二人だけの昼食会
年の頃は10歳くらい。金髪のかわいらしい女の子で、中世の絵画にでてくるような豪華な白いドレスを着て、頭にはティアラのようなものを装備していた。
ただ、蒼い目にいっぱい涙をためている。
そしておなかのあたりから「ぐーー」というかわいらしいかえるさんの声がする。
「きみ、おなかすいてるの?」
女の子はうんうんとうなずく。
「これ、食べてみる?」
女の子はまた無言でうなずくと、僕の隣に座ってバーガーを受け取り、しげしげと見つめてから、ぽつりと
「あの・・・勇者様ですよね?すこしお話してもいいですか?」
意外にも日本語が通じるようだ。勇者様という部分は完全に聞き流してしまった。
聞き流すだけで(ry
昼食会は参加二名になった。
女の子にバーガーを譲って僕はポテトをもしゅもしゅすることにした。
ぼろぼろと涙を流しつつバーガーを食べる女の子が話したことをまとめると。
自分はこの国の王女であること。
この国に代々伝わる預言書があり、そこには世界の終焉が描かれ、それを防ぐには異世界から呼び出した勇者の力が必要と書かれていたこと。
数日前から預言書に従い、異世界の勇者を呼び出す儀式を行っていたこと。
今朝の儀式の最中、預言書に新たなページが現れて、それが王女を勇者に喰わせよという内容であったこと。
その勇者は目の前にいる人だと思うということ。
人身御供となるため、自らの判断で絶食を(今日の朝から)して待っていたという。
せっかくの絶食が台無しみたいな感じもしたけれど、食べるように進めたのは僕自身だ。
それよりも異世界の勇者マジ鬼畜!と憤慨するも、話の流れからするとどうやら僕が勇者らしいと気づいた。
女の子がときどきむせるのでオレンジジュースを飲ませながら話をつづけてもらう。
あらかた食べ終わった女の子はベンチから立ち上がると、僕の前に来て両手をひろげてみせる。
「勇者様。私はあなたの糧となります。どうか食べてください。そしてこの世界を救ってください。」
「いや食べないから!そもそも食べるなんてどうするの!」
「方法はおまかせします。私を食べて力をつけていただかなければ、この世界は預言書のとおりになってしまいます。覚悟はできています!さあ!私をお食べください!」
女の子はぶるぶる震えながら言う。
女の子の顔をじっと見つめる。女の子もじっと見ている。ほっぺたには先ほどのバーガーにはさまっていたトマトソースがついている。
ふとある考えが浮かんで、女の子のほっぺたに手を伸ばす。
「食べる方法は決まってないんだよね?」
女の子はぎゅっと目を閉じてうなずいた。
おもむろに女の子のほっぺたについたトマトソースを指ですくって自分の口に入れる。
「はい、ごちそうさま。」
「えっ?」
「約束どおり、君を「食べた」 正確には君のほっぺについていたソースだけどね。」
禅問答みたいな感じになったけど、まぁいいのかなと思っていると
「ひめさまーーーーーー!」
白銀の鎧をがちょがちょいわせながら誰かが猛スピードで走ってくる。声の感じや整った顔立ちを見るとどうやら女性騎士のようだ。
女性騎士は急停止すると女の子をひしと抱きしめる。
「シルフィールさま!ご無事でしたか!お告げの説明は最後までお聞きくださいとあれほどお願いしましたのに、どうして途中で出て行ってしまわれたのですか!」
「城のベランダから勇者様がいらしたのが見えたので、私を食べていただこうと。」
「食べていただく? ち・・・ちがいます!勇者の糧というのは姫さまの力を魔力の無い世界からいらした勇者様に分け与えるという意味です。」
「あ・・・」
女の子は力なく座り込んでしばらく動かなかった。
女性騎士はこちらを向くと
「失礼いたします。勇者様とお見受けします。時間がありません。姫さまから加護の力をお受けになってください。そうしなければ」
そこで僕の意識が途絶えた。
お決まりのブラックアウトです。