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Trans Trip!  作者: 小紋
66/122

7‐(11).馬子にも衣装

 闘技大会が終わって一夜が明けた。今日は夜、後夜祭が行われる。


 明日の朝早くにアーラ・アウラの皆さんが国に帰ることになっているうちのギルドハウスでは早くも荷造りが行われ、お別れムードが漂い始めていた。若いプティーの女の子たちが「楽しかったよねー」と話をする横をすり抜け、朝食をとるために食堂へと入る。

 ここ一週間で、大勢が座っている食堂の中から知っている頭を見つけるのにも慣れた。だが、それも今日と明日の朝食の時間で終わりかと思うと、ほんのり寂しい。


「おはようございまーす……あれ、ソルは?」


 慣れた作業でコロナエ・ヴィテのみんなを見つけて近寄れば、昨日のMVPがいないことに気がついた。

 疑問の声を上げた私に、エナが答える。


「ソルは部屋にこもってるよぉ」

「ええ? なんで?」

「昨日優勝したから」

「……は?」


 間抜けた声を出してしまった。優勝がどうしてひきこもりに繋がるんだ?


「あっ、ヤマトは知らないのか。闘技大会で優勝すると、お城でやる祝勝会に参加する権利がもらえるんだよ」

「……それでなんで、ソルが部屋にこもるの?」


 さっぱりわからない。首を捻る。


「祝勝会って、ダンスパーティーなんだよね」

「……ダンス、パーティー」

「ソルそういうの、すっごい嫌いでさあ。部屋にこもってるのは、パートナーにしてほしくて押しかける子がたくさんいるからなの。今日の昼過ぎくらいまでは、下の階に来ないと思うよ」


 ああ……なるほど。アーラ・アウラの人は幹部以外3階以上に上がっちゃいけないことになっているから、その手が取れるか。

 ソル、貴族なのにそういうの嫌いなのか……そもそも、自分が貴族出身なことも隠そうとしてるくらいだし……なんだろう、トラウマでもあるのかなぁ。






 ソルがいない朝食を済ませ、一旦部屋に戻るためにロビーを通ると、アーラ・アウラの人たちのほかに見慣れない小さなお客さんがいた。

 華奢っぽい体をフードつきのローブで隠し、金色の髪をちらちらと見え隠れさせている。

 どうかしたのかと思って見ていると、目が合ったように感じた。それは間違っていなかったらしく、フード越しでよくわからないが、彼女はパアッと顔を輝かせた様子で走り寄ってきた。

 声を掛けられる。


「昨日、大剣部門の優勝者……ソーリス様と抱き合っていた方ですよね?」


 それを聞いて、思わずぞわっと鳥肌を立ててしまった。いや、気持ち悪いとかそういうんじゃない。

 なんだ、その名称は。

 恥ずかしい、とにかく恥ずかしい。昨日はテンション先行で動きすぎた。昨日の行動を今みたく平常テンションの時に突き付けられると、顔が赤くなる。ああ、客席から見たらどう映ってたんだろう私たち。

 まあしかし、黙っているわけにもいかず、彼女の言も間違ってはいない。とりあえず、そうです、と答える。

 一体なんなのだろう。……ソルのファンとか? 私、刺されないだろうか。大丈夫かな。


「良かったぁ……わたくし光神の転生体の使いの者なのですが、ソーリス様と貴方様に用事があって参りましたの」


 どうやら、心配は杞憂だったらしい。……って、え。


「光神の転生体様、の?」

「はい、アゼリアと申します。お見知りおきを!」

「あ、俺はヤマトと言います」


 上品な言葉で挨拶をされ、しゃちほこばってお辞儀をする。

 光神の転生体様の使い、って……どういうことだろう。そんな、神様の使いがどうしてここに。そして、ソルと私に用事?


「ヤマト様、ですね? 覚えました! それで、ソーリス様はどちらに……」

「あ、え、えーっと……よ、呼んできますか?」


 きょろきょろと辺りを見回すアゼリアさんに、提案した。一瞬ソルが下の階に来たくないということが頭をよぎったが、光神の転生体様の使いの人を追いかえしたりしたらそっちのほうがまずいことになる気がする。

 っていうか、言葉遣いとか大丈夫か私。偉い人と接するのに相応しくないんじゃないだろうか。


「まあ、お願いしてもよろしいでしょうか? わたくし、お外で待っておりますので!」

「え、あ、いや、ソファがありますので、座って待っていただいても」

「いいえいいえ、頼みごとをさせて頂く立場で来たのですから、椅子にふんぞり返って待っているわけにはいきませんわ! では、お願いいたしますね」


 そう言った彼女はいそいそと玄関口から外へ。……どうしよう、ソルを呼んで来ないと。突然の偉い人の襲来にほぼパニック状態の私は、ソルの部屋へ行くために階段を駆け上がった。






 あまりのパニック状態に怪訝な顔をされつつも、ソルを連れてくる。彼は玄関にたどり着くまでにめちゃくちゃ声掛けられていた。大変だなあイケメンも。

 やっとこさたどり着いた玄関の外では、石階段にアゼリアさんが座っていた。そんなところに座らせてしまっていたということにかなり慌てつつも、彼女に駆け寄る。

 相変わらず深くかぶったフードでよくわからないが、私とソルを視界に映した彼女はどうやら嬉しそうな顔をしたようだった。


「まあ、お二人揃うと本当におにあ……なんでもありませんわ!」


 ……ん? なんだか嗅ぎ慣れた腐乱臭が一瞬ふわりと……気のせいかな?


「お待たせしました。ご用事があるとお聞きしたんですが」

「はい、まずは挨拶から。わたくし光神の転生体の使いの者、アゼリアと申します」

「ご丁寧にどうも。ソーリスです」


 ソルは堂々としている。こういうところ見ると、育ちの差を感じちゃうなぁ……。

 自己紹介を聞いたアゼリアさんが、自分の掌を合わせて楽しそうに言った。


「存じておりますわ! わたくしお二人のファンですもの!」

「……ファン? え、お二人って……ソルのだけじゃなく?」

「まあまあ! あだ名でお呼びなのね! 素晴らしいわ!」


 疑問符を浮かべる私とソル。ソルのファン、というならまだしも……私とソルのファン? どういうことだろうか。私のファンでもあるという割には、さっき私の名前を知らなかったような気がするのだが。うーん。

 そしてまた腐乱臭が。男が男をあだ名で呼ぶことを喜ぶとか……うーん、気のせいじゃない気がする。


「本日参りましたのは、お二人にお頼みしたいことがあるからですの」

「はあ……ええと、それで、なんですか?」


 さんざっぱら喜んだあと、彼女は本題に入ったらしかった。すっかり空気に飲まれたソルが、困惑しきった様子で続きを促す。


「まず、お聞きしたいことがありますの。……ソーリス様、本日のダンスパーティー、パートナーはもうお決まりですか?」

「……あー、いや」

「本当ですか!? 良かった……!」

「え」


 相手の返答を最後まで聞かずに、ごそごそと鞄を探り出すアゼリアさん。ソル、多分パートナー以前にダンスパーティーには出ないってこと言いたかったと思うんだけどなあ。勢いに押されて、二の句を告げられないようだった。

 やがて目的のものを見つけたのか、彼女が手紙を差しだした。


「こちらを、ソーリス様とヤマト様へ!」


 厚い紙を使った高そうな封筒に、国の印っぽい焼印がついた蝋で封がしてある。これ……国の文書、的な何かなんじゃ。


「ソーリス様のパートナーが決まっていましたらお頼みできませんでしたが、決まっていないのなら問題ありませんわ!」


 ずい、と手紙を押し付けられ、受け取ってしまったソルと私を眺めて嬉しそうに言うアゼリアさん。


「内容をご確認ください! では、ごきげんよう!」


 そう言うなり、駆けて行ってしまった。……嵐のようだ。






 突然やってきて嵐のように去っていった少女に手渡された手紙の封を切り、2人で見てみる。

 そこには、光神の転生体様がソルと私に用があるため、祝勝会が始まる2刻ほど前に城に来てほしいとの内容が記してあった。

 それ以外は、何もなし。

 そもそもこれ、本物? そう疑って聞いてみれば、国印は間違いなく本物だそうだ。そう言ったソルが少し魔力を流してみると、印が光る。すごい技術だ。


「……さっきダンスパーティーのパートナーとか聞かれたし、祝勝会に関係することは間違いないよね」

「多分……」

「もしかして、光神の転生体様のエスコートとか頼まれちゃうんじゃないの? ……あれ、光神の転生体様って女の人?」


 さっきのアゼリアさんのイメージがあるから、なんとなく女性のような……。


「光神の転生体様は女だって聞いたけど。呼ばれた理由は……うーん、ぜんっぜんわかんない」

「っていうか、なんで俺まで?」

「さあ……ヤマト、なんか言われた?」

「……印象に残ってるとこっていえば、ソーリス様と抱き合ってた方ですよねって言われた」

「ぶっ」


 噴くよなあこれは。……ん? ソルなんで無表情なんだ。噴いた割には笑ってくれないの?


「何その認識……」

「っていうか、ソルさ、祝勝会出るの嫌なんでしょ? エナから聞いたよ」


 ソルが困ったように手に頭を当てる。


「うーん……確かに、嫌なんだけどさ……これ、行かなかったらどうなると思う? 国印が入ってるんだよ、この手紙」


 想像したくもないが……。


「……反逆罪とか?」


 嫌だ、こんなことで牢屋に入るのは嫌だ。


「わっかんない。ジェネラルさんに相談する?」

「……した方がいいよう」


 そういうわけで、2人の結論がでた。まずは、ジェネラルさんだ。






「光神の転生体様から?」


 ジェネラルさんは、私たちが持ってきた手紙を表裏させながら驚いた顔をした。


「そうなんです。特に詳しいことも言われずにこれ渡されたんですけど、国印入ってるし……どうするべきかと」

「……うーむ」


 封筒から手紙を取り出し、眺めるジェネラルさん。こんな動作だけでも様になる男前だ。

 しばらく文面に目を行ったり来たりさせた彼は、ひとつ溜息を吐いて言った。


「本当に個人的な用事といった感じだな。俺にもわからん」

「そうなんですか?」

「国としての呼び出しなら、もっと形式ばった文面になるはずだ。面倒な感じのな。……多分、そのあたりにあった便箋と印を使っただけだろうこれは」


 それでいいのか神聖国。光神の転生体様も、もう少し考えるべきでは。

 しかしそんなことは今関係ない。


「で、それって俺ら行った方が良いですかね」

「いや……俺にもなんとも」


 苦笑い、だ。確かに、国からの呼び出しではなく個人の用事となればジェネラルさんの管轄ではない。


「まあでも、来てほしいんじゃないか?」


 苦笑したまま彼は言う。


「十中八九、祝勝会に出て欲しいんだとは思う。……どこで目に付いたのかは分からないが、お前たちのことが気に入ったのかもな。……しかし、ソル、どうだ?」


 ジェネラルさんの視線がソルに走った。それを受けたソルが決まり悪げに姿勢を崩す。


「お前が毎年祝勝会に不参加だから、わざわざ使いをよこしたんだと思うぞ。……ヤマトまで、っていうのは謎だが……友人と一緒なら参加してくれると思ったんじゃないか?」


 なんだ、その女子っぽい理由は。ソルだって友達がいないから祝勝会なんて行かない、なんてわけじゃないだろうに。

 だがソルは私が違和感を持ったところとは違い、ヤマトまで、というところに着目した。


「そこなんですよね。光神の転生体様の呼び出しって……大丈夫なんですか? 男妾になれなんて言われても困りますよ俺たち」

「……男妾」


 おとこめかけ、って……すごい言葉だな。咄嗟に理解できなかった。響きがいやらしくていいかもしれない。そうか、偉い女の人からの呼び出しで、自分たちがいい男ならその可能性もあるってわけか。

 突然出てきた単語に感心していると、ジェネラルさんが噴きだす。


「笑い事じゃないんですけど」

「……っくく、悪い、そうか、男妾か……。それは絶対ないな。光神の転生体様は意外と素朴な方だから、そういうものには興味がないと思うぞ」

「そうなんですか?」

「ああ、それに関しては俺が保障する。……お前は一昨年も去年も行ってないんだから、たまには行ってきたらどうだ?」

「……断ったら、このギルドの立場って悪くなります?」

「そんなに嫌か」


 行きたくない、そんな言葉がソルの背後に浮かんでいそうだ。ジェネラルさんにもそれが見えたのか、楽しそうに笑った彼が言う。


「本当に行きたくなかったら断りなさい。いつも行ってないんだから、今回を断ったからといってどうという話はないだろう」


 これでもう、選択の自由は生まれた。神王とつながりがあるというジェネラルさんが大丈夫と言うのだから、断っても大丈夫だ。

 ソルは断るだろうなあ、あれだけ嫌そうだし……そう思っていると、彼が振り返った。


「……ヤマトは、行きたい?」

「え、俺?」

「うん。この招待、ヤマトにも来てるだろ」


 突然話を振られ、驚く。正直なことを言えば……。


「興味は、あるかなぁ……」


 お城、だし。ダンスパーティーなんて、参加したこともないし。見てみたい気はする。

 だが、ソルが行かないのならば行く気はない。女子の理由だ。友達が誰もいないところに一人で行くの不安だもの。

 そういう意味をこめて、興味はある、と言うに留めたのだが……なぜかソルはこう言った。


「……じゃ、行くかぁ」

「あ、ご、ごめんソル。別にどうしても行きたいってわけじゃ……」

「いや、行かないと今後この国で暮らしてくのが気まずくなるような気がするから」

「そ、そっか」


 何、その怖い理由。でも確かにこれを断ると、話の程度は低いが国の権力者に逆らうということになる。少しでも行く気があるのなら、行っておいた方が良いのだろう。


 身の振りは決まった。ジェネラルさんがなんとなく楽しそうに準備の話をしだす。


「そうか。じゃあ2人ともパートナーを探さないとな」

「……あ、それなんですけどね。使いの者だっていう人が、まずパートナーがいるかどうかソルに確認してきまして、いないって言ったら、それなら大丈夫だ、って手紙を渡してきたんですよ」

「何?」


 先程のアゼリアさんとのやり取りを伝えると、ジェネラルさんは考え込むそぶりを見せた。少しして、目に見えてそわそわしはじめる。


「そ、そうか……じゃあ2人とも、身一つで城に行くしかないな。じ、時間に遅れないようにな」


 突然挙動不審になったギルドマスターに困惑しつつ、首を捻りながらギルド長室を退室した私たちだった。






◇ ◇ ◇






 そして、さっぱりわけのわからないまま……ダンスパーティーの始まる、念のため2刻半前に城に到着した。

 こんなわけのわからない理由で城に来ることになるとは。そう思いながら城に足を踏み入れる。


 だが、無意味にだれた気分は一瞬でどっかにいった。

 城に入って用件を伝え、通された待合室。少しだけ待つと、十数人の侍女っぽい人たちがすごい勢いで部屋に入ってきたのだ。


「まー! 光之方様ひかりのかたさまの仰ったとおりですわ! お美しい方たち!」

「腕の振るい甲斐がありますわねー!」

「さあさあ、ヤマト様こちらへ、ソーリス様はあちらの者たちが案内しますわよー!」


 凄まじい勢いでざかざかと走り寄ってきた侍女数人により、あっという間にソルと分断された。女性の力とは思えないそのパワーに、驚くばかりで抵抗もできない。


「そ、ソル……!」

「ヤマトー! ちょっ、や、やめっ、うわっどこ触ってんだ!」


(どこ触られてんだ!?)


 ああ、不安よりも好奇心が勝ったわ。






 その後は、もう何がなんだか……。


 羞恥を感じる暇もなくぽーんと服を脱がされて全裸にされ、風呂で体をがしがし洗われた後、鏡台の前に座らされる。

 凌辱された気分になっていると、五人程の侍女に囲まれ化粧道具を持ってこられドレスを見せられ。

 目の前で提示されたそれは、露出度はあまりなさそうなドレスだ。首元まで襟があり、右胸に大きな花のコサージュがついている。幾重にもフリルが重ねられた膝丈ほどのスカートはボリューミーに膨らんでいて、フェミニンなシルエットが可愛らしかった。全体的に白い色でまとめられているのは、清楚系を狙っているのだろうか。所々に入る金色が衣装を引き締めている。

 ……って、ドレスの解説をしている場合ではない。


「す、すいません! おお、俺男なんですけど」


 体はですけど! 風呂まで入れたんだからわかっているでしょうに、と言いたい。


「大丈夫ですわ、存じております!」

「光之方様のご命令で全て聞いておりますので、私たちにお任せくださいな!」


 さっきも聞いた言葉だが、ひかりのかたさま、って……光神の転生体様だろうか?

 な、なにこの展開……光之方様は一体何をしたいのだ? 私が男ってこと知っていてこの仕打ちってことは……腐女子なのか? 仲間なのか? どういうことなんだ?

 アゼリアさんと会っている時も感じたんだけど、光神の転生体様関連は腐臭がたちこめているぞ!?


 しかしそんなこと口に出せるわけもなく……なんか、色々されてしまった。化粧されたのなんて七五三の時以来だから、ほんと、大変だった。






 げっそりとした気分で侍女たちに連れられ、待合室へと戻るための廊下を歩く。


 すれ違う人間すれ違う人間、みんなに見惚れられているのがわかった。

 そりゃそうだ。工程の全てが終わり鏡に映ったこの身体、それはとんでもなく綺麗でこの世のものとは思えない出来だったのだから。

 少し身長が高すぎる気がしなくもないが、真っ白な肌にのせられた桃色チークだとか、唇に塗られたうるつやグロスだとか、いつもは無造作に流されている髪が綺麗に綺麗にまとめられたりだとか……そんなののせいで、今の私はまるで天女か女神のような様相になっていた。男のくせになんなんだこの体。そうそう、足が多少ごつかったのはタイツで誤魔化された。


 そして、そこに至るまでの過程で疲れすぎた。化粧ってあんなにいろいろするものなのか。髪型って作るのにあそこまで大変な思いをしなければいけないのか。

 一連を終えて私の心に残ったのは、世の女性たちに対する尊敬の念だ。ああ、私も女のはずなのに……。


 待合室に入る。ソルは何をされたんだろう……2人して女装させられてたらもうどうすればいいのかわからないな。そう思った時だった。


 視界に、とてつもないイケメンが映った。


 グレー地に金の縁取りがしてある軍装のような礼服に身を包み、金の髪をオールバックにした彼。窮屈そうに首元を緩める、その動作がまたいい。

 イケメンの神とかに愛されていそうなオーラがでているぞ。なんだ、あのイケメン。すごい……すごい、かっこいい。

 そんな彼の頭上には虎耳。虎尻尾も不機嫌そうにぷらぷらと動いていた。……そう、ソルだ。


(うわああああすげーかっこいい……)


 普段軽装ばかりの彼は、なかなかかっちりとした恰好をしない。そのためギャップ効果も働いているのか、なんというか……すさまじかった。イケメンの有効活用にも程がある。

 見惚れて声の掛けられない私。私の身支度を手伝った侍女の皆さんも彼に見惚れている。


 やがて、ソルが私たちに気付いて振り返った。惚けたような表情になった彼は、まず目を見開いて黙る。少しして、恐る恐ると言った感じで口を開いた。


「ヤマ、ト?」

「あ、う、うん俺……」

「なんで……そんなことに」


 ああ、イケメンすぎるが、いつものソルだ。若干びっくりはしているが。

 なんでそんなことに、とは女装のことを言われているのだろう。私は苦笑して首を振った。耳につけられたイヤリングがしゃらしゃらと音を立てる。


「わからない……ちっとも……」

「……でも、壮絶に、似合ってんだけど」

「あはは、俺もそう思う」


 彼の意見に思わず同意だ。私の今の恰好はヤバいくらい似合っている。

 この待合室にはでかい姿見があるため、今立っている位置から少し動いて自分の全景をもう一度見てみた。……うーん、やっぱり半端じゃないな。


「……」

「ソル、どうしたのぼーっとして」

「……い、や……ヤマトが女だったらそんな感じなのかと……」

「うーん、どうだろね。もうちょっと身長は小さいんじゃないかなあ」

「……そう、だね」


 それきり、ソルが黙った。……びっくりしすぎているのだろうか。意外と常識人の彼としては、男が女装して目の前にいるという事実が受け入れ難いのかもしれない。


 そんな彼の疑問を代わって解消してあげるために、お互いの手柄をきゃいきゃいと褒め合っている侍女さんたちに話を聞きに行った。

 正直、濃厚に漂う腐臭のせいで私的には愚問と言う感じなのだが。


「あの、なんでソルは普通なのに、俺は女装なんですか……?」


 口に出すとこの展開のおいしさがよくわかる。幽体離脱したいわ。

 体の操作権、誰かに明け渡すから私にこのおいしいシーンを見せてほしい。鏡越しでしか見れないのが辛い。

 ……おいおい、涎を垂らすアスキーアートみたいなことになってるよ侍女さんたちの顔。すごく親近感が湧く。


「光之方様のお望みになられたことですので、私たち理由は知らされておりませんの」

「ですけど、お二人並ぶととっても絵になりますわぁ……!」


 でしょうね。両方男だと知って見てるとでかい姿見がまるでユートピアのような有様だ。


「ダンスパーティーは間もなく始まりますわ。お時間になりましたら呼びに参りますので、それまでごゆっくりなさってくださいね!」


 あ、もうこの2人でダンスパーティーに出るってのは決定事項なわけだ。ろくに説明もされていない気がするが、それを指摘する間もなく勢いで押し切られた。


 名残惜しそうに私たちを眺める仲間を引っ張りながら、行ってしまう侍女さんたち。広い部屋に残される私とソル。


 そうか、それでパートナーの有無を……。光之方様、絶対腐女子だ。仲間だ。どこで私たちに目をつけたんだろう? きっと昨日、優勝した時に抱き合ってたところだな。


(腐女子に権力持たせちゃいけねーな……好き勝手やるぞまさにこんな風に……)


 まあ、私に否やはありませんが。

 文字通り腐っても女子、ドレスだのなんだのは意外と憧れる。

 元の体で着るんだと気後れするが、この綺麗な体で着るのなら楽しいだけだし。

 しかもシチュエーション的には男同士だし。


(ほんとに幽体離脱させてくれよまじで)


 ソルは未だに固まっている。そんなにかっこいいんだから、もう少し動きのあるシーンとか見せて欲しいのだが。


「……ソル?」

「…………」

「ソル!」


 名前を強く呼ぶと、やっと彼が戻ってきた。


「……う、うわっ、ちょっ……あ、あっ、な、なんでこんなことになってんだろうね! 2人でダンスパーティーって……男同士でなんで片方女装させてまで……って侍女たちもういねーし! お、俺文句言って……」

「あ、そ、ソル。待って待って」


 堰き止められていた川が一気に流れた感じで喋り出したソル。混乱しているのだろうか。だが城の中で喧嘩はまずい。説得しなければ。


「ソル、嫌かもしれないけどさ、もう着替えちゃったんだし……お城の中で問題起こしたら流石にまずいよ」

「……で、でもさ……ヤマト、嫌じゃないの?」

「え? あ……うん……似合ってるし」


 展開的には、願ってもない感じだし。これは言わないが。

 そんな私にはーっと溜息を吐いてソファに座り、脱力するソル。


「そうだけどさ……ああ、なんか俺ばかみたい……」

「ご、ごめんソル。大丈夫だよ、ちょっと我慢すればすぐ終わるって。相手が男の俺で不満かもしれないけど、そこは犬に噛まれたとでも思って……」

「……逆だよ」


 私の言葉が終わる前に、ソルが何か呟く。小さな声で素早く言われたせいで、何も聞き取れなかった。


「え?」


 聞き返すと、今まで呆然としていたのを振り払うかのように頭を振ったソルが、笑顔を作る。


「なんでもない! ヤマト、踊れる?」

「はっ……! 踊れない……!」


 そうだ、ダンスパーティーって、ダンスがあるじゃないか! 泣く子も黙る一般庶民が踊ったりできるわけがない。こんな綺麗な恰好で壁の花は悲しいぞ。

 一気に焦りだした私を、ソルが苦笑して宥めた。


「……大丈夫だよ、俺リードできるから。多分覚えてる」


 流石お貴族様だ。昔取った杵柄って奴か。


「そっか、良かった……って、ごめんね。任せっきりになっちゃうかも」

「気にしないでいいよ。元々俺のせいでこんなとこ来ることになってるんだから」


(……それはどうかなー……私があの時飛びついたせいだと思うけどなー……)


 まあ、いい。そんなことを今言ってもしょうがないのだ。

 あと少しでパーティー始まるし、楽しんで帰ろう。よし、女装男withイケメン、状況を楽しみます。


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