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Trans Trip!  作者: 小紋
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2‐(6).コミュニケーション下手は辛いよ

 進むにつれて、喧噪がだんだんと大きくなる。遠目からでも十分見えてはいたが、正門前はずいぶん賑やかだった。

 念願かなって正門を見上げ、感嘆の声をあげながらも、私は他のことに気をとられる。そこにいる人々についてだ。

 流石にあれだけ大きな街の正面玄関というだけあって、いろんな方向から大きな街道が伸びてきている。街道が交わる場所である正門の目の前には広場があり、露天商や買い物客、旅人や兵士とにかくいろいろな人で賑わっていた。ローブ、鎧、その他諸々と、服装がファンタジーで目に楽しい。

 種族も様々のようだ。今さっき知り合ったソーリスさんやエナさんのように獣耳尻尾つきの人もたくさんいるし、他にはトカゲっぽい人や羽の生えた人……。そして、定番のファンタジー系種族であるドワーフっぽい人やエルフっぽい人もたくさんいる。若干私の常識よりは髪や瞳、そして肌の色彩が豊かではあるが、もちろん普通の人間もたくさんいた。

 少し油断すると人とぶつかりそうになる。しかしそこは私も日本人、人避けは大の得意。日曜真昼のショッピングモール並みに混雑する広場で、さっきから私は人を避けてばかりだった。


「すごい人出……」

「いつもこんなもんだよぉ」


 誰ともなしに呟いたのだが、隣にいたソーリスさんには聞こえていたようで、思いがけず返答がもらえたせいで少しビクッとする。


「そ、そうなんですか」

「そうそう。門の外だし、日が落ちるまでには撤収しちゃうけどね。あと少しでみんないなくなりはじめるよ」


 私の冴えない一言にも、二言三言でしかもニコッと笑って返事をしてくれた。さすがイケメン、コミュ力が高い。

 夕日に照らされたイケメンの笑顔は実に目にいいものだ。喋らないで黙っていると気が強そうでチャラ男っぽいから、ちょっと怖そうな印象なソーリスさんだが、笑顔は幼くて親しみが持てる。時折ピンッと虎耳を動かすしぐさだとか、歩みと同じテンポでゆっくり揺れている尻尾だとかいうのもかわいい。つられてへら、と笑い返した。


「門の外と言えばさぁ!」


 私とソーリスさんの会話の中のその言葉を聞きつけて、エナさんがそういえば! と憤慨したように話しだす。


「今日の任務、ニーファいなかったからエナとソルの二人だけだったんだけどさぁ! 大変だったんだから!」

「あら、何? あんたら、任務なのに武器も持たずに門の外に出てたの?」

「うっ! だ、だってしょうがないじゃん!」


 ニーファさんが眼光鋭く言うと、エナさんがたじろぐ。

 そういえば二人は武器を持っていない。それをニーファさんが咎めるということは、RPGのように街の外にはさっきの恐ろしく臭いキノコのようなモンスターがでるってことだろうか。あの臭いを思い出すと気分が悪くなる。

 思い出し吐き気を催している間にも、おろおろするエナさんに加わってソーリスさんが言い訳をしていた。


「ほんとは門の上の監視所に物資運ぶだけだったのにさ、手配ミスで東の監視哨に運ぶやつが混ざってたとかで、行かされたんだよ。急ぎだとか言われて、武器なんかとりに行く暇なくって……」

「っていうか、そういう不測の事態にも備えて武器はいつでも携帯しときなさいよ。最近物騒なんだから」

「「うっ」」


 ぐうの音も出ません、といった感じだ。二人とも項垂れて、次から気を付けまーす……なんて反省の言葉を述べている。

 ニーファさんはそれ以上は何か言うつもりはないようで、ひとつ軽いため息をつくと話を切り上げた。


(……なんて、いうか……)


 目の前ででかいツインテールを揺らして歩く彼女と比べてしまうと、ソーリスさんもエナさんもまるで子どものようだ。まあでも、彼らは私と同い年の、高校生かプラスアルファくらいにしか見えないからそのくらいの年齢……まあ世間一般ではまだまだ子どもな年齢だろう。だがニーファさんだって外見は十代後半くらいにしか見えないのに、精神は老成しているというか達観しているというか。


(……ファンタジー世界だし、なんかエルフの血が混じってるとかそういうので、外見年齢以上に年取ってるのかも……ロリババアってやつ?)


 この心の声がニーファさんに聞こえていたらぶっ殺されそうだ。それとも大人の余裕で許してくれるだろうか。


「ねえヤマト!」


 考えごとをしているときに突然前方から声を掛けられ、おおいに驚いた。動揺を隠しながら振り返って、声を掛けてきたエナさんになんですかと返事をする。

 私、エナさんに話しかけられるときはいつもびっくりしてばっかりだ。彼女のタイミングがいつも突然すぎるのだろうか。エナさんの尻尾は興味深げに揺れている。


「さっきからさ、敬語だよねぇ。あんまエナたちに気ぃ遣わないでいーよ。さん付けもいらないし」

「あ、それは俺も思ってた」


 よくある会話だ。タメ口、呼び捨てはあまり得意ではないが、無難に「ありがとう、そうするね」と返しておく。


「そうそう、これから一緒に生活してくわけだしね。気、遣ってたら疲れちゃうでしょ」

「え?」


 なんだそれは、と思った。


「あれ、聞いてない?」


 ソーリス(早速呼び捨てにさせてもらう)が、ニーファさんに目線をやる。その視線を受けて、彼女は今思い出したというような顔をした。


「あ、それ言ってなかったわ。ヤマト、あんた保護対象だから、あたしたちと一緒に生活してもらうから」


 そうだ忘れてた。ファンタジーやら獣耳やらに気を取られてあまり深くは考えていなかったが、彼女たちに“無期限”で“保護してもらう”んだ私は。多分、そうしてもらわなければ生活すらままならない……。ニーファさんに保護してやるといわれたときは、心細さが勝って頼もしいとしか思えなかったが、“ギルド”で“一緒に生活”……集団行動が苦手な私に耐えられるだろうか。不安だ。

 しかしまあ例え嫌がったって他に行く場所もないし頼るところもない。なせばなる。


「あ、はい、わかりました」

「それと」

「はい?」

「あたしも、敬語はいらないわ。呼び捨てでお願い」


(えっ)


 言われて困る。ニーファさんにそうするのは大層気が引ける。だが……しかし……エナとソーリスにはありがとうそうするねなんて言った手前、ニーファさんだけにいやタメ口とか無理ですというわけにはいかない。結局、一瞬の逡巡のあと「わかった、ありがとう」と言うに至った。


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