境界の地温泉と交換日記
たまには温泉に行って手足を伸ばしたいです。
かぽーん。
僕は「境界の地温泉」の浴槽で絶賛ぐったり中である。
ひざの上にはのぼせたおもらしさんがいる。
エリーゼスさんと興奮さめやらぬエランを空いているゲストルームに案内し、僕はそのまま自分の寝室で倒れるように眠ったはずだった。のに。
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ふと気がつくと目の前にメガネロリこと十六夜さんがいた。
「小僧の気配が急にうすくなったのでな。何事かと思って呼び寄せたのじゃが…」
僕は十六夜さんに「鍵」の一件と魔導体系書の事を話したが、うーむと唸ったまましばらく考え込んでしまった。
「そういえば時空のひずみが何とかと魚の人が」
「こちらの世界に小僧を呼んだ際、どこかにほころびが生じたのかも知れぬ…人を運ぶのが精一杯のはずが、あのような鉄の箱に入ってくるとは予想外じゃったわ」
十六夜さんが不穏な事を口走る。
「え?もしかして召喚に成功したのは偶然なんですか?」
しまったという顔になるメガネロリ。話題を変えようと必死になる。
「ところで魚?魚人じゃと?そのような種族がいる世界につながってしまったのか!」
「知っているのか十六夜」
「いや、魚人のいる世界については知らぬ。言ってみただけじゃ」
僕は盛大にずっこけた。
「小僧、おぬしが背中を流してくれれば何か思い出すかもしれぬ。どうじゃ、久しぶりに」
いま知らないって言ったじゃないですか!
それと、この前一緒に入ったばかりだと思う。
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いつものようにバミューダを装着し、お風呂に入る。
年齢不詳のようじよが惚けた顔をして脱力している。
おもらしさんの本日のお召し物はお子様ビキニでした。スク水を拒み続けていたので新しく作ったのかもしれない。
そして、調子に乗って洗いすぎてしまいました。
「こ…小僧。おぬしは手加減というものを知らぬのか…」
いつものやり取りである。
「いつの間にかレベル128になってしまって」
僕の数少ないジョブの一つ、[風呂屋の三助]はバラの騎士団や宮廷魔導士のみなさんを玉の肌に磨き上げることで、知らずにレベルアップしていたのだが、僕はその事を知らなかった。
僕はおもらしさんがおもらししていたかは確認せず、そのままお湯で泡を流した。
話は冒頭へと戻る。
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「何か思い出されましたか?「預言書」さま」
返事が無いと思って彼女の顔を覗き込むと、右目に「宇宙」が見えた。いつもながらどうやって宇宙規模の事象を再現しているのか不思議で仕方ない。
「すまんの!ちと考え事をしておった」
おもらしさんの右目から宇宙が消える。
「何か見えたのですか?」
「いや、見えたというか、見えないというか。不確定要素が増えて「演算」がなかなか終わらなくなってしまっての」
「ちとのぼせたわい。小僧、いつものようにたのむぞ」
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おもらしさんは猫の着ぐるみパジャマに身を包み、脱衣所の前で待機していた。
「に」
「にゃーんとか言ったら首根っこホールドで連れて行きます」
「にゃんだと!」
いつものようにプリンセスホールドで寝室まで移動する。しかし、この殺風景な廊下は何とかならないのだろうか。所々、配管や何かの制御盤がむき出しになっている。
「今、わしは小僧だけを見ておるから気にはならんぞ。それと、通るのはわしと小僧、あとはひなくらいじゃからの」
ひなちゃんといえば「めぇる」の件も聞きそびれていた。そして何かすごいことをしれっと言ってのけた、このメガネロリBBA。
「スルーするでない!」
あまりのショックに寝室を通り越してトイレの前まで来てしまった。二重の意味でスルーした。
「十六夜さんだけ見てると躓いて転んでしまいますし。あ、寝る前にトイレ行きますか?もらしたりしませんか?」
「うぐぐぐ」
フードについたねこみみがピクピクしている。
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スケール感の狂う寝室。巨大なベッドの上に横たわる大小の影。
「おぬし、ひなと「めぇる」はしておるのか?」
「してはいますが…何というか文字数が少ないのと返事が来るまで丸一日かかるのがネックですが。交換日記みたいな感じですね」
「なんじゃ、その交換日記とは」
僕は女の子がファンシーなノートで友達とやり取りをする、特殊なデコレーションを施した半二重式の通信プロトコルについて説明をした。
「ふむう。小僧の世界にはそのような風習があるのか…」
いつの間にか寝てしまった十六夜さんの寝顔を眺めながら、僕は睡魔にその身をゆだねる。
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次の日、城の金庫室に保管された「預言書」にカラフルなページが現れ、返信をするようにとの文章が現れた。
「預言書」は神託であり、数百年の間、神からの一方的なシグナルだと頑なに信じてきた人々に衝撃を与えた。
この件は僕にも伝えられ、笑いをこらえるのに必死になってしまったが、それを見たサバンナさんは深刻な事態と勘違いし、話はどんどんと逸れていく。
僕が頭を抱えて苦しむ様子を見て、返事を間違えたら災いが起こるのではとのうわさも立った。
そんな深刻なものではないと伝えたのだが、当番に当たった魔導士の女の子は泣きながら返事を書いていたという。
ちゃんと謝りに行きましたが、謝られている女の子は何故謝られているのか分からずに混乱し、事態の収束には丸一日を要した。
いきなりはダメだろうと「めぇる」で釘を刺しておきました。
この騒動で、例の魔導体系書についてサバンナさん達と話が出来たのが夕方過ぎ。
こちらも大騒動となった。失われていた魔導技術の一部が突如として目の前に現れたのだから。
勇者の何気ない一言でとんでもない事態に!




