定食屋で知り合いと会う勇者
現城主さんにお礼をして、タングラート城下へと繰り出す。
「サブロー、暗い顔してるにゃ」
「ココナの事を考えるとちょっと…」
もっと強く出ても良かったかもしれないと後悔を。
「それならシロに任せるにゃ。リリー隊長に相談するから大丈夫にゃ」
シロさんが所属する百合の騎士団、今はどこの国にも属さないと聞いているが国家間を跨いだ活動もしているのか?
ちなみにリリーさんは二人いて、一人はうちに入り浸っている。
シロさんのいうリリー隊長は先代のリリーに当たる。
みっちゃんさんの元になった方と一緒に戦っていたというので…年齢に関しては触れてはいけない。
「シロさんにお任せします」
「ところで入るお店も任されてよいのかにゃ?」
「ええ、喫茶店以外でお店入ったことないですし」
その喫茶店もねこのしっぽの系列店のみ。
城下町の飲食店に行くのは初めてな気がする。
それというのも全て大教会の…。
「こことか良さそうにゃ」
よくある大衆向けの居酒屋で昼は飯だけ出している感じのこじんまりとしたお店が。
店名すら出ていない。
「いらっしゃい、好きなところ座ってね!」
若い女性が店先で呼び込みを。
---
店に入ると10人ほどいた先客からの視線が。
メイド服姿の女子勢と得体のしれない服装をした男一人がふらりと立ち寄るような店ではなかった。
空いているテーブルに陣取るとカウンターに見知った顔が。
「あれ?鍛冶屋のおじさん?」
いつも商業ギルドの入り口からすっとばされてくるおっちゃんがごはん中でした。
「イザベラ!とゆ、ゆゆゆゆ」
「サブローで良いです」
勇者って言おうとしてもがもがしている。
まぁ隠す事ではないのですが。
「というか珍しいところでお会いしましたね」
「商業ギルドの打ち合わせでちょっくら外に出てその帰りでございます」
とってつけたような敬語になってるけど大丈夫かな。
おっちゃんと話をしている間にシロさんが全員の注文を伝える。
まぁ、昼時は定食と一品料理がいくつかある程度のようなので全員焼き魚定食なのですが。
「例の魔鉄鋼、準備が出来ていますが」
「取りに行ったほうが良いですか?」
「100キーラはありますが、あれに乗りますか?アトレーン行の業者に頼もうとしていたんですが」
あれとはアヒルちゃんの事だろう。
「大丈夫です。後で商業ギルドへ寄らせてもらいます」
「それじゃあ、わしは先に戻っていますので」
おっちゃんは残りのご飯を急いでかきこみ、お代を払ってお店を出て行った。
「サブロー、何か注文したのかにゃ?」
「アトレーン王宮の中庭にある街灯の作り直しに必要な魔鉄鋼を」
「例のアレかにゃ?」
フォースムーンの件はトップシークレットなのでここで話せる内容ではない。
「定食おまち!熱いんできをつけてね」
先程呼び込みをしていたおねえさんが焼き魚定食を次々と運んでくる。
ちなみにどりあーどさん、普通の食事も大丈夫だ。
ただ、代謝の関係でどうしても僕の力が必要となるのだが。食べ物の消化にも魔力が必要とかで。
「塩は薄めにふってあるから物足りなかったらショーユを」
これで大根おろしでもあれば最高なんだけど、無い物ねだりはしてはいけない。
ちなみに主食はパンとシャリのどちらかが選べるのだが当然のようにシャリを選んでいる。
焼き魚の厚い部分に箸を差し込むとほろほろとした白い身があふれ出る。
「サブロー、おいしいにゃ」
「殿!殿も早く食べるでござる」
「どりあーど、これ好き」
僕が観察をしている間にみなさん結構な勢いでお魚を食している。
魚種はわからないが見た目は鯛のような感じもする。
ちなみに吸い物もついており、そちらにも魚の身が。
シロさんの目が怖いのでまずは醤油なしで一切れ。
ちょっと塩気が足りない気がする。
醤油を垂らすと、身にジワリとしみこみよい香りが。
「シロもおショーユ欲しいにゃ」
「はい、どうぞ」
そういえば食べる前の写真撮ってなかったなと思いつつ既に遅しなので今回はあきらめることにした。
姫さまには口頭で説明をすることに。
みなさんもくもくとたべていらっしゃる。
特にシロさんとござる侍、おみみさまとおしっぽさまがせわしなく動く。ごはん時にこれだけ興奮するのも珍しい。
やはり猫人には魚が一番なのだろうか。
最初にガンを飛ばしてきた先客は異様な雰囲気にのまれ身動き一つできない状態となっていた。
ごはん食べながらオーラを出すのはどうかとおもいますが。
---
城下のそれなりに人通りのある店だったので、日本円で1食数百円程度となった。
お支払いが終わり、約束通り商業ギルドへと。
「おさかな毎日食べたいにゃー」
「拙者も同感でござる」
「どりあーども」
毎朝買い付けにアヒルちゃんを飛ばすのは可能だが、大黒屋さんに負担がかかりそうだよな。
「バイオプラント産ならなんとかなりますけど」
当然のようにあそこのレシピには焼き魚弁当も入っている。食べる人が居ないので作っていないだけだが。
焼き鮭の大きい切り身がどんとご飯の上に鎮座しており、ちょっと塩分量大丈夫かという感じになる。
そんな話をしながらぶらぶらと城下町を移動、海の近くにある商業ギルドへ到着した。




