二度あることはなんとやら?と勇者
「今日は大丈夫かな?」
タングラート商業ギルドの扉は真新しい木製のものに取り換えられていた。
初回、二回目とちっこいおっちゃんが弾き飛ばされて来たのでちょっと心配である。
「殿、さすがに三回目は無いと思うでござる」
「そこはお約束というフラグが」
二度あることはなんとやら。
ちょっと警戒して扉の前で身構えていたが大丈夫そうだ。
「サブロー様!」
拍子抜けしつつもドアを開けようとしたら後ろから声を掛けられた。
先程のおっちゃんである。
「例の物はギルド裏に用意してありますので、こちらへ」
ひとまずブツの引き取りに向かうことにした。
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「そんいえば今朝がた、これによく似た怪鳥が灯台樹の近くを飛んでいたと報告が」
アヒルちゃんエアカーを顕現させ、一本10キーラある魔鉄鋼のインゴットを積み込んでいるとおっちゃんからアヒルちゃんの目撃情報が。
「たぶんお使いに出した子ですね。ちょくちょく飛んでますけど害はありませんので」
餃子弁当や黄金饅頭、その他バッチ生産したお弁当を取りに行ったアヒルちゃんの事だろう。
他には飛ばしていないし。
「使い?ですか?」
「アヒルちゃんには自我があって大抵の用事は任せられますので。今もタングラートの城内警備に何体か貸し出してますし」
「古代遺物でしたよね?」と話に割り込んできたのは商業ギルド長。ちっこいおねえさんである。
「間違いなく古代遺物です。宝物庫に眠っていたものを借り受けていますので」
「人のいうことを理解して自力で移動できる古代遺物…」
まぁ、アヒルちゃんの可能性は無限ですが。
ひとまず積み込みは終わった。
街灯用に特別な比率で作られた魔鉄鋼のインゴットと聞いている。
色見はやや黒に近い青といった感じだ。
「お代は…」
金額聞いてなかったな。カード払いはOKなのだろうか。
「お代はいただくわけには。サブロー様にはお世話になりっぱなしですので」とギルド長から。
「漁船の押し戻しの解決もそうですが、港で水門につまった漁船の移動もお礼が出来ておりません」
そういえばクレーンゲームみたいなノリで座礁した船を救出したこともあったな。
「困ったときはお互いさまと言いますし」
伝わっていないようだ。
「後はまぁ、自身の徳を積むという目的も」
こちらの世界の言葉には翻訳されないようで、シロさんだけがうんうんと頷いている。
「僕の世界では他人を助けることでそれが自分に返ってくるという教えがありまして」
ここで宗教の話をしても多分伝わらないと思う。
なにしろこの世界の神は光の女神様ただひと柱のみ。
みなさん分かったような分からないような表情に。
「と、とにかくそのインゴットはそのまま持って行ってくだせえ」とおっちゃんが。
「では、ありがたく頂戴いたします。そういえば別口で大量の注文が入ったと聞きましたが」
「ああ、あれは断りました。話の出どころがはっきりしなかったもんで」
まぁ、真っ先に思い付くのは大教会だけど、魔鉄鋼を何に使うのかちょっと謎だ。
「何か困りごとがあったら相談してください。特に大教会がらみの件は真っ先に対応しますので」
ひとまず商業ギルドの裏手からアヒルちゃんエアカーを離陸させ、上空で停止。
「このままアトレーンに行って荷物を下ろそうと思いますが、この後の予定は大丈夫ですか?」
「特に何もないにゃ。今日はサブローの護衛で一日あけてるにゃ」
「拙者も問題ないでござる」
「どりあーども…」
ひとまずラダさんにアトレーンへ向かうと先ぶれを出し、ナビを設定。
もちろんナビゲーションピクシーのお仕事である。
実はずっと僕の頭上にへばりついていて、お昼も魚を何切れか食べさせている。
彼女もまたお魚のとりこになったようで、こんやもおさかなー。と。
魔鉄鋼を積んだアヒルちゃんエアカーはアトレーンに進路を向けた。
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「ラダさん、街灯用の魔鉄鋼を持ってきました。何処に降ろしましょう?」
「王宮の車寄せで構いません」との事だったので着陸した場所にインゴットを積み上げていく。
といっても10本しかないのであっという間ですが。
「材料はこれだけで足りるのですか?」
「はい、基本的に特別に配合した魔鉄鋼があれば問題ないかと」
ランプに当たる部分はどうなるんだろうとちょっと不安になったが、その辺は汎用の魔導具があるらしい。
この魔鉄鋼が中庭の植物から魔素を吸収し、夜間照明の原動力になるという。
「変わったことはありませんか?大教会以外でも構いませんけど」
「特に目立った動きは無いようです。触れの効果が出ていると思うのですが…」
大教会に関しては大幅な活動自粛とリング、メダルの提出を呼び掛けている。
祈りの形は問わないという基本的な教えがあるのだが、大教会の祈りの形は他者に危害を加えるものとして大々的に取り締まられることとなった。
殆どの信者は脱退して他の祈りの形に乗り換えたが、一部は国を出て魔導結界の外にあるという本部へと向かったらしい。
未だにその本部の場所が特定できてないのだが。
彼らは魔導結界に穴をあけ、出入りしていると聞いた。
もしその穴から高ランクの魔獣が結界内部に入り込むようなことになれば大災害を引き起こす。
そんなことが起こる前に対応をしたいのだが、その穴の位置すら不明。
今は各国に依頼をして情報収集をしている段階だ。
「お忙しいところすいませんでした」
「国王様が会いたがっておりますが、どうしても手が離せなく…」
丁度忙しいときに来てしまったようだ。
「また様子を見に来ます。今度はアルマも連れて」
一応この国のお姫様ですし、アルマ。
ひとまずアトレーン王宮を辞去し、ライスリッチフィールドへ戻ることに。




