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Trans Trip!  作者: 小紋
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2‐(7).目新しさに惑わされない

 大きな大きな正門をくぐり、街の中へ。はじめて入る異世界の街は、大きくて綺麗でファンタジーだった。

 正門をすぎてからしばらく歩いたが、どこの道をどう来たのかは覚えていない。何故なら興味深いものが多すぎるから。

 まわりにあるもの全てがおもしろい。

 先程なんて、大きな武器屋っぽいものを目にした。ショーウィンドウに槍やら剣やら斧やらたくさん飾ってあったから、あれは絶対に武器屋だ。トカゲっぽい人と、うさ耳の生えた無精髭の男の人が商品を手にとって話をしていたのが見えた。すごい組み合わせだ。


 その二人を見かけたときに、種族について、ニーファに尋ねてみた。

 虎耳のソーリス、白い豹耳のエナは、エディフという種族だそうだ。獣っぽい人全般のことをこう呼ぶようで、虎とか兎とか、哺乳類の特徴が外見にあらわれていれば全部エディフ、だそうだ。エディフには、耳や尻尾など、身体のごく一部に獣の特徴を持つただの人間に近い姿の者と、獣が二足歩行をしているような姿の者がいるらしい。ソーリスとエナは前者のほうだ。人間に近い方のエディフは、耳が獣っぽいとか、尻尾が生えているというだけではなく、動物の種類によっては他の体の部位にも特徴がでてくるらしい。例えば、猫のエディフであれば瞳孔が縦、とか。それを聞いた時、虎と豹もネコ科なんだから瞳孔が縦なんじゃないかと思って聞いてみたのだが、虎と豹の瞳孔は円形をしているらしい。知らなかった。

 そして正門前の広場で見かけた、トカゲの二足歩行のような人たちのことをプティー、鳥の羽根の生えた有翼人種をウィオーネと呼ぶそうだ。プティーはエディフと同じように、爬虫類が二足歩行をしているような姿の者と、身体に鱗が浮かんでいて少しだけ爬虫類の特徴を持つ者がいるそうだが、ウィオーネはそうではないらしい。ウィオーネはほとんど全ての人が背中に翼を持っていて飛ぶことができる、という特徴を持つだけで、完全に鳥っぽいって人はいないとか。だがごく稀にだが、手足が鳥っぽくなってる人もいるそうだ。

 エディフ、プティー、ウィオーネの三種族を総称して獣人と呼ぶらしい。

 私の持っている知識通りだったこともある。私が見かけたエルフっぽい人やドワーフっぽい人。これは大当たりだった。名前はそのままエルフとドワーフで良いそうだ。ただ、エルフにはライトエルフとダークエルフの二種類がいて、風習も体格も能力も全然違うらしい。

 ニーファや私のようなただの人間のことはヒューマンと呼ぶそうだ。ヒューマンの中でも分類があるらしい。

 尋ねた種族の他にも、数えきれないほどの種族が存在するそうだ。それだけ種類がいると、人種問題とかも大変そうだと思ったら、案の定かなりあるらしい。そういうところだけは、ファンタジー世界でも変わらないようだ。






◇ ◇ ◇






 一生懸命種族についての説明を聞いたすぐ後にもまた、耳慣れない音がする。蹄の音だ。音の方向を振り返ると、やはり見慣れない物があった。


(道路を、馬車が走っている……)


 自動車ではない、馬車だ。馬を実際目にすることもあまりなかったので、どうしても視線が引きつけられる。

 どうにも忙しない。気分も目線も。


「……ヤマト、すごいキョロキョロしてんね」

「あ、うん。色んなものが珍しくて」


 あまりにも私がキョロキョロしていたため、ソーリスの目にとまったようだ。苦笑された。


「そんなに田舎からでてきたんだ……。どんなとこ?」


 一瞬、え? と思ってしまったが、そうだった。ニーファにそういう設定にされているのをすっかり忘れていた。

 しかし、なぜ勝手に設定変更されたかはなんとなく想像がついたのだけど、先に言っておいてほしかったなあと思う。こう唐突に話を振られると対応できない。今も危なくボロを出すところだったが、なんとか考えて話を作りながら答える。


「え、えーっとね。……自然以外、なんにもない、って感じ、かなぁ……」

「へぇ」


 大ウソだ。私の家のまわりには自然なんて街路樹か生け垣くらいしかなかった。車でいけるくらいの距離には自然いっぱいの大きな公園があったが、行ったこともないし。

 そういえば最近、うちの地区は開発が進んでいて、前も近所の大きなショッピングモールが改装されて大きくなった。本屋さんも大きくなっていて、女性向け書籍コーナーが充実してて良かったのだが。


(あそこ、二、三回しか行ってなかったのにな……)


 もう行けなくなってしまった。残念だ。


「いいとこ、だよ」

「そうなの? あー、俺も行ってみたいな、田舎」

「そう?」


 ごめん、全部大ウソなの。とはいえない。なんだかもう、これ以上ウソを重ねるのは心苦しいので、話題を変えることにした。


「あ、ねえ……ギルドハウスってどんなとこ?」

「どんなとこ、って言われると……。うーん、ギルド員が寝泊まりする宿舎みたいなもん?」

「そうなんだ」

「そうそう。でもうちのギルドハウス、人数の割にだだっ広くてさ。人が増えて嬉しいよ。男同士、仲良くしよーね」


 ソーリスはニッコリ笑って、視線を合わせてくる。


(男同士……そうなんだよねぇ……男同士なんだよねぇ……)


 表面上ではうん、よろしくなんて言っておく。だが、内心は残念だった。


(この、美青年の中身が“私”でさえなければ……)


 野生的(虎だし)で気の強そうなしなやかなイケメンと、世にも美しい青年なんて外見だけならかなり好みのカップリングなのに。こんな二人が仲良くしていたら、眼福なことこの上ないのに。あろうことか、この美青年の中身は、私……。


(萌えねー……)


 中身、重要なんです。






◇ ◇ ◇






 ギルドハウスに到着した私は、ただただ驚いた。先程、ソーリスが“だだっ広い”と言っていたので、ある程度大きな建物なんだろうなとは想像していたのだが……。

 目の前にそびえ立つ建造物は“ある程度大きな”なんてレベルじゃなかった。


「でっか……」

「ねーでっかいでしょ?」


 ソーリスが苦笑交じりに言う。それもそのはず。

 このギルドハウス、明らかに周囲から浮いていた。他の建物はだいたい二階建て、大きくたって三階建て。斜向かいに平屋建ての建物なんてのも存在する中、このギルドハウスはなんと五階建て。外観はきらびやかで豪華。塀も高いし、庭も大きい。聞くところによると、中庭すらもあるらしい。訓練スペースだそうだ。そして驚くことに、この広さがあって、今のギルド員の数は、たったの八人とか。私が入っても、九人……。


「広すぎない?」

「闘技大会のシーズンなんかは、他国にある同盟ギルドに宿泊施設として貸し出したりしてはいるけどね」


 ニーファのコメントに闘技大会なんて心躍る単語がでてきたのだが、今は建物の規模の大きさに驚いてしまって、食いつく余裕もなかった。






 庭を通って、建物の中に入る。扉も大きい。

 エントランスは受付所のような場所があり(無人だったが)、外観と同じく内装も豪華だった。しかも、ふきぬけ。余計広く感じる。

 上階に通じる階段は装飾の綺麗な螺旋階段。もう何に驚けばいいのかもわからない。


「すごい……広……」

「そのうち慣れるわ」


 私は先程から“すごい”と、“広い”しか言っていない。


「俺らもはじめて来たときはそんな反応だったなー、懐かしい」

「ねー」


 ソーリスとエナが感慨深げに頷いていた。






 階段で5階までのぼるのは、なかなかきつかった。体力的に、ではなくて精神的に、だ。面倒くさい。

 のぼってる最中、エレベーターがあればいいのに、と思ったが、口にはださなかった。


(説明できないし)


 そんなこんなで、5階に到着すると、ひときわ大きくて豪華な扉が現れた。


「ついたわ。ギルドマスターに、あたしらは報告と……あんたは一応、挨拶しときなさい」

「はい」


 自然に敬語に戻ってしまった。緊張しすぎて、お腹のあたりが痛くなってきた。


「そんなに緊張することないんじゃないの……あたしの兄貴だし」


 あまりに私がガチガチになっているのを見兼ねてか、ニーファがフォローを入れてくれる。しかし……。


(ギルドマスターがニーファの兄貴……お兄さん!?)


 ああでもそういえば、言っていた気もする。だが、男版ニーファしか思い浮かばなかった私は、余計緊張しただけなのだった。


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