自立駆動型「あひるちゃん」
「ぐえっ!ぐえっ!」
全長30センチほどの黄色いゴム製のそれは、両側に付けられた二つのプラスチックホイールを軋ませ、滑りやすい芝生の上で多角形コーナリングをキメていた。
「「まってーなの」です!」
「おっ!動きが機敏になっている!シース!レーネ!もえ!そろそろ出かけるよ!」
「「「はい!あるじさま」なの」です」
庭中をジグザグに「疾走」するあひるのおもちゃを追い掛け回していた双子ともえに声を掛け、「赤竜王」の発進準備を行う。
「「あひるさん、おうちにもどってなの!」です!」
「ぐわー」と鳴いたあひるのような物体Xは庭先にある足拭きマットの上で足を空転させて汚れを落とし、自宅に入っていく。
「わー」
一緒にあひるを追っていた猫娘コンビ、元「わーきゃっと」のノーラと、元「まねき猫型土地神」のターナは少し残念そうだ。
そして、去り際にあひるが見せた安堵の表情が気になる。
たぶんネコミミ少女たちに狩られると思ったのだろう。
「エイトさま、こちらも準備ができていますわ」
ソネッタさんによって機内食が準備されていた。
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庭先に放置された「パンチングマシーン」は後ろ向きになってしくしくと泣いている。
「あまり放置するのもなんだし、帰って来てから調べるか…何もなければシースとレーネのおもちゃに…」
がたがたと震えて拒否の姿勢を示すそれを見なかったことにして、「赤竜王」を発進させた。
今日は姫さまとソネッタさんの他にフィリー、サフランも一緒である。
ユークレス王妃はマッスルキングさんと共に、例の二人組から魔獣が出現したときの様子を聞くため今日は同行しないようだ。
この国の国王、そして他国の王妃による事情聴取という、なんともかわいそうな…。
とんだ初仕事であるが、メンタリティを鍛えるのもニンジャには不可欠。
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「空荷だと早い…のか?」
街道沿いを偵察しながらの飛行のため、比較的速度の遅い「赤竜王」のままなのだが、なぜか魔導圧縮機の出力が増えて足も速くなっている。
「シース、レーネ。赤竜王ちょっと速くなってない?」
「「?」」
大好物の「つーなサンド」を口いっぱいに頬張って、リスのようになっている双子には答えるすべがない。
「まぁ、いいか…」
「お兄さん、今度はフィリーのを食べて!」
「勇者さま!次はわたしの「かひー」を!」
「…」
サフランも顔を赤くして僕の額にサンドイッチを突きつける。それピストル持ちだから!サンドイッチからビームとかでそうですよ。
「メイドもおめしあがりを!」
いやいや、何か抜けてますよ?
「ぶるーぶる」のおにくでつくられた「コンビーフサンド」をもしゃもしゃと食べ、「かひー」をすすりつつ、モニターとにらめっこしていると、少し気になる荷馬車を発見した。
「赤竜王」の速度を落とし、様子を伺う。
荷台に乗っているのは若い女性、馬を操るのは中年男性のようだ。荷台は空に近いが、かといって行商の帰りという様子でもない。
向かっているのはアトレーン方面だ。ここで停めてしまってもいいのだが、もうすこし泳がせたほうがいいと、おせっかい精霊がささやく。
早速「自宅警備精霊」に僕の魔力を渡し、怪しい荷馬車に追跡マーカーを付けてもらって行動を監視することに。
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「今日はもう少し離れた場所に下りよう」
念の為「自宅警備精霊」に周囲の気配を探ってもらったがアンチ預言書の連中が潜んでいる様子は無い。が、用心には用心を。
割と離れた目立たない森の中に「赤竜王」を降ろし、皆には留守番を頼む。
「はぁっ!!!!!」
姫さまの精霊の加護を受けた僕は、木々の間を全力疾走した。
「いやーん、スカートが!」
え?誰?
振り返ると、旅人の生気を吸い取ることで有名な木の魔獣「どりあーど」さんが…。
特に危険なものでもないようだし、見なかったことにしよう。
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例の若い侍女と真っ先に目が合う。
一応学習はしているようで前回のように大声を出したりはしなかったが、挙動がおかしいからとハリセンでおしりをぺしっ!とやられていた。
「きゅーん」と涙目になる犬耳の彼女に旅人Aを装って近づき、例によって悪趣味な馬車へと案内される。
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事前に向こうの王族に連絡して接触しようとも思ったのだが…。
国内の中枢のどこまでが教会の支配下にあるのかが不明なため、前日の夕方くらいにアトレーンに入国して様子を探るか、当日いきなり乗り込むか、どちらにしても、もう一度連絡すると伝えた。
そして、ここまでの道中で何か変わった事が無かったかをたずねる。
未だに教会からの接触は無いというが、最終的に一人の「候補」の子を選ぶために必ず現れるだろうと、メーベルさんが言う。
あまり長居をして鉢合わせても大変なので、早めに「赤竜王」へ戻ることにした。
「エイトさん、お母さんにへんなことしたらあとで」
アルマ怖い…。
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「赤竜王」に戻ると、姫さまとフィリーがなにやら…。サフランも手伝っているようだ。
「あれ、まだ宿題終わってなかった?」
「「えへっ!」」という表情になる二人に筆記用具を片付けるようお願いし、周囲の安全を確かめてから「赤竜王」を上昇させた。
今日は変なフラグを立てないよう、黙ってハンドルを握る僕。「遺跡」はおなかいっぱいです。
そんな僕の様子がおかしいのか、後部座席から三人のヒソヒソ話が聞こえる。
「あるじさま!」
三人に気を取られていると、もえが僕の服をひっぱる。
モニターに映し出されたのは…魔獣に襲われている荷馬車であった!
エイトのおうちのお風呂にもいましたよ、おもちゃのあひるちゃん(ソニア)




