クレーンゲームで奥の手を使う勇者
そんなわけで二日連続でのアミューズメントビルのゲーセン行きとなったのですが。
1回目は全く関係のないところに止まったアーム。
「益田どうした?」
「ちょっとばかりボタンのフィーリングが変わっていて位置調整が難しいんですよ」
誰か調整したのだろうか。それともボタンが交換された?
昨日より明らかにバネレートが変わっていてボタンを放すタイミングが取りづらい。
何かしらの難易度アップはあると思っていたが、まさかこんな形になるとは。
クレジットを追加し、アームを操作してひもを引き下げるという単純作業を繰り返す事30回あまり。
最初の5回は捨てゲーをしてタイミング調整に使ったので実質25回ですか。
景品取り出し口に落ちたロッカーのキーを取り出し、僕を散々苦しめていたひもから解き放つ。
ひもは回収箱へ。この辺も妙にリアリティがあるんだよな。
「それでは16番のロッカーを…」
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「この前のものとは形状が異なるな…」
社長はロッカーから取り出したハンドヘルドマシンをつぶさに観察。
「ますだっち、これって販売期間が短かったやつ?」
「どうだったかな…ちょっとネットで調べてみますか」
昨日取得した時点ではそこまで考えていなかったな。
ネットを見ると発売から2年ほどで販売が終わったようで、割と短命な機種だったらしい。
競合メーカーのゲーム機のひとつくらいにしか思い入れが無くそこまでとは知らなかった。
ただ、そのゲーム機と完全コンパチなのか、目の前のハンドヘルドマシンの正体は以前として不明だ。
単純に形が似ているだけで中身は別物かもしれない。というかここに存在し、持ち出せる時点で異なる存在だろう。
ゲームソフトはパズル系とSTGが2枚ずつ。
アナログチューナーもついており、RFコンバーターがあれば受信可能だろう。
「先輩…」
遅れてやってきたひなちゃんが何かを訴えるような感じで僕を見つめる。
「DSOVRに顔を出してみますか?それともこのフロアを探すか」
なにしろフロアぶち抜きの5階層まるごとゲーセンになっているので全てのクレーンゲームを確かめたわけではないのだ。
「わしらは検証のために戻るが…」
今、地球は深夜帯。この時間から働こうというのか!
「あたしらも気になるんでもどりっちしますー」
もどりっちとは何処の言葉だ?
そういえば最近社長の孫、アリスちゃんを見てないんだよな。
「アリスならDSOVRで暴れておると思うが」
何と言うか関係者特権ですよね。サテライトオフィスのカプセルを使えばいつでもダイブできますし。
ひとまず残った皆さんで手分けをしてフロアの探索に出ることにした。
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「先輩!ありました!」
探し始めて10分ほどでひなちゃんが目的のブツを発見。
2階層上のフロアにあるクレーンゲームコーナーにそれらしきものがあるらしい。
記憶が正しければあそこの回にはロッカーは無かったはず。
ひなちゃんが言うには「ゲーム機の入った箱が直接取れるようになっていました」ということなので僕達が知らない間に景品がアップデートされたのかもしれない。
「勇者さま!」
他のフロアを探していたメンツが戻ってきたので問題のクレーンゲーム機を確認することに。
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「これは取れるかどうか分からないですよ」
シリコンを巻いた二本の棒の上に横たえられたゲーム機の箱。
ちなみに箱は先ほどのハンドヘルド機と同一と思われる。
そして見るからに弱そうなぷらぷらするクレーンのアーム。
アミューズメントビルにあるゲーム機は基本的に難易度最低に下げられているはずなのにこの台だけがおかしい。
「とりあえず試すだけ試してみますか?」
クレジットを追加し、まずは箱が持ち上がるかを確認。
「爪が片方しかかからないですね。それもかなり浅く…」
ゲーム機の箱の幅よりクレーンの方が狭く、どうやって降ろしても爪が片方にしかかからない。
当然のようにスリップをしてぴくりとも動かない箱。
2度、3度と箱を回転させられないか粘ったが一向に動く気配は無い。
「サブローが苦戦しているにゃ」
「シロさん、これって多分確率機で当選率が思いっきり低いやつですね」
世間的には存在しているはずのない確率機。
おそらく数百分の1くらいの極悪設定になっていると思われる。
目の前にあって取れないというのはもどかしい。
「ちょっと奥の手を使いますか…」
箱が痛むのであまりやりたくはないのだが。
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数回のトライで箱と蓋の隙間にアームの爪をすべりこませることに成功し、握力とは関係なく宙づりとなるゲーム機の箱。
これ、一つ問題があるとすれば爪が離れないと取得したことにならないんですよね。
ぶらぶらと揺れながら移動するゲーム機の箱は取り出し口の上に差し掛かる。
アームが開き、壁に押し当てられる形となった箱から爪が外れ、そのまま落下。
ファンファーレと共に取り出し口のLEDが激しく明滅。
「サブロー、なんかずっこいにゃ」
「これはテープで隙間をふさがない店のやさしさですね」
ぬいぐるみのタグを結ぶナイロン糸に爪を入れるのも何度もやっているし。
ひとまずゲットしたお宝をひなちゃんに。
「先輩!ありがとうございます!」
「持ち出しが出来るかまだ分からないけれど…」
全員が持ち出しに成功するとは限らない。ましてや今のパターンは初めてなので。
高額商品の現物をそのまま取らせるのは初めてなんじゃ?
まぁ、地球の法とは無縁な境界の地での出来事なので誰も介入は出来ないのだが。
DSOVRのほうは分からない。そもそも一般プレイヤーがあそこで何か景品を取っても現実世界に持ちだせたという話は一切聞かないし。
何かあればDSOの掲示板が爆発炎上するだろうし。
「先輩、この後はどうされるんですか?」
「もうしばらくサブロニアとファンタジー側を見張って戻ろうと思いますけど」
「あの…お邪魔じゃなければ遊び方を教えてもらっても良いですか?」
ひなちゃん、この手のゲーム機は遊んだことが無いらしい。