オパール王妃に心の声を聴かれた勇者
「ひとまず今日は休息に当てよう…」
ひなちゃんから送られてきたメッセージに返信をして、ゲームをプレイして何かしら情報が得られないか確認してもらうことにした。
しかしあのラッピングは何だったのか?
存在Nと思われる存在が気を利かせたのだろうか。
そういえばひなちゃんと知り合ってから割と長い気もするけれど、かしこまって何か贈り物をしたりといった事はなかったよな?
出張の帰りにお土産を買うくらいはしたけれど、上司にも似たような物買ったし…。
個人あてに特別な理由で何かしらを送った記憶がまるでない。
それこそ誕生日に何か贈ったりもしてないんだよな。
あとホワイトデーのお返しなんかも適当だったし。
…これって存在Nからダメ出しを受けているってことで合っているんだろうか?
いろいろと考えてしまうけど、今の僕はひなちゃんに何か贈り物なんて出来ないし。
境界の地経由で渡している物はおそらく魔素で作られたダミーなのでノーカンだ。
「あー…」
「エイト様…お体の具合がすぐれないとシルフィールから聞きましたが」
そういえば日の出荘の最上階にいるのは僕だけではなかった。
ソファに寝転んで変な声を出したのをオパール王妃に聞かれてしまった。あとお付きのメイドさんにも。
何故かこちらで執務をされていらっしゃるのですよね。
見晴らしが良いからという理由で。
書類の決裁は完全リモートでも出来るし、外に持ち出せるものは宅配よろしく城と日の出荘の間をメイド便が行き来している。
「ちょっと思い出したことがありまして…まぁ地球に戻らないと無理な話なのでたった今は」
「女性への贈り物でしたらなにも形にこだわらなくとも、心が籠っていれば」
「…もしかして全部口に出てました?」
「いいえ、女の直感というものですわ」
オパール王妃、もしかして心が読めるのか?
「贈り物と言えばこちらで御厄介になっている身分で何もお返し出来てないな…と」
「わたくしどもはエイト様から過分な贈り物をいくつも受取っておりますので」
「殆どはシース、レーネ、もえの手柄ですので」
今王妃が使っている謎PCのセットもそうだ。
僕一人じゃ何もできない。特にシース、レーネ、もえに頼ることが多いのが何とも。
他にもシロさんやどりあーどさん、ござる侍にはいつも護衛してもらっているし。
誰一人欠けてもうちの生活は成り立たないのだ。
「きゅあ!」
「エイト様、お客様がいらしたようです」
見ればファンタジー世界側にいつぞやの翼竜親子の姿が。
いつぶりだろう。
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「狩りの帰り?」
いったい彼らは何を狩っているのだろうか。
「きゅい!」
子供の翼竜が咥えていた何かを僕に見せてくれた。
ソフトボールほどある黒曜石のような物体は夕べも見たような気がする。
「もしかして劣獣を食べているの?」
れつじゅう?なにそれ?という答えが返ってきたので夕べ撮影しておいた例の黒い物体を次元の窓ごしに見せる。
「きゅあ!」
「これを狩っているの?大丈夫?お腹壊さない?」
「きゅあ!きゅあ!」
「大丈夫なんだ…」
驚いたことに彼らの主食は劣獣の魔泉だった。
確かに魔素の塊のように見えるがこれが主食になるのか…。
見た感じ、大型の獣でも狩っているのかと思い込んでいたのだがまさかの劣獣。
あの村の人たちは知っているのだろうか?
今度顔を合わせたら聞いてみようと思う。
アヒルちゃんを使えばすぐにでも連絡が付くだろうけれど、彼らも巡回任務があるだろうし明日の日中にでも村に顔を出せばよいか。
今日は何もするなと言われているのでおとなしくしていようと思う。
戦利品を咥え直し、森の上空へと飛び立っていく翼竜を見送る。
もしかして巣にまだ子供がいるのではないかと勝手な想像を働かせる僕。
あるいは保存食として巣に蓄えているのかもしれないけれど。
姫さま達にも彼らの主食の件を伝えることに。
まぁ、後ろでオパール王妃が見ていらしたのですが念の為。
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そんなわけでほぼ丸一日ソファでだらけていたら体の調子もだいぶ良くなってきた。
オパール王妃は一足先に城に戻られ、だだっぴろいフロアに僕一人…そういえばアヒルちゃんがいましたね。
「ぐえ」と忘れるなと言わんばかりに鳴くアヒルちゃん。
何故ここに居るのかといえば僕のお目付け役として、である。
一人にするとまた何処かへ飛ばされたり、巻き込まれたりと事故に遭う確率が上がる。と姫さまがアヒルちゃんを押し付けて行った。
アヒルちゃんがいたので彼?のインベントリに入っていたお弁当でお昼にも困らず。
一声かければお城から昼食が運ばれてくるのだが、派遣メイドさんを使い走りさせるのはちょっと気が引けるというか。
彼女達にしてみればそれが仕事ですからというのだが…。
『勇者さま!本日の神社解放は何事もなく終わりました!お迎えに参ります!』と姫さまから直電が入った。
もうそんな時間?
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しばらくして4基のエレベーターが開き、中からうちの子達がわらわらと。
「勇者さま!あの子達が来ていたのですか!」
「ええ、少し前に帰ってしまいましたが」
翼竜たちの滞在時間は30分にも満たない。
狩りの成果をお披露目に来ただけといった感じでしたし。
その時の様子は映像に残してあるので御夕飯の時にでも見ようと思う。
「勇者さま、ソファに座っていただけますか?」
いわれるままにソファに座ると、姫さまを筆頭に皆さん僕の顔を穴が開くほどに見つめてくる。
「もう大丈夫そうですね!あまり無茶はなさらないでください!」
顔色の確認をするのに全員に見つめられちょっと恥ずかしいというか何と言うか。
顔色チェックに何故か日の出荘のみなさんも混ざっていらっしゃいましたし。