DSOに興味を持つ詩乃と勇者
「詩乃ちゃん!」
自販機コーナーでスイーツづくしを楽しんでいた姫さまが詩乃ちゃんに駆け寄る。
「シルフィールさん、みなさん、お久しぶりです」
ダイブ環境が課長の家にしかなかったので、長期の休みくらいしか来られなかったんだよな。
あと、お父様の仕事の都合で詩乃ちゃんが課長宅に預けられていた時とか。
学校どうしたんだろうと思ったんだけど毎日課長が送り迎えをしていたそうで。
本当に姪にふりまわされてる感がすごい。
というより課長の妹さんの無茶ぶりがすごいのか。
まぁ、会うことは無いとは思うけれど…。なんとなく接続深度の関係でこちらに来られない雰囲気が。
詩乃ちゃんと僕との接点は彼女達の企業見学に付き合った事と、その後、課長宅にお邪魔して詳細を説明したくらい。
僕との関係でいえば課長の方が上なのだが、何故か弾かれてしまうという。
「勇者さまもこちらへ!」
しかし、見事に甘いものばかりだな。
スイーツの自販機、いつ増えたんだろうって感じで。
大人の方々のテーブルには乾きものとアルコールの姿が。
この辺はきちんと棲み分けが出来ているのだが、一部お子様は乾きもの目当てに大人の席に交じっている。
スルメとかジャーキーとか、本当に好きなんだよな。特に双子が。
僕はお子様達の席に呼ばれ、飲み物と甘味が積みあがった。
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詩乃ちゃん、今のところヘルメット型デバイスの弊害は出ていない様子。
接続深度はヤマさんに聞かないと分からないが、この様子だと10万以上は出ているはずだ。
課長がどう頑張っても5千を超えるかどうかという数値なのに。
今日のダイブログも明日くらいには解析されるだろう。
今日来ている地球組は詩乃ちゃんだけ。
薫先生は日中に滞在時間を使い切ったのか、DSOVRにもログインしていない様子。
そんなわけで詩乃ちゃんは40人近いうちの子達の質問攻めに。
話題は学校の話。
自分たちも通うようになった学校の授業風景を詩乃ちゃんに見せ、何か違いが無いか聞いているのだが…。
「益田さん、向こうに学校を作ったのですか?」と逆に質問が。
「元々あった学校に教室を増やして、ちょっと教材に手を入れたくらいで」
「うちの学校、タブレットが導入されたくらいなのに、立体映像の先生が教えるなんてまるでアニメのような」
ルナール先生のお姿を指さし、やや興奮気味の詩乃ちゃん。
確かに創作の中にしか出てきませんし。まぁ、やりすぎたとは思っているのですが、双子もノリノリで協力してくれたおかげで。
そんな学校の違いをあれこれ話し合っているうちに僕の体に変化が。
「滞在時間使い切ったみたいですね。僕はログアウトしますけど…後はよろしくおねがいします」
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勇者の体が緑色の霧に変わり、境界の地からログアウトしていく。
「益田さん!」
「勇者さま、今日は昼間こちらに用事があって滞在時間を使い切ってしまったようで」
「もっとお話したかった…」
『とりあえずリモートで入りました』
境界の地の壁面モニタが切り替わると、そこに映し出されたのは勇者。
「勇者さま、いまどちらに?」
『応接間の謎PC前です。ここなら時間を気にせずにそちらの様子を見られますので』
心配性の勇者は睡眠時間を削って別の方法で見守ることにしたのだ。
「益田さん、今使っているヘルメットでDSOVRはプレイできるのですか?」
『多分大丈夫だと思いますよ。事前に3Dでアカウントを作って竜を1体以上入手する必要がありますけど』
「それ、うちのおじさんでも出来ますか?」
『課長もDSO3Dのアカウントを持っていると思うので聞いてもらえれば』
「詩乃ちゃん、竜を選ぶなら勇者さまにお願いしたほうが良いです。必ず人化竜が手に入るので」
「人化竜?」
詩乃はDSOのプレイ経験が無く、今DSOを賑わせている人化竜については未知の情報だった。
「ちなみにこの子達も人化竜ですよ」
「バタドラと申します」
「黒竜…」
普通に話をしていた女子がDSOの竜だったと聞かされ、驚く詩乃。
『明日の昼間なら大丈夫かな』
「昼間はおじさんの家にいると思うので」
『ちなみに境界の地にある謎PCからでもアカウントの登録は出来るから…まぁ、課長にアカウントを作ってもらったほうが良いのかな』
「それじゃあ、アカウントだけ作ってもらってからここに来ます」
明日の予定のすり合わせが終わったころ、他のメンバーの滞在時間も切れる頃合いとなった。
次々にログアウトしていくあちらの世界の友人を見送り、一人残された詩乃。
「どうしよう、これどうやって抜けるのか聞いてなかった」
結局滞在時間が切れるまで、境界の地で一人ゲームに興じる詩乃。
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「勇者さま、おはようございます」
「おはよーぐる。姫さま」
応接間のPCでリモート接続していた関係で元の場所に戻れず、隅っこで寝ていた僕を起こしに来てくれた姫さま。
「今日は詩乃ちゃんの竜を選ぶんですよね。私たちも付いて行っていいですか?」
「僕は構わないけれど、昼間ログインすると夜の分が減りますよ?」
「大丈夫です」
しかし、姫さまの距離感バグは相変わらずと言うか。
寝ている僕にのしかかってするような会話じゃないですよね。
起き上がろうとしても両手両足に何かが張り付いていて身動きが取れないし。
結局ソネッタさんが朝食の準備が出来たと伝えに来るまでそのままでした。




