やや番外編「境界の地の洗礼を受ける美咲」
「薫先生、ここはいったい…」
「境界の地と呼ばれる場所としか私にも分からないわ」
接続テストの後、境界の地へと飛ばされた二人。
薫は勝手知ったるなんとやらだが、初ログインとなる美咲はそうはいかない。
フルダイブマシンも今回初体験ということもあり、すこしひんやりとした空気が流れる謎の空間に目を丸くしていた。
「薫先生、どうして服が山積みに?それにあれは戦車ですか?見たことのない形をしていますが…あっちにあるのは自動販売機とクレーンゲームですよね?」
目に飛び込むもの全ての情報が輻輳し、美咲はその場に倒れそうに。
「美咲殿、境界の地へようこそ」
振り返ると先ほどまでサテライトオフォスにいた佐々木社長が立っていた。
「こういうときに益田を呼んでおくと便利なんじゃが…」
昼間の時間帯ということもあり、勇者はログインしていない。
「まぁ、面接の日程も知らせてなかったから仕方ないか」
本来なら3日の猶予が必要と言われたが連絡したその日に面接が決まった。
美咲の日程が直前まで決まらず、ダメ元で電話をしたらまさかのOKが出た。
「土日もちょっと忙しくて今日を逃すとひと月くらい後になりそうで」
その分の休みは貰っているというのだが、そうなると薫との日程調整が難しくなる。
たまたま空いていた土曜になんとかねじ込めたという。
「とりあえず益田には連絡を入れておいたがあまり期待しないほうがよいじゃろう。あっちもいろいろと忙しいとぼやいておったし」
本日はいつものセリフを言うメンバーが誰も居ない。
「確か…何処にでもあって何処にもない、時空の狭間、時のとまりし境界の地へようこそ…じゃったか。そしておめでとう。ダイブシステムを貸与する」
今日のセリフは佐々木社長が代行。
「ありがとうございます!」と美咲が飛び上がって喜ぶ。
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「美咲殿にはヘルメット型のダイブシステムを使ってもらう。このヘルメット型のデバイスは社外に出すのが2例目となる」
最初の被験者は課長の姪、詩乃となった。
既に用具一式の送付と設定が決まっており、今日明日での設置となる。
本人の家庭と課長には連絡済み。何かあれば課長がサポートを行う。
このシステムはネット環境のある場所であれば自由に使える為、課長の自宅に持ってきても使える。
ヘルメット型の端末に関しては課長が第一人者となっており、自宅のダイブ環境が守られたと思ったのもつかの間、週末は泊まり込みで遊びに行くという姪の世話で休みがつぶれることとなる。
かわいそうな課長の事はひとまず捨て置いた佐々木社長。
「本当は益田が案内すれば良いのじゃが…こういう時こそ都合よく出てくるのが普通なのだが」
そんな独り言が通じたのか、境界の地に光の柱が聳えると中からちょっとくたびれた男が。
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「益田、まっておったぞ」
「とりあえず向こうのごたごたを一回まとめてきましたけれど、あれ?知らない人ですよね?」
薫先生の隣に立つ女性には見覚えが無い。
身長は160センチくらい、無難な茶系統のファッションに身を包んでいる。
そもそも妙齢の女性を初見で覚えられないという呪いが掛かっているので誰が誰やら。
あちらは僕の顔を穴が開くほど見つめている。
そんなに見られるような要素ってあるのかな。
「益田さん、あの益田さんですか!」
「なんじゃおぬしら、知り合いだったのか?」
「すいません、僕の記憶には」
がっくりとうなだれる女性。
「美咲、もしかして益田君と知り合いなの?」
「知り合いと言ってもまたいとこくらいの関係です。以前何度か」
はとこよりも遠いとなるとさっぱりだ。
「やはり益田の知り合いは接続深度が高めに出るようじゃな」
「それだと課長やうちの両親も高くなっても良さそうなのですが」
「その辺は謎じゃな」
「待って…益田さんたしか行方不明になって」
「ええ、絶賛行方不明中です。ここには来られるのですが」
ええええ…という表情で固まった女性。
さて、どうやって説明したものか。
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何度目になるか分からないが、地球と僕のいる場所の関係を話す。
「4500光年…」
「それも推測の域を出ないのですが、作りかけのスターマップが地球から観測できる星雲の形に酷似していたので」
境界の地のモニタに僕がいる惑星が表示され、徐々にズームアウトしていくと不完全ながらバラ星雲の形が見えてくる。
大体7割程度の探索結果が収められており、このデータは地球にも送ってある。
星雲内に存在する無数の惑星の環境データ付きで。
そしてこの事を知る人間は地球に十数人。あまりに突飛すぎて国にも報告されてない事なども説明。
まず、僕がここにいるという証明が出来る人とそうでない人に別れるところからの説明だ。
「ご両親には益田さんの写真が見えないと」
「ええ、両親もそうですが直属の上司にも見えないようで。見える人は限られています」
妹さまと鈴の姉二人、ひなちゃん、社長にヤマさん、そしてカモネギコンビ。
薫先生とオコジョさん、そしてアカネさんのお姉さん。
忘れちゃいけない課長の姪っ子、たしか詩乃ちゃんだったか。
DSOVRの手伝いをしてもらっている大学生二人組も大丈夫だったか。
あまり大っぴらに試せないのが何ともだが。
まだいると思うのだがいま思い出せるのはこのくらい。
見事に女性ばかりなんですが。
「益田、境界の地の案内を頼む。明日以降でDSOVRの紐づけをしてもらってあちらも案内を」
「分かりました。基本的に23時以降になりますけど大丈夫ですか?ヘルメット被って寝るのはちょっとしんどいと思いますけど」
地球側で使われているヘルメットデバイスがどんなものか分からないが、少なくとも僕らが使っているヘルメットで寝るのはちょっと息苦しいかもしれない。
適度に遮音され、光も入ってこないので安眠出来そうな気もするけれどちょっと厳しい気も。
今後のアップデートで改善をしていこうと思う。
まずは目の前の女性。
「本田美咲です」と本人から自己申告があった。
彼女の案内をすることに。




