇者の力を使い魔族をゲートからまとめて追放する方法が書かれていたのだ。」
「魔導士と識者を集め、15年をかけてゲート(異世界門)を開く方法を確立、そなたを招くことに成功した。」
「先ほど見せたとおり、魔族はすべて「魔力の無い世界」へと追放された。やつらが二度と戻れぬようゲート(異世界門)は破壊、ゲート(異世界門)の作成方法もすでに処分済みだ。もちろんそれを知る者も。」
「5年前の約束どおり、褒美として国の半分と娘を与える。そして今日を勇者記念日に制定する。これからはわが国の勝利の象徴としてゆるりと過ごすがよい。」
王様は追い詰められた悪玉のボスのような感じでしゃべりつづける。
いや、国の半分もらうとか娘さん嫁にくださいとかまだ言ってない。
それとも僕は気がつかないうちに取り返しのつかないことをしたのか。
ふと女の子と目があった。
最初会ったときからずいぶんと身長が伸び、胸も成長し、すこしふくらんだおなかを愛おしそうに抱えている。
おなかのあたりに視線を感じたのか、女の子は僕の前に来て手をとると、自分のおなかに僕の手を置いて、いたずらっぽく笑う。
そしてこう言った。
「勇者様、私を「食べた」でしょ?」
体から血液が抜けたような感じがする。血の気がうせるというアレだ。
ふと、自分のほっぺたをつねってみる。痛覚が無いのか何も感じない。
何かをしゃべろうとしても声を出せない。
僕は声にならない声で叫んだ。
「こんな結末は望んでいない!」
また意識が飛んでいく。
意識が飛ぶ直前、王様とも姫さまとも違うだれかの声が聞こえた。
「あなたの心がけ次第ではこんな結末もありえるかもしれないわ。」
勇者が慢心する前に「預言書」が釘を刺しに来たようです。