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勇者の目覚め

朝食もそこそこに城内見学に向かった勇者ご一行。

最初の目的地、武器保管庫でなにやら怪しげな空気が流れます。

「勇者さま、ここがライスリッチフィールド城の第一武器保管庫ですわ。」


国王との会談まで時間があったので城の近くを散策をしていた。


姫さまと城の警備主任を従えたアロハ風シャツとジーンズ姿は奇異に見えるのか、城内を行き来する人たちの注目を浴びる。


シルフィール姫とマーガレットさんに連れられてやってきた武器保管庫。

双子は目つきのするどいメイドさんに預けてきた。

なにしろ危険物が山盛りの場所だ。いろいろと危うい。


もちろん双子が暴走したらの話である。


建物の大きさは縦横が100メートルほど、3層構造で高さは10メートル程度だろうか。

壁に、棚に、さまざまな種類の武器や防具が整然と並び、左のほうからは金属を叩く音が聞こえる。


まるで社会科見学に来たようだ。

一応、警備の兵士に断りをいれる。勇者だと名乗ったときの顔が忘れられない。

何しろアロハ(ry


マーガレットさんが説明してくれる。

「武器や防具の製造や修理もここでやっています。昔、大きな争いが頻繁にあった際はものすごく忙しかったそうですが、今は武器の管理や訓練で使用したあとの調整をするのが主な仕事です。」


棚の間を小さな子供が行き来している。幼いのに仕事熱心だ。

「彼らは地方の村から来ています。簡単な仕事をさせて報酬を払い、その一部を授業料として徴収し、読み書きや計算などの勉強をさせています。」

知識や教養は国の宝。国王の命により始められた制度。これについて「預言書」は無関係という。

費用をタダにしてしまうと向上心がなくなるからということで、教材費の一部を負担させているとか。


ものめずらしくて上のほうを眺めて歩いていたら、ふいにやわらかいものにぶつかった。


「きゃっ!」


「ああ、ごめん。怪我は無い?」

バケツとモップを抱えた子供にぶつかってしまった。床に汲んできたばかりの水がこぼれる。あわてて助け起こそうとすると、だれかが走ってくる。


「リーナ!何をしている!」

警備の兵士が血相を変えて走りよってくる。


「またおまえか!いつもいつもバケツをひっくり返して。勇者殿に無礼を働いてただで済むと思うな!」

兵士は手を上げる、子供はうずくまって動かない。


兵士が子供を殴ろうとした瞬間、マーガレットさんが止めに入ろうとする。

しかし勇者は自分自身が驚くくらいの速度で兵士の腕をつかんでいた。

「よせ!僕がぶつかったんだ、この子は悪くない。」


兵士の腕には魔導により強化された篭手が装備されていたが、勇者がつかんでいる部分に亀裂が入りミシミシといやな音をたてる。

「ぐっ!」


平時とはいえ、毎日厳しい訓練を重ねている。腕をつかんでいる勇者はお世辞にも強そうには見えない。

そして力を入れている様子も無い。しかし、まったくといって抗えないのだ。

昔聞いた勇者の二つ名、「ドラゴンマッシャー」、「メテオクラッシャー」 竜を素手で倒し、流星を呼んであたり一面を破壊する。

他にも恐ろしい名前が続く。おとぎばなしは真実だった。兵士はそう思った。


兵士はおとなしく引き下がった。


勇者は兵士に言う。

「何があっても子供に手を上げるのだけはやめてほしい。お願いします。」


そう言うと勇者は頭を下げた。


兵士はなぜか気絶した。たぶんここにいる兵士が束になっても勝てない。そんな相手が頭を下げる。

その行動のギャップに思考回路がショートしたのだろうか。


実際は勇者が無意識のうちに放出した大量の魔力が影響していた。

シルフィール姫の精霊の加護により、エーテルから変換された魔力は勇者の体内に十分すぎるほど蓄えられていた。

反応速度が上がったのも、腕力がおかしなことになったのも精霊の加護と魔力によるものであるが、「預言書」がヒントを与えておらず勇者にはわからなかった。

今、兵士の腕をつかんでわかったことは「なんというか非常に弱い」ということだけだ。

この認識があとでいろいろやっかいなことになる。


気絶した兵士は別の所属の兵士に台車に乗せられ、引きずられていった。

その様子をぽかーんとした表情で見送るシルフィール姫。

マーガレットさんは台車を押す兵士と何か話をしている。

兵士のショルダーアーマーにかかれたバラの紋章はマーガレットさんのブレストプレートの紋章と同じである。

ちなみにバラの騎士団というなんともな名前のついた組織で、トップがマーガレットさん。

全員女性で構成されている姫さま直属の騎士団である。


さきほどぶつかってしまった子供はうずくまったままだった。

「怪我してない?立てる?」


勇者は子供を抱えると座れそうな場所を探す。

近くに鍛冶場の休憩所があったのでそこに連れて行った。


青みがかった黒系の髪、緑色の瞳、犬のような耳とふさふさのしっぽが生えている。

耳は完全にぺったりし、尻尾はふとももに挟んでぶるぶるしている。

よく見ればスカートをはいている。女の子のようだ。

勇者の腕にしがみついて動こうとしない。

視界の片隅に給水器を見つけたのでシルフィール姫に頼んで水を汲んでもらい、子供に飲ませる。


ようやく勇者の腕を放し、両手で木のコップを持って、こくこくと水を飲む。


「あ・・・あの、助けていただいてありがとうございます。」

「リーナといいます。」


しゃくりあげながら話をするリーナ。


自分は仕事がうまくできず、いつも怒鳴られていたという。

最近は掃除をしている最中、一部の見回りの兵士にわざとバケツをひっくり返されたり、モップをとられたりと嫌がらせを受けていたそうだ。

自分だけでなくほかの子供も多かれ少なかれ被害にあっているという。

他の兵士の目の届かない場所で嫌がらせをするのでどうしようもなかったという。


「いままでどうしてだれにも言わなかったの?」


答えの予想は付いていた。

ここを仕切っているのはいやがらせをしている兵士だ。

それに告げ口をしても子供のいうことなど信用されるわけもなく、下手をしたら村に帰らねばならない。授業料が出るとはいえ、その他の費用は親や村が負担する。

借金をしてまでせっかく送り出してもらったのに帰れるわけがない。

黙っているしかないのだ。


彼女の目の前にいるのは城中で話題になっている、昨日現れたという勇者様だ。

この方ならきっと助けてくれる。そう思って話した。



「なんとかしよう。いや、やらないといけない。」

「勇者さま、わたくしもおてつだいしますわ!」


シルフィール姫も乗り気だ。

姫さまには重要な役目を果たしてもらうためにスマートフォンを持たせた。

操作方法は夕食の時にマスターしている。


ゆうしゃのはらわたはにえくりかえった!

ゆうしゃのたいないにふしぎなちからがみなぎる!

すぴーどとぱわーがきょうかされた!


国王との会談の前に一仕事する。そう決めた。



---


武器庫内3階の隅にある兵士の詰め所に向かう。

普段は誰も近づかないので嫌がらせが日常的に行われているとリーナから聞いたからだ。


途中、棚から魔導士用のローブを拝借する。シルフィール姫にも着せる。

フードを目深にかぶり顔が見えないようにする。

マーガレットさんは念のため後方待機をお願いした。


詰め所に近づくと、数人の男が男の子を取り囲んで小突き回していた。


「ほらほら、もっと打ち込んでこいよ。そんなんじゃ剣士になんてなれないぜ」

「それで仕返しにきたつもりかよ」

「おれたちが直々に指導しているんだ。もっとうれしそうな顔をしろよ」


練習用の木刀を持たされた男の子は涙をこらえて立っていた。

兵士は金属でできた練習用の剣で男の子の頬をぺちぺちと叩く。


ここで殴りかかりたいのをぐっと押さえる勇者。シルフィール姫は兵士の堕落っぷりに怒りを抑えきれない様子だ。


シルフィール姫には打ち合わせどおり、すこし後ろで例のものを準備させる。


「失礼しますー。有名な剣の師匠様にこちらで稽古をつけていただけると聞いてやってきました。」


なるべくへらへらした感じを演出する。


「なんだおまえ、魔導士じゃねーのか?俺たちは「剣の練習」をしているんだよ。見ればわかるだろ?」


「ええ、魔導士にも飽きたので剣の稽古をつけていただきたくてー。」


兵士にしてみればいいカモが舞い込んだと思ったのだろう。

「ほう、いい心がけじゃねーか。今回は特別にタダで指導してやろう。」


兵士は男の子から木刀を取り上げ、こちらに投げてよこす。木刀はわざと受け取らずに体にあて、よろめくふりをする。

兵士から嘲笑の声が出る。計画通り。


勇者は木刀を拾うと、軽く構え、刀身を裏返す。

両刃の木刀にミネ打ちも何も無いが雰囲気で。


「それではお手合わせねがいますー。」


兵士の一人が言い終わる前に切りつけて来る。練習用とはいえ向こうは金属の塊だ。

そのなまくら剣が勇者の肩に食い込む。ように見えたが一瞬早く剣を払い、兵士の肩の辺りに一撃を入れる。


ぐあっ!とうめいて倒れる兵士。


「いやー遅いですねー。本当に兵士の方なんですか?」


それを見ていたほかの兵士が逆上した。

「てめー!なめたまねしやがって!」


テンプレどおりのリアクションありがとう!


一斉に切りかかってくる兵士。剣を叩きおとし、篭手を打ち、胴をなぎ、肩に一撃入れる。


またたく間に気絶した兵士の山ができた。


最後に班長と思われる兵士が残った。


勇者の中二病スイッチががちゃりと音を立てて入った。


勇者は班長に告げる。


「力はだれかを守るためのもの。自らの欲望のために使う力、人はそれは暴力という。」


「我は暴力を粛清する者。暴れん坊ローブ。」


「おまえにふさわしい「罰」は決まった。」


「ジャッジメント・デス・レイ!」


適当な技の名前をつけて、木刀を捨てて倒れた兵士の持っていたなまくら刀をつかむとむちゃくちゃに振り回す。

最初は耳障りな風切音が響き、すぐに聞こえなくなる。可聴領域を超えたのだ。勇者の周りに暴風が吹き荒れ、ほどなく空気との摩擦熱で刀身が真っ赤に染まる。正確には断熱圧縮か。

幾重にも重なる紅い軌跡が班長の恐怖心をMAXにする。力任せに振り回しても刀がぶっ壊れないのは無意識のうちに魔力で強化を行っているためだ。これも姫さまの持つ精霊のアシストがあってこそだ。

なまくら刀はなまくら改に進化した!


「ジャッジメント・バーニングクラッシュ!」


また適当な名前をつけて班長に向けて赤熱したなまくら改を振り下ろす。

班長の身に着けていた防具は風圧で紙切れのようにまっぷたつにされ、魔で始まる某ゲームの主人公のように下着一枚となる。

刀を振り下ろすと同時に相手の防具と体の間に防御障壁を張っていることなど誰も知らない。

障壁の効果が届かなかったのか剣の高熱により頭がアフロヘアになったことも付け加えたいがやめておこう。


「成敗!」


班長はそのまま気絶した。


ほんの一瞬で勇者による粛清は完了した。


マーガレットさんに頼んで気絶した兵士達を運ぶ手配をしてもらう。

行き先は営倉だ。

ほどなくかごのついた台車をもって駆けつけたバラの騎士団に運ばれていく。昔、社会科見学で見た冷凍マグロの運搬車を思い出す。

マーガレットさんも確認のため同行した。


ちなみにシルフィール姫にスマートフォンを持たせ、一部始終を動画撮影させていたのは言うまでも無い。


国王との会談でこの動画を見せることをシルフィール姫にも伝える。



座り込んでいる男の子に声をかける。


「ぼうず、だいじょうぶ」


「ボクはぼうずじゃない!」


「ははは、すまなかった。ならず者と戦った立派な男だもんな」


「だ・か・ら ボクは男じゃない!」


そういって立ち上がるとかぶっていた帽子と上着を取る。


肩まで伸びた真っ赤な髪ときれいな顔立ち。よく見ると胸元は姫さまよりエクセレントだった。


「ボクはアイリス。女だと馬鹿にされるから男の格好をしていたんだ。兵士が妹たちに悪さするから仕返しをしようとやってきたんだ。でも全然歯が立たなくて。」


「あなたの剣の腕前を見込んでお願いがある」

そういうとアイリスは地面にひれ伏す。


「ボクを弟子にしてください!」

勇者には剣の扱いなどできない。さっきのは精霊の加護の元、力とスピードにものを言わせただけだ。


勇者はまだ中二病モードのままだ。

「我が剣はまだまだ未熟。そなたに教えることなど無理だ。後で我が剣の師匠を紹介しよう。」


アイリスの手をとって立たせた。


師匠の心当たりは一人しかいない。すんません。


シルフィール姫とアイリスを伴って鍛冶場の休憩室にもどる。なまくら改も持ってきてしまった。リーナは先に戻っていたマーガレットさんと話をしていたようだ。すっかり元気になったリーナが駆け寄ってきた。


「勇者さま、悪い人やっつけてくれたんだ!・・・おねえちゃん!」


リーナはアイリスにしがみつく。

リーナを助けたいきさつを話した。アイリスはすっかり恐縮していた。


「妹まで助けていただいて、その、先ほどは無礼なことを。」

「気にしない気にしない!堅苦しいのは無しで!」

「そうだ、剣の師匠を紹介しよう。」


マーガレットさんを指名した。あわわ!という顔をするマーガレットさん。

僕も参加するということにして、剣の練習は日を改めてということになった。


第一武器庫を後にする。そろそろ昼時だなーと思い、来る途中に見かけたアレを思い出した。


「屋台」だ


昼ごはんを食べにあそこにいこう。


---


屋台のことで頭がいっぱいになり、鍛冶場の休憩室に置き去りにされた例のなまくら改。


休憩の為にぞろぞろとやってきた職人達がその剣に気づく。

兵士の誰かが忘れていったのだろうか、無用心だと思い、鍛冶責任者が手にとって見る。

「なんじゃこりゃ!」


刀身はガラスのような光沢をしたコーティングがなされ、見たことの無い文様が浮かび、それはマジックサーキットの一種だろうという点までは想像がついた。


しかし中身の刀身と柄の部分を見る限りは量産されたなまくら刀だ。装飾用の剣にしてはデザインが悪い。かといって実践で使うにはまったく切れそうも無い。


おふざけでなまくら刀にこんな細工をするやつなど見たことが無い。

いや、このような加工ができる職人など見たことは無い。


刀はマジックサーキットが施されていることから、魔導士の鑑定を受けるためにシルビアの元へと運ばれた。


簡易鑑定用水晶による診断結果

不確定名「ゆうしゃのたわむれ」

残念ながらシルビアにはこの文字が読めなかった。

その剣はそれ以上の鑑定は受け付けないという困った事態になった。


勇者がシルビアの仕事場を覗きに来るまでの何日か、シルビアを悩ませたことを記録しておこう。

勇者の知られざる能力がすこしだけ発揮されます。

実際は精霊の力なのですが!


そういえば屋台村と魔界村は響きが似ていますね。

あとけもみみろりは良いものです。


7/23

武器庫内3階の隅にあるある兵士の詰め所に向かう。

武器庫内3階の隅にある兵士の詰め所に向かう。

typo修正しましました。

しましまは良いものです。

猫の柄ですよ!

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