鍵は鍵穴に挿すものとは限らない
ようやく100話目です。(人物紹介などを含む!)
ギャラリーの中にテスラがいた。
ようやく復活したようだ。真っ赤なメイド服は返り血を浴びた戦士にも見える。
あのずたぼろになっていた赤いドレスはきれいに直るらしいと聞いた。ソネッタさんが手配してくれたようだ。
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いつまでも席に座ろうとしないお嬢様と侍女の人を着席させて、お夕飯をいただく。
今日はキーシメンらしい。ぶっとく平たいパスタにも見えるが、きしめんだ。ミートソースでおいしくいただきます。
双子がウードン!ウードン!と連呼している。似たようなものだがそれは戦争の火種にもなるから幼注意だ。
ウードン大戦というキーシメンとウードンがシェアをかけて争ったという伝説を思い出す。
出汁で出汁を洗うひどい戦だったと聞く。
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夕食後、あらためてお嬢様と侍女の人の名前を聞く。
お嬢様はサニー・ディ・ゾンネ、侍女の人はルーナと名乗った。
魔獣が襲った馬車に乗り合わせていたのは確かなようだ。テスラが魔獣に立ち向かおうとするお嬢様を制止したという。
詳しく話を聞きたかったが明け方の騒動から一睡もしてないようなので、来客用の寝室を使って休んでもらうことにした。
サニーはずっと点火用の魔導具をもっていたので、僕が預かる。
夢の中でプラズマを発動されたらたまったものではない!
かくいう僕も非常に眠くなってきた。双子ともえは僕によりかかりうつらうつらしている。
ふと、さっきポケットに入っていた鍵の存在を思い出した。
よく見ると、鍵には精巧なマジックスクリプトが施され、薄い緑色の光を発している。
「「マスター、みせてなのー」ですー」
魔導具の魔改造スペシャリストに見つかってしまった。
「よくわからないものだから気をつけてね」
「「はーいなの!」です!」
注意しようと思ったが遅かった。
双子は鍵を受け取ると部屋の隅に行き、普段使っていない客間のドアへ唐突に「がっ!」と鍵を差し込む。
いや、あのドアに鍵はついていないはずだ!
「がちゃ」
ドアから何か重々しい気配が発せられる。体全体にのしかかる重力のような感じだ。
「エイトさま!どうしました!」
台所にいたソネッタさんが、あわててやってきた。
「ぎいいいいぃぃぃぃぃ」
「「マスター!あいたなの!」です!」
ドアの向こう側には無機質な灰色の通路が広がり、人工的な明かりがともされている。しかし、突き当たりが見えないほど遠くまで通路が伸びていた。
通路は高さが二メートルほど、幅は一メートルちょっとだ。
「自宅」にはこのような廊下は存在しない。
あきらかにどこか別の空間に「つながって」いるようだ。
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開いたドアは閉めることができず、重々しい空気が流れ出る灰色の通路がそのままになっている。
「これ、どうみてもコンクリート製だよなぁ」
素振り用の木剣でおそるおそる通路を叩いて確認をしたが、「カン!カン!」と乾いた音が響くばかりだ。
「僕一人で様子を見てきます!」
あつまったギャラリーが通路に入ろうとしたが、僕と双子以外は弾かれてしまう。
シースとレーネは乗り気になっているが、どんな危険があるか、いや危険を増やすか分からないのでお留守番をしてもらう。
念のため、目印をつけるためのペンと糸巻きも用意した。
僕は「すまほーちゃん」と木剣を持って通路を進む。
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どこまでも続く灰色の通路。
等間隔に取り付けられた明かりだけが、どちらに進んでいるかを確認できる目印となっている。
いや、この明かりすら何かの罠かもしれない。
「すまほーちゃん」のタイマーによれば30分ほど進んだことになっていたが、どうもその場にとどまっている感じがする。
歩いているのに、腰につけた糸巻きから糸がまったく出て行かないのだ。早く気づけ僕!
「これは…動く歩道!」
やはり罠だったようだ。途中から足元の板が歩いた分だけ後ろにさがり、それに応じて明かりも動くという手の込んだ物だ。
手にしていた木剣を前に投げると、ばきっ!と前方にあった何かを破る。
「書き割り?いや半透明の投影スクリーン?」
びりびりに破れたスクリーンのような物の向こうにもう一枚、ドアが見えた。
僕はおもむろに左右の壁に手をついて前にジャンプすることで後ろ向きに「動く歩道」を回避した。
ドアノブに手を触れる前にドアは勝手に開いた。
果たしてドアの向こうには…
カラフルなドアが何十枚も立ち並ぶ大きな部屋に出た。振り向いた瞬間、今入ってきたドアは消えていた。
目印の糸も切れてしまった…。
100話目にしてなにやら迷宮のような場所へ!