詩乃の人化竜名付けと勇者
「光属性 名前なし プレイヤー「シノ」に従属 LV255」
竜の初期ステータスはこんな感じだ。
出てきた竜はもちろん人化竜で、身長は140センチほどで金髪金眼。
額から1対の短めの角を生やし、尾も真っ白だ。
服装は無地の白いひざ丈ワンピース。
「勇者さま、さっそくぶいあーるへ!」
気の早い方がいらっしゃる。
「詩乃ちゃん、まずは竜を送還して一端ログアウトしよう」
「はい、益田さん!」
今の時間帯でも3Dにログインしているユーザーはいる。
これだけ光っておいて目立たぬわけがない。
ちなみに詩乃ちゃんだけがログインしている状態なので、僕の関与は疑われないはずだ。
急ぎ竜を回収、3Dのクライアントを閉じることに。
今の様子は画面キャプチャしており、社長たちにも共有をしてある。
「召喚はどうだった?」
少し遅れて社長がやってきた。
「すいません。先に召喚を…URだと思うのですが」
「まあよい。このままぶいあーるで確認を」
ということで皆さんではじまりのまちに繰り出すこととなった。
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「広場が広くなっている?」
「益田からのふぃーどばっくで中央広場の面積を5倍ほどに」
今後ユーザーが増えた際に待ち合わせ場所がなくなりそうだったので、社長に中央広場、竜のモニュメントがある場所を広げてもらうようお願いをしていたのだ。
これはサイレントアップデートとなり、ユーザーのいない時間帯に地形データの書き換えが行われた様子。
広場が広くなっていることに気付いたのか、みなさん挙動不審に。
ちなみに40人ほどの集団が居ても広場は問題ないほどに広がっていた。
「それじゃあ、詩乃ちゃん。さきほどの竜を」
「はい、呼び出します」
詩乃ちゃんは視線入力を使っているようだ。
VRのコントロールパネルは視線入力とタッチパネル方式があり、どちらもシームレスに使える。
虹色の光と共に先ほど呼び出した人化竜が姿を現した。
「ということで名前を付けてほしいんだけど何か候補は?」
「他の人とかぶっても大丈夫ですか?」
「竜の名前は大丈夫だと思うけど」
プレイヤー名は確か固有IDとなるのでチェックが入るはず。
「光属性なのでヒカリやシロは安直かなと思ったのですが?益田さん、何かいい名前はありますか?」
「ドイツ語でヴァイスとか…それこそ安直だけど」
なにかいい響きの言葉が無いかなと思い、白を意味するヴァイスが良さそうだと安直に。
「益田さんのおすすめにします」というのでヴァイスに決まった。
被りは無いよな?
「ヴァイス、拝命いたしました。シノさまご命令を」
名付けによって各種パラメータが再構築され、URにふさわしい力を得たようだ。
以前、カモネギコンビは歴史上でも有名な名前を付けたばかりに力を持ちすぎた竜に謀反を起こされ、大変な目に合っている。
名付けはそれだけ重要な意味合いを持っているのだ。
細かなステータス等は見てもよくわからんので省略。
「益田、さっそくテストを」と社長が乗り気だ。
そういえばひなちゃんやカモネギコンビの姿が見えないがどうしたのだろう。
今日は人が多いので廃城へと向かうことにした。
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「ということで、あそこにいるイタチウサギを狩ってもらおうと思います」
初見の人は絶対に驚く醜悪な顔をしたイタチウサギ。
後姿は完全にウサギなのに振り返った時のギャップがすごい。
何回見ても見慣れないという呪いのようなものが。
詩乃ちゃんもあまりのギャップに思わず後ずさるほど驚いている。
「それじゃあヴァイスに攻撃指示を」
おそらく一般の竜とちがいデバフがそのまま攻撃となるパターンと思われる。
うちの黒竜やドラゴンシスターズと同じだろう。
「ヴァイスちゃん、イタチウサギを攻撃して」
「シノさまの仰せの通り」
何処からともなく取り出された1.5メートルほどある白い弓に光る矢をつがえると、眼にもとまらぬ速さで撃ち始めた!
ヘッショされ、次々にポリゴン化するイタチウサギ。
どう見てもオーバーキルだ。
「弓を用いる竜は初見だな」と社長が。
殆どが自身のブレスか近接武器でしたし。
黒竜は別枠ですが。
まばらにログインしている他のプレイヤーは何事かとこちらを見つめ、スクショを撮っている様子。
日曜の昼間なのでもうちょっと多いと思ったのだが、廃城はそれこそ廃人向けの狩場なので昼間はそんなに人気が無いのかもしれない。
「ヴァイスちゃん、他の方法で倒せる?」
「今解放されている武装はこれだけです」
ステータスを見ると光弓術という見慣れないものがあり、それが攻撃に反映されているようだ。
いずれにしてもイタチウサギ相手に放つような物では無いと分かった。
幾分地形の変わった廃城を後にし、はじまりのまちに戻ることに。
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「詩乃ちゃん、ここで清算を」
姫さまが率先してサポートをしているので僕は見守り隊となっている。
NPCに冒険者カードを示すか、駅の自動改札機のような装置にカードを差し込むかの違いはあるが。
姫さま達は自動改札機をよく利用している。
というのもカウンターの位置が高すぎてお子様にはちょっとつらいというものが。
踏み台を用意してもらうのを忘れていた。
自動改札機は低い位置にも差込口があるので問題ない。
皆さん、戦利品を仮想通貨に変換しいつものように甘味処やコナモン屋台へと繰り出していく。
自分の稼いだお金で食べる甘味は格別なのかもしれない。
「詩乃ちゃん、なにか珍しいドロップはあったかな?」
「特には…イタチウサギの石というのが換金できずに残ってますけれど」
間違いなく初見のアイテムだ。
そもそも奴ら石を落とす要素ってあったかな?
「社長、これは設定されたアイテムでしょうか?」
考え込む社長。
もしかして存在Nが何かしらの干渉を?




