近未来世界側の観察と勇者
「勇者さま、何か見えましたか?」
「今のところは特に…」
遠くに見えるビルの窓を拡大しているのだが、殆どの窓はカーテンやブラインドが降ろされ何も見えない。
しかしこの窓、どういう仕組みになっているのかそっちのほうが気になるのですが。
ビルの間を吹き抜ける風の音も聞こえますし。
ただのモニターというわけでは無さそうだ。
「あれは…」
一瞬だけ窓に写った人影のようなもの。
「「まきもどしなの」です」
たった今見ている映像はそのまま録画されており、問題のシーンまで映像を戻して再度確認。
「人かなぁ…」
カーテン越しなので何とも言えないのだが、あきらかに人と思われる影が写り込んでいた。
「他の場所はどうでしょう?」と姫さまがいうので望遠鏡の向きを変えて謎の交通システムに焦点を合わせる。
「そもそも窓が無いですね」
完全な箱型のそれには窓と呼べるものは無く、宙に浮いたガードレールのようなものに沿って移動していた。
サイズや色はまちまちだが窓が無いという点は共通している。
空飛ぶ車らしき物体にはヘッドライトやテールランプがあるのに。
高い場所を飛ぶのにそもそも人の手が介在しておらず、自動運転がゆえのウインドレスなのだろうか。
近未来側から夕日が差し込み、観察には適さない状態となる。
今の時間帯だと逆光となって殆どの建物が見えない状態なのだ。
「「いもーとこんとろーるかのうなの」です」
かくだいくんはリモコンで操作可能だというので日没後に再度様子を確認することにして一旦お屋敷へ戻ることにした。
御夕飯を食べた後、お風呂に入る前に観察会を開く事に。
ちなみにファンタジー側の窓にも同じかくだいくんをセットし、両方観察できるようにしておいた。
しかし双子はこれをいつ作ったのだろう。
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今夜の御夕飯はおにくメインとなりました。
ナイフを入れると肉汁があふれ出るような良いお肉なのだがいつ届いたのか。
僕が知らない間にサンダッティアとの直通便が出来ていたりして?
にばいつめるくんはまだテスト段階でどこにも出していないはずだが。
そんな秘密めいたおにくさまを味わい、リビングに移動して早速かくだいくんの映像確認となった。
よその世界を覗き見するのはどうかと思うのですが、あの壁一枚で世界を隔てているのかもしれないと考えると世界を跨いだ侵略が行われる危険もあり、安全を確かめるうえで必要な行為と割り切る。
夜になり、先日は気づかなかったが月が昇っている。
それもシングルムーン。
明らかにここではない別の世界だろうという推測が出来る。
リビングのモニタは引きの画像と拡大画像の二種類が映し出され、拡大画面は人のいそうな明かりのついた窓を重点的に調査。
「窓際に立つ人が居れば…」
明かりが灯り室内が見える部屋がいくつかあったが肝心の人影は見えず。
一応誰かしら住んでいるような感じはするのだが。
それでなければ部屋に明かりをともす必要も無いだろうし。
「…今日は収穫無しですかねぇ…」
かくだいくんを児童観察モードに切替え、何か変化があったらメッセージが飛んでくるように設定。
メッセージは関係者全員に共有されることになっている。
一通りの設定をした後、お風呂へ。
今日も境界の地へと向かい、地球の皆さんと合流する予定である。
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「まぁ、そんなことがありまして…」
「なんのことやらさっぱり分からぬぞ」
今日は何故か、かぼぱんのようです。
いつものように十六夜さんのおしりさまと対話をした後、スカート下から這い出す僕。
「まっておったぞ」
「こんばんは、校長先生」
校長先生はDSOVRをプレイしていないので直接境界の地へと飛ばされるのか。
「薫先生たちを呼びに行ってきますので」
相変わらず薫先生達はDSOVR側へのログインとなる。
「益田、後で尋ねたいことが…」
何かあったかな?
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「精霊についてですか?」
今日は露天風呂へとやってきた。
日替わりで温泉を楽しめるなんてとても贅沢をしている気がするがここは境界の地。
あくまでも仮想世界となる。
校長先生からの質問は精霊とは何ぞやという話でした。
「私が聞きたかったのはアトーリア建国に携わったという獅子の精霊についてなのだが」
「アトーリアの件は実は僕も殆ど知らなくて。代わりに分かる範囲で精霊の事を」
僕自身もよく分かっていないのであちらの世界での精霊の立ち位置を説明。
体に宿る原始精霊、そしてあちらの世界のいたるところに存在する下級精霊、そして上級精霊。
さらに人型の精霊など様々な精霊がいることを説明したのだが今一つ納得いただけないご様子。
「スマートフォンのアプリを作ったのも精霊と聞いたが」
「シース、レーネですね。彼女達は物に宿る精霊でしてまたすこし違うのですが」
付喪神とでもいうのだろうか。そういう意味ではもえも付喪神のような存在だが、彼女達はソードフェアリーという別名を持っていてさらにややこしい。
「例えばこの子達も精霊なんですよね」
いつ転移に紛れ込んだのか、干物精霊達の姿が。
魚に似た尾を持つ彼女達は露天風呂の中を泳ぎ回り、のぼせるとお湯の外に出て桶に張った水の中で休む。というのを繰り返している。
「ちなみに普通の精霊は人前に姿を見せることはありません」
存在が希薄で人に認識されるまでの魔力を持たないのが普通なのだが、僕が関わると彼女達は数十年、いや数百年単位での進化をすっ飛ばして顕現するのだ。
「精霊の事ならわらわが説明しよう」
校長先生と僕との会話に精霊の親分が割り込んできた!




