ツクヨミ神社を襲うゲリラ豪雨と勇者
今日のお昼は商業ギルドが手配したお弁当。
この世界でも仕出し風のお弁当があり、商業ギルドと提携した飲食店から配達される。
バイオプラント産のお弁当をお出ししても良いのだが、その辺は商業ギルドとしての役割を果たしたいとの事で竹皮風のもので包まれたサンドイッチと、いくつかの寸胴に入ったスープが本日の昼食となる。
使われるのは社務所横に作られた大き目の休憩所。
ここも思い付きで増やした建物だが、大勢が一度に食事を取るには適した場所となっている。
当初は社務所でお昼を食べてもらう予定で、お手伝いの子達が入りきらないので交代で休ませる予定だったが休憩所が出来たので一度に休んでもらえるように。
うちの子達が押しかけてもなお余裕がある設計…設計したっけな?
そんなわけで僕達もお昼ご飯を頂くことに。
いつもとは違ったお昼ご飯だ約一名を除いて特に問題なく。
「ルティ、お野菜をちゃんとたべて」
「リーダーわかった」
スープの具に使われた人参ぽいものがどうもダメらしい。
さすがに焼き肉の味にするのはちょっとどうかと思うので。
何故そこまでして野菜を嫌うのか、本狼に尋ねても分からないと。
「かえでがたべる」
ルティリナの妹、かえでが助け舟を出した。
本当なら完食してもらいたいところだが無理に食べさせて野菜嫌いを加速させてもと思い彼女に任せることに。
ちょっとしたトラブルはあったが、お昼ご飯が終わり、食休みの後は午後の神社解放となる。
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「ん?雨?」
社務所の中に籠っていても腰が痛くなるだけなのでちょっと外へ空気を吸いに出た僕。
快晴の空からぽつぽつと水滴が落ちてくる。
現在は局所的な予報しか出来ないドローン併用の天気予報によればしばらくは雨が降ることはないという結果が出ていたのだが。
この神社、雨よけのテントが無いんだよなと思い、社務所に引き返して境内の半分くらいを覆える可動式の屋根を設置することに。
支柱と帆布を張るだけなのでそこまでの手間はかからない。
地中からせりあがる柱に驚く人もいたが、その辺はきちんと安全マージンを取ってやっている。
柱の設置が終わり、帆布を展開したあたりで一気に本降りとなった。
「「「きゃーーー」」」と悲鳴を上げてテント下へ避難する参拝客。
境内の中はなんとか間に合ったが、外は大変なことになっている。
皆、雨を避ける場所を探して右往左往しているので抽選機周辺にも急遽テントを張る。
ちょっと全員は収容出来そうにないが…。
「レーダーの表示がおかしい」
ドローンの観測結果を見ると神社を中心として半径数百メートルだけに雨が降っているのだ。
「勇者さま!何かお判りに?」
「いま調べているけれど一体何が…」
髪だけびしょぬれとなった姫さま達。
巫女装束は防水加工が施されているので濡れる心配はないのだが髪は仕方ない。
神社の備品棚からタオルを取り出して社務所に駆け込んできたみなさんに配る。
天候の回復具合によっては今日の解放を早めに切り上げる必要もあるのだが、補填をどうしたものかと。
「「ますたー!あまぐものちゅうしんになにかあるなの」です」
双子が新たな解析結果を提示。
上空に何か浮いているのが見える。
「もしかして大教会の手先?」
こんな地味な嫌がらせのために態々出張ってくるものだろうか?
彼らの行動原理は非常に謎なのであり得そうな気もしないでもないが。
「ちょっと様子を見てきます」
僕一人でアヒルちゃんエアカーに乗り、雨を降らせている謎の物体へ近づくことに。
当然のことながら深緑の慈悲は真っ先に呼び出した。
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「人工物ではなさそうだよな…」
雨の起点となっている場所にたどり着き、そこで見たのはどう見ても竜。
サイズは伸ばせば50mくらいにはなりそうな気が。
この前斃したロックワームよりは短い。
水色をした東洋の竜のような姿をした何かしらがとぐろをまいて空中に停止し、その真下あたりから雨を降らせている。
一瞬大教会の飛行型ゴーレムかと思ってスキャンを掛けたのだがゴーレムの特徴は見当たらない。
とりあえず近寄ってもう少し観察を…と思っていたらふいに目が合った。
『ミカミ…さん…』
頭の中にそんな声が聞こえた。
「もしかしてミカミさんの関係者?」
『なつかしい魔力に触れつい涙を…』
これ涙なの?
「ミカミさんなら心当たりがありますので…体の大きさを変えられたりは?」
『しばし人の姿となりましょう』
全長50mの未確認飛行竜は水蒸気と共に姿を消し、その中心に人の姿をしたなにかが現れた。
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ひとまず社務所へとご案内を。
彼女が竜の姿から人へと変わった段階で豪雨は止んで虹も出ている。
ひざ丈の藍色に近いKIMONO姿をした少女、いや、幼女か。
髪は水色に近いおかっぱ。瞳の色も水色だ。
「光の女神さまより名と衣を預かりし竜、名を柚波と申します」
ミカミさんのネーミングにしては割とまとも…いや、食べ物入ってるよな?
「長き眠りより目覚め、あてもなく空を渡っていると懐かしい匂いに惹かれこの地に」
「みっちゃんさん、なにかご存じですか?」
ご本人にお尋ねしたのだが、ゆなみさんを見つめたまま返事が返ってこない。




