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Trans Trip!  作者: 小紋
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6‐(8).知らぬは本人ばかりなり

 早いもので、もう大規模掃討任務が始まって7日目の朝だ。一週間続いた作戦も、今日が最終日である。


 欠伸をしながら目をごしごし擦るヴィーフニルの寝癖を直してやりつつ、今日までの徒然を振り返ってみた。






 ニーファからの勅命で、この作戦展開中はヴィーフニル以外のコロナエ・ヴィテメンバーとの行動を許されなかった私は、かなり緊張しつつもコロナエ・ヴィテ以外の人と交流しながら任務をこなしていた。

 あまり気心の知れていない人と運動、またはそれに近い分野で一緒に何かをするというのは苦手だ。過去の事例で言えば、中高生の時のクラス替えから程なくしての体育の団体競技がそれにあたる。あれは、下手に知ってる仲だから、迷惑を掛けてこいつ使えねーとか思われて嫌われるのが怖いんだよね。

 コロナエ・ヴィテの人間と一緒だといつもと変わらなくて経験を積めないから、と言われてそれは御尤もだとも思ったが、事前に知らせるくらいはしてほしかった。新人自立計画だとしても、心の準備ぐらいしたいじゃないか。


 だが一週間作戦を遂行してみて、当初恐れていた程の迷惑を誰かにかけたりはしていないように思う。ギルド員以外の他の人と一緒に戦うのはじめてだけれど、思ったよりみんなそこまで動きが良くない、というか…。毎日毎日コロナエ・ヴィテのみんなと生活、訓練、仕事をしてきた私にとって、周囲の人々の実力は、かなり見劣りするものだと認識できるようになっていたのだ。

 友達になったシビルちゃんとラーサーくんなんかになら、楽に勝てそうな気はする。以前それをソルにずばり言いあてられた際は否定してみたが、実は少し自信がある。


(おっと、慢心するな私)


 しかし、見ていて本当にいい動きをしている、と感心できる人なんて、この担当地域では片手で足りるくらいのごく少数くらいしかいないのだ。その道の熟練者、強い人に継続して教えを請うということはここまで効果があるものなのか、と驚いた。


 ヴィーフニルは私があまり前に出て戦うのが好きでないことを知っていて、自分が前線で戦うから、と言ってくれた。だが、12歳の子に守られるって高校生としてどうよ! と私の価値観が突撃ラッパを吹いてきたので、むしろヴィーフニルを押し退けるくらいの勢いで頑張って前線に出ている。手が足りない時は傀儡獣マリオネット・ビーストの狼を呼びだして手伝わせたりしていた。

 傀儡獣は通常任務でもよく呼び出すのにいつまでも名無しでは可哀想だから、それぞれ名前をつけてそう呼んでいる。狼は“狼参号”と名付けた。参号が愛称だ。ここまで言えば予想はつくとおもうが、竜は“竜壱号”、鼬は“鼬弐号”である。番号は初めて呼び出した順だ。「いけっ、参号!」とか言ってみると、ポケ○ント○ーナーになったような気分がして楽しい。

 正直魔法だけでモンスターを倒す方が速いし楽なんだけど、練習がてら剣も振るっている。ホテル暮らしの今は、作戦中に剣を振らなければ剣の訓練時間がゼロになってしまうからだ。ソルはカヴァリエのギルドハウスの訓練場を借りればいいと言っていたが、そんな知らない人が大勢いそうなところで訓練は無理だ。緊張で死ぬ。


 シビルちゃんとラーサーくんは、私とヴィーフニルの戦いを見てやっぱりコロナエ・ヴィテか、と苦笑を零していた。外部からコロナエ・ヴィテを見ている人間に満足される程度の水準は保てているようなのが嬉しい。ギルド名に泥を塗るわけにはいかない。

 ヴィーフニルに関しては私も心配していなかった。魔獣だから、という理由があるからかどうかはわからないが、彼は若干12歳にして水属性の上級魔法をすいすい操る。この前私が難しすぎて断念した魔法をひょいっと使われて、死にたくなったこともあるくらいだ。


 シビルちゃんとラーサーくん以外とも、うまくやれているように思う。

 初日に少しでも役に立とうと思って補助魔法を配りまくったのをそのまま継続し、暇さえあれば補助魔法を掛ける人と化していた私は、同じ地域担当の人に顔を見知られ声をたくさんかけてもらえるようにもなっていた。


 朝の空気と明るい日差しに目を細めていると、以前補助魔法をかけてあげた戦士のおじさんから挨拶の声を掛けられる。


「よう、嬢ちゃん! 今日も補助魔法よろしくな」


 ……間違われているのが玉に瑕だが、役に立つっていいなあ。お辞儀をして挨拶を返した。自分の存在意義を感じられることって、必要だ。






 ヴィーフニルと2人でモンスターを倒していく。


 この地域は猪を大きくしたようなモンスター、キリングボアの大量生息地となっているようで、それらと相対する機会が多い。

 今目の前にいるのも、キリングボアだ。

 ひたすら突進をしてくるボアをかわして斬りつけた。その箇所に追い打ちのようにヴィーフニルが放った『水蝕アクアコルンペーレ』が入り、体を痙攣させたボアが崩れ落ちる。

 剣に付着した血を振り払い鞘に納めると、周囲にはボアの屍骸が6体ほど転がっていた。兎型のモンスター、プレーンバニーを倒すのにも苦労していた頃が懐かしい。あの時は返り血を思い切り浴びまくっていたが、最近では返り血も受けなくなった。上達だ。


(すごくね? 猪六体相手に楽勝とか、すごくね?)


 満足げにむふーと息をつく一方で、キョロキョロとあたりを見回す。ワインレッドと青色のコンビを探していた。シビルちゃんとラーサーくんはいないだろうか。


(最終日なのに会えないのかなぁ、ちょっと寂しい)


 いつもは最初の集合場所で会えるのだが、今日はどうしてか見当たらなかったのだ。以前も会えなかった時はあったので、心配をするわけではないが、少しだけ寂しかった。


(まあでも、お互いギルドもわかってるし……会おうと思えば、会えるかな)


 気を取り直したところで、耳に剣戟が届く。条件反射のように、音の方向を探した。


「行く?」


 私の様子に気付き言葉少なにも促してくれたヴィーフニルに頷いて、音のした方向に向かう。

 ヴィーフニルは私の補助魔法配りまくっちゃうぞ作戦に付き合ってくれており、魔法を掛けている間待っていてくれるどころか、私が行きたそうにしているとこうして促してくれる。気の遣えるいい子だ。


(うんうん、このまま成長すれば、君はとてもいい男になる。そしてお姉さんにホモカップリングを見せてくれると嬉しい)


 バカなことを考えていると思うが、考えるのは自由だ。ヴィーフニルがどう成長するかは分からないが、どうなったとしても相当クオリティの高いイケメンが出来上がるのは間違いないだろう。お姉さん的には、神経質そうな細身のイケメンになってくれると嬉しい。いやでも、こんなちっちゃくて可愛い僕っ子が男らしく精悍な青年に成長するというルートも捨てがたい。ああ、人って無限大の可能性を秘めている。


 無限に広がる大宇宙に関して思いを馳せていたら、剣戟の主が現れた。


 モンスターと戦っていたのは、白い鎧から見て二人組の騎士のようだった。複数体の敵を相手取って立ちまわっている。彼らに、『防壁展開シールドインベント』と『加速レイユナーレ』をかけ、敵には『減速タルディス』と『暗闇アトロン』を。補助魔法のレパートリーも、実は増えているのだ。

 見ているだけでなく戦列に加わろうかとも思ったが、その必要はなかった。補助魔法で強化された剣閃が炸裂し、ものの数秒でモンスターが倒される。


「ありがとうございました……おや」

「あ、リビルトさん」


 振り返った顔は、見知った人のものだった。きょとんとした顔も爽やかだ、リビルトさん。しかしなるほど、道理で見たことのある動きだと思った。リビルトさんはこの担当地域の中では数少ない、いい動きをしていると思う中の1人だから、覚えていた。

 彼の横にいたもう1人は、これまた見覚えのある騎士様だった。鮮やかなオレンジ色の髪で思い出す。そうだ、人酔いを起こした私を介抱してくれたリビルトさんを呼びにきた騎士様だ。あの時はちらりとしか見ることが出来なかったが、こうして正面から見てみるとターコイズブルーの垂れ目が色っぽい伊達男だった。なんというか、ただれた雰囲気があまり騎士らしくない。着崩しが似合いそうな不良騎士って感じだ。そしてこの人はあまり動きが良くない。


 私の腰元を見たリビルトさんが固まる。何かと思って見てみたら私も驚いた。彼の顔を目にするなり私の腰にしがみついたヴィーフニルが射殺しそうな視線を向けているのだ。……一体、どうしてこんなに毛嫌いするのだろうか。

 リビルトさんはそのヴィーフニルの視線にたじろいでいたが、オレンジ色の騎士様は気付かなかったようで、私の顔を見て謎の単語を発した。


「……麗しの君?」

「なっ」

「は?」


 異口異音だ。一文字という点と、2人とも驚いているという点は同じだったが。

 なんだ、ウルワシノキミって。


 場を困惑させた張本人は驚いた顔をしたリビルトさんを見て確信を得たようで、面白そうに目を微笑ませ、嬉々として語りだした。


「あ、やっぱりそうだ。この堅物のハートを一瞬でもがっ」

「何言ってるこの馬鹿!」


 リビルトさんがオレンジ色さんの口を塞いで遮る。若干焦っているのだろうか、言葉が荒い。


「うるわしのきみ?」

「な、なんでもないんです。お気になさらず!」


 愛想笑いのようにこちらに微笑んだリビルトさんだが、オレンジ色さんの顔色がどんどん悪くなっていく。オレンジ色さんがリビルトさんの小手に包まれた腕をガンガン叩いた。ロープロープ?

 あ、違う、口だけじゃなく鼻まで塞がれているのだ。あれでは苦しいだろう。


「ぶはっ、窒息するっつーの!」

「お前が変なことを言うからだ!」


 リビルトさんが解放する頃には、オレンジ色さんは息も絶え絶えだった。


「……ふーん? ま、いいさ」


 未だぷんぷん怒っているリビルトさんに意味深ににやりと笑ったオレンジ色さんは、こちらへと向き直って姿勢と表情を正した。


「挨拶が遅れましたが、私は神聖騎士団第3隊所属のギル・ディアール=ロジェクスと申します。ギルとでもお呼びください。見知りおきを、麗しの君と青色のおちびさん」


 先程までからは想像もできない態度と凛とした声で挨拶をしたオレンジ色さん。いや、ギルさん。優雅な仕草のお辞儀に見惚れる。そうしていると、騎士っぽくてかっこいいじゃないか。なるほど、世間の娘さんは、こういったギャップにやられるわけだな。

 ギル×リビルトなんてどうだろうか。仲良さそうだし。


「……ちびじゃない」


 青色のおちびさん、に反応したヴィーフニルがぽそりと呟いたが、私以外には聞こえていないようだった。うーん、この子、本当に対人コミュニケーションに難ありだよなあ。親近感が強くなる。


「あ、ご丁寧にどうも……ヤマト、です。こっちの子はヴィーフニル。冒険者ギルドコロナエ・ヴィテに所属してます」

「先程は補助魔法をどうも」

「あ、はい」

「……いつまで猫被ってるんだ」


 猫被りモード、かっこいいから私的にはいいんですけど……と思ったが、リビルトさんはお気に召さないらしい。まあ、確かに、本性を知っていればあれだけど。


「なんだよ、俺が麗しの君にどう接しようが俺の勝手だろー」


 あっという間に戻ってしまった。ああ、もったいない。でもギャップ萌えでいいかもしれない。


「気味が悪い。……ヤマトさん、見たとおり適当な男ですから、こいつの言うことは話半分程度に聞いてくださいね」

「えっ」

「お前が意地悪なこと言うから、優しい麗しの君が困ってるじゃないか」


 悪態をつくリビルトさんと、からかうギルさん。悪友、といった感じだ。本音の曝け出し具合が良い。2人ともいい男だし……ああ、なんかこう、出会った経緯とか知りたいし、出会いのシーンとか見てみたいな。最初は仲悪くて紆余曲折あって仲良くなったとかだったらすごく王道だ。

 まあそれはいいとして、麗しの君とは一体何なのか。


「……その、麗しの君って?」

「ああ、先程も言い掛けたのですが、こいつがうぐっ」


 楽しそうに説明をしようとしたギルさんの右脇腹に、目にもとまらぬ速度のグーパンチが入る。リビルトさん、予備動作なしとか半端じゃないな。ドゴッて音がしたぞ……鎧小手だから、相当痛いんじゃ。


「なんでもありません」


 悶絶する友人を放置して笑顔を浮かべるリビルトさん。もしかして、腹黒キャラだったのか……? その場合、お勧めカップリングが逆転するが、よろしいか?


 だが、私がリビルト×ギルの可能性について考え出したところに、横槍が入った。


「奴が出たぞー!!」


 その叫びの後耳を澄ませれば、悲鳴や怒号すらも聞こえてくるではないか。一体何なのだ。


「ヤマトさん、ヴィーフニルくん、行きましょう!」


 リビルトさんがそう言って走り出すのに、反射的についていく。悶絶していたギルさんもいつの間にか復活していた。


「やつ?」


 状況が掴めないで聞いた一言に、リビルトさんが不敵に笑って返答した。


「神聖国首都周辺一帯の大ボスです。締めのイベントのようなものですよ」


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