やや番外編「DSOのアカウントを作る詩乃」
「おかあさん、早く!」
「そんなに急がなくてもおじさんは逃げないから」
今日の実家行は昨日のうちに連絡してあり、課長本人を確保しておくよう自分の父母に伝えてある母親。
それでも心配な詩乃は一刻も早くDSO3Dのアカウントを作りたくてうずうずしているのだ。
「肝心なものは持ったの?忘れ物は無い?」
「もう車に入れたよ!」
ヘッドセット一式は付属のキャリングケースに収納可能。
元々持ち運んでの使用が考えられていたようだ。
使用しない際の収納ケースとしても使える。
母親は火の元と戸締りを確認、せかす娘を適当にあしらいつつ実家のある街に向けて車を出した。
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「おじさん!遊びに来たよ!」
飛びついてくる姪の処理に困る課長。
「兄さん、詩乃置いていっても良い?ちょっと母さんと買い物してくるけれど」
「どうせそのつもりで…」
既に課長の母親は出かける支度をしており、娘を兄に預けて二人で買い物に行くことは確定していたようだ。
「詩乃は兄さんに用事があるようだし、私たちが居ても仕方ないでしょ」と。
「わしは久しぶりにゴルフの打ちっぱなしにでも」
課長の父親は用事は済んだとばかりに家を出て行った。
父母は課長が今日出かけないよう見張っているだけの仕事をしていたまでだ。
当の課長は特に家を出る予定もなく、そこまでされなくても姪の面倒は見るつもりだったが。
「おじさん、わたしDSOVRやりたい!」
「詩乃がDSOVRを?」
「ネットで見て面白そうだとおもったから」
確かにヘルメット型デバイスでもプレイは可能だが、課長自身はつい先日までまともにダイブできずにいた。
オブジェクトの多い場所に出ると警告が出てそれ以上プレイが出来ず、検証どころではなかった。
それが突然、試作のヘルメットを変えたとたんに解消され、今はモンスターを倒す際のデータ取りを中心に行っている。
ヘルメットを送ってきた部署に問い合わせても回答は得られず、課長は何が起きたのか知る由もなかった。
「詩乃、DSOのアカウントは?」
「持ってない」
「それじゃアカウントを作るところからだな」
「アカウントだけ作ってくれればあとは詩乃がやるよ」
「VRで遊ぶ前に3Dクライアントで竜を最低でも1体入手しないとならないんだが」
「それも大丈夫。お友達に聞いたから」
「それじゃアカウントの作成とヘルメットの紐づけだけ…」
課長はこのゲームに関して何の知識も無いはずの姪が竜の入手の伝手があると言い出したので不審に思ったのだが、それ以上追及することも無く自宅のパソコンで姪用のアカウントを作成。
一度姪のアカウントで3Dクライアントを起動し、DSOVRのシリアルナンバーを打ち込んで紐づけを行った。
VRヘルメットを室内の無線LANに接続し、登録情報が反映されているかを確認。
3Dクライアントでヘルメットの認識が出来たことを確認し、姪に手渡す。
「詩乃、これでアカウント作成と紐づけが出来たから」
「おじさん、ありがとう!それじゃちょっと違うゲームで遊んでくるね。そうだ。これゲームやめるときどうすればいいの?時間が来るまで出られなくて…」
「右上の視覚メニューの中にログアウトがあるから其処に意識を向ければ大丈夫だ」
「わかった!それじゃちょっと遊んでくるね!」
客間のロッキングチェアに座った詩乃は早速ヘルメットをかぶり、ダイブしていった。
「詩乃が夢中になるようなコンテンツなんてあったかな…ちょっと心配だから様子を見に行くか」
課長はフルダイブチェアに横になり、自身もダイブを。
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「益田さんこんにちはー」
「詩乃ちゃんいらっしゃい」
約束の時間ぴったりにやってきた詩乃ちゃん。
ちなみに姫さま達も監視目的でログインしている。
日中はヘルメットでのログインとなり、リビングはヘルメットをかぶった子で占領され、ちょっと異様な雰囲気に。
「ところで課長は?」
「おじさん?何してるんだろ。私が先にヘルメット被ったから」
「困った時のヤマさん頼み…」
おそらく今日もサテライトオフィスで働いているだろうヤマさんにコンタクトを取ることにした。
今日、あちらは日曜のはずだがはたして…。
『ヤマです、何かありましたが?』
「すいません。こちらに詩乃ちゃんが来ているのですが、課長ももしかしてダイブしていないかと」
『課長さんのダイブチェアも起動中です。ローカルコンテンツを実行中のようですね』
「もしかして詩乃ちゃんを探しに?」
「VR機器同士をペアリングしなければローカルコンテンツの共有は出来ないしくみになっています。ちなみに詩乃さんのかぶっているヘルメットは課長さんのチェアとはペアリングされていません」
課長、何もないコンテンツ内をさまよっているんだろうか。
こちらからアクセスする権限が無いのでなんとも言えないが。
ちなみに僕から会いに行こうとしても多分無理だと言われている。
「とりあえず課長は放置して3Dクライアントで竜と縁を結びますか」
いつものように用意された謎PCの前に陣取り、先程作ったばかりという詩乃ちゃんのアカウントで3Dクライアントを起動。
キャラメイクはVRヘルメットで取得したデータを元にモデリングされ、リアルモジュールに近い詩乃ちゃんのキャラが作成された。ちょっと顔立ちが濃いですが。
チュートリアルは一旦中断し、そのまま冒険者ギルドへ。
「詩乃ちゃん、竜の属性は?」
「属性って何ですか?」
「得意な魔法が変わるんだけど、例えば火を選べばファイヤー系、水ならウォーター系…」
一通り説明すると、詩乃ちゃんは光を選んだ。
光は聖属性となり、癒しと魔を滅する力を得られる。攻守バランス型とも言える。
お待ちかねのガチャゾーンで25個の卵が並んだ。
光は3つあり、そのうちの1つが非常に輝いている。
SSR以上確定、UR30%と言ったところか。
シャッフルは何度でも出来るので詩乃ちゃんに尋ねるとその一番輝いている卵で良いと。
ちなみに社長の時の卵の輝きは画面全体が真っ白になるくらいのもので、あんなのを見たのは後にも先にも一回限り。
詩乃ちゃんがキャラを操作し、卵を受け取ると隣の孵卵場へと持ち込む。
NPCがお決まりのセリフを読み上げ、30秒ほど経つと虹色のまばゆい光に包まれた人型のシルエットが浮かび上がる。
30%を引いたようだ。




