やや番外編「とある魔導士の不寝番」
「ひめたべラジオ第十二回放送 」
シ「ひめたべラジオじゅうにかい!きょうはシースとレーネがおとうばんなの!」
レ「です!」
「「マスター!きいてますかーなのー」ですー」
シ「レーネちゃん!あたらしいまどおぐのごほん、おもしろそうね!」
レ「サニーおねえちゃんのやくにたつまどおぐもすぐにつくれるかもです!」
シ「えっと、よげんしょさんからおてがみがきています!えっと、こぞうの…」
レ「シースちゃん!おなまえよんじゃだめみたい!です!」
シ「にゃは!なの!」
ぴーーーーーーー(放送中断
ここは、ライスリッチフィールド城の地下深くにある金庫室前詰所。
ここは何度も増改築されたお城の中でも一番古い区画といわれています。
金庫の中には国の政治をつかさどる「預言書」が入っているそうです。
重大なことが起こらない限り、この扉が開くことはありません。
勇者様召喚の際に開いたのですが、私達は中に入ることが出来ませんでした。
私がどうしてここにいるのか?
「預言書」のお告げを待つ不寝番として詰所で待機中なのです。
ちなみにお告げがあったときは鈴の音が鳴り響くと聞きました。
突然の天変地異、魔獣の襲撃など緊急を要するお告げは昼夜を問わず起こるのだそうです。
---
「お姉ちゃん、今日も何もなさそうね」
隣でちょっとだらけているのは、バラの騎士団で活躍している私の妹。
「預言書」の不寝番はバラの騎士と魔導士がセットで任務に当たります。何かあったときに足の速い騎士はいろいろと重宝されるのです。
魔導士は二人がうっかり寝てしまわないよう、眠気を打ち消す魔導を定期的に掛けるのが役目です。
ちなみに地上の入り口では男性の兵士が不寝番をしています。防犯のためですが。
あと一ニール(二時間)ほどで交代なので、もう少し気合を入れないと。
「ちりりりりん」
不意に聞こえた妖精の羽音のような…。いや妖精というものは見たこともありませんが。
「お姉ちゃん!」
「スーちゃん、静かに!」
「ちりりりりん ちりりりりん」
確かに金庫室の中から鈴の音が聞こえます。
「スーちゃん!お願い!」
「了解!」
上級魔導士を呼ぶため、地上に向けて走り出す妹に身体強化魔導を掛け、私は金庫室へと向かいます。
金庫室の扉がひとりでに静かに開きます。
金庫室は何部屋にも分かれていて、一番手前には「預言書」のレプリカが保管されています。
普通のお告げはこの「レプリカ」を見ることで分かるそうなのですが、なにぶん見るのも聞くのも初めてです。
私は、上級魔導士のみなさん、あるいはサバンナさんやシルビアさんが駆けつけるまでの間、「預言書」のレプリカに起こったことを克明に記録し、連絡するという仕事があります。
普通の本の何倍も大きな「預言書」のレプリカが一瞬淡く光ると、ものすごい速さでページがめくられていきます。
そして、あるページが開かれました。
「これは…」
恐る恐る覗き込むと、何色もの絵の具を撒き散らしたようなおどろおどろしい文様が見えました。
それは人の形なのでしょうか…。剣を構えた人物の隣に小柄で黒いドレスの女性のような…子供でしょうか?
そして、そこに書かれた文字をうっかり読んでしまったのです。
『われは「預言書」異世界の勇者より聞きし、コーカンニッキなる風習に興味を持った。それは互いに言霊をやりとりする遊びと聞く。これを最初に見たものはわれに言霊を返すのじゃ!』
私はその場で卒倒しました。
---
「「預言書」と交換日記ですか?」
僕のところにサバンナさんに付き添われた半泣き状態の魔導士さんがやってきて、今朝起こった話を聞かされている。
「十六夜さん…」
僕は頭を抱える。夕べ話した事を早速実行するとか無いだろう…。しかも「預言書」で。変な声が出そうなのでうつむいて何とか笑うのをこらえた。
目の前にいる二人は本当に死にそうな顔をしているからだ。
こらえすぎて目じりにたまった涙を拭きながら、
「だ、大丈夫ですよ。普通に返事を書いてあげてください。そう、今日のお天気とか、朝ごはんのメニューとか。お菓子の話題とか。洋服とか。本当に取り留めの無い内容で」
二人にしてみれば神そのものである「預言書」にそんな恐れ多いことが出来るか!という気持ちだろう。
僕が返事を書いても良いかもしれないけれど、「預言書」は僕以外のつながりもほしいんだろうかと勝手に解釈した。
僕になら「めぇる」を送ってくれば済むことだから。
---
今日、サバンナさんに同行していただき、初めて勇者様のご自宅に伺いました。
間近でお話をするのも初めてでした。
お披露目のときに見せた怖い感じは無く、とても気さくな感じの方でした。
姫さまをはじめ、綺麗な方々がたくさんいらっしゃって、女の私でも目の保養にもなりました。
双子の精霊さまが無邪気に走り回るお姿には本当に癒されました。
勇者様は「預言書」のことをよく知っておられるようで、親身になって助言してくださいました。
でも。すこし不安です。
勇者様がうつむいて涙をこらえている姿。気さくに返事を書くようにとおっしゃられましたが、失敗したらとてもよくないことが起こるのでしょうか。
あと、妖精という存在も初めて見ました…見なかったほうがよかったかもしれません。ちょうど勇者様が何かの罰だとおっしゃられて妖精の体にそれはそれは…
やっぱり言えません!
---
私は今、「預言書」さまへの(この際「さま」をつけることにしました)返信を書くために寮の自室に篭ってかれこれ三ニールほど悩んでいます。
下書きをしては消し、消しては書き。
紙とインクを浪費するばかりで一向に進みません。
もう精神も擦り切れそうな感じになったとき、誰かが部屋にやってきました。
「どちらさまでしょう?」
「あの…エイトです。勇者の」
「勇者様!」
私はあわてて部屋を片付けます。脱ぎ散らかした服やたたんでいない下着だけでも!女子だけの寮はどこもこんな感じだと妹も言ってました。
なんとか袋戸棚につめ終わり、勇者様を出迎えます。
そういえば、この部屋に男性を入れるのは初めてです。近隣の部屋から何事かと同僚が集まってきたのですが、思い切り力をこめて追い返しました!
「あの…交換日記の話。僕が「預言書」を焚きつけたみたいで。迷惑をかけて本当にごめんなさい」
勇者様が目の前で頭を下げられている姿を見て、私は幻でも見ているのかと、自分の手の甲をつねってみたりしました。痛い!
それから、勇者様がコウカンニッキの書き方を指南してくださり、無事に返事を書くことが出来ました。
まる文字とか花丸とか、あとは覚え切れませんでしたが、勇者様はいろいろな事をご存知でした。この方なら必ず世界を救ってくださると改めて思いました。
勇者様が帰られる際、袋戸棚が突然バーンと開いて、わたしの…が…勇者様の頭の上に…
それは忘れます!
---
その後、「コウカンニッキ」専用に「預言書」のレプリカがいつの間にか作られ、今では魔導士のみんなが思い思いに返事を書いています。
「預言書」さまは神様だけど普通の女の子みたいな。そんな感じがしました。
今回はハードラックとトラブってしまった魔導士のおねーさん視点でお送りしました。




