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Trans Trip!  作者: 小紋
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6‐(2).有名ホテルの朝食は格別

神結祭かむすびまつり?」


 毎朝恒例のミーティング中、突然出てきた楽しそうなワードに私の耳が反応した。

 お祭りは、好きだ。厳密には、屋台が好きだ。あのチープな食物群がたまらない。そして、お祭り特有の浮足立った空気も嫌いではなかった。人混みは大嫌いだが、屋台とその雰囲気のためならば多少は我慢できた。毎年それで人酔いして路肩に座り込んでいたのも懐かしい思い出だ。

 わくわくする私の横の席では、少々無理に起こしたせいでまだ眠いらしいヴィーフニルがこくりこくりと舟をこいでいた。


「ええ、そう。8日間続く、すごく大きなお祭り。前後夜祭含めたら10日間ね」


 エデルさんが艶然と微笑んで言う。

 彼女の口から出た10日間という数字に驚いた。元の世界で私が住んでいた地域ではあまり地域活動が活発でなかったので、あるお祭りと言ったら神社の縁日か、隣接する街の花火大会くらいだったのだ。小規模なお祭りだから、続いたとしてもせいぜい2晩くらい。少し遠出すれば大きなお祭りをやっているところもあったのだが、あまり遠いと遅くまで楽しめないのと帰るのが面倒なこともあり、そんな大規模フェスティバルには参加したことがなかった。

 大きなお祭りといって連想されてくるのは例の同人誌即売会もそうだが、あれは祭ではない、戦だ。あそこで入手したものを戦利品と呼ぶことが定着していることからも、それは明白である。


 曰く、神結祭とは……8日間、厳密には10日間ぶっ続けで行われる、カエルム教と関わりの深いお祭りだそうだ。

 前夜祭、火の女神祭、水の女神祭、地の女神祭、風の女神祭、木の女神祭、光神祭、闇神祭、天神祭、後夜祭と続くイベントで、その10日間は飲めや歌えの大騒ぎらしい。前後夜祭以外の名前がそれぞれ違うのは、計8柱いるカエルム教の神様たちをそれぞれ1日ずつ祭るからということだ。そういえば、属性と曜日と神様は関連しあっているとか、5女神2男神1主神とか、何かの本で読んだことがあるような気もする。

 まあいい。それで、一番メインの日は9日目の天神祭の日。主神である創造神カエルムを祭るための日であって、この日のためだけに、天曜日という一年に一度だけ来る曜日なんてものもある。

 また光神祭の日からは闘技大会が開かれて、光神祭では予選、闇神祭には本戦、天神祭では準決勝と決勝戦、そして締め括りに光神の転生体と闇神の転生体で奉納試合が行われるらしい。この光神の転生体と闇神の転生体というのは、その名の通り光神と闇神が転生したと言われている偉くてすごい人だ、とのこと。なんで神様が人間に転生? と思ったが、そういう神話があるんだそうだ。

 心が弾む。全部聞きかじりの知識だが、聞いているだけでも楽しそうじゃないか!


「と、いうわけで……毎年のことですが、お祭りには多くの人出が予想されるため、来週から神聖国周辺で大規模なモンスター掃討作戦が展開されます」

「コロナエ・ヴィテも参加予定だ。開始は来週頭で、期間は一週間。みんな承知しておいてくれ。神結祭開催中は休みだから、それを励みに頑張るように」


 ジェネラルさんがエデルさんの言葉を引き継いで告げた。ああ、そう繋がるわけか。お祭りの話はただの行事説明の世間話ではなく、任務の話の前振りだったようだ。


 大規模モンスター掃討作戦。騎士団と兵団が主導で毎年やっているようで、どんな弱小ギルドにもお声がかかるらしい。ギルドに所属していなくても、申し込みさえすれば参加できるそうだ。ちなみに、例えお声がかかったとしても参加するかどうかは自由で、この任務で怪我したりしても自己責任。まあ、そのあたりは普段の冒険者の仕事と変わらなかった。

 しかし、もしかしなくても、コロナエ・ヴィテ以外の人と仕事をするのは初めてじゃないだろうか。ああ、人見知りが存分に発揮されそう。知らない人と話すためのイメージトレーニングを来週までにしておかなければ。


「はーい、質問」


 ソルが手を上げて発言する。


「はいソル」

「今年の宿泊施設はどこでしょうかー」


 宿泊施設? と疑問符を浮かべた私だったが、聞けばコロナエ・ヴィテは毎年の大規模掃討作戦の期間中、慰安旅行ぐらいのつもりで高級宿に泊まるらしい。一回やったら恒例化してしまったので、なんとなく続けているそうだ。初回に何故そうすることになったのかは誰も覚えていなかった。

 しかし、冒険者なのに、慰安旅行で国内どころか街の中、っていうのもなんだか変な話のような気もするが、もうあんまり気にしない方がいいのだろうか。いっちばん最初にニーファが言っていた「ま、うちのギルドは変わってるけどね」との言葉が思い出される。どんなふうに変わっているのか当初はわからなかったが、今ではわかっていた。


(ギルドっていうよりは、仲良し一家って感じだもんねコロナエ・ヴィテは。最近子供が増えましたってなもんだ)


 家族の慣習には理由を求めてもしょうがないことが多い。この仕事兼慰安旅行もその類だろう。


「それについてはキルケとレイに頼んであるわ」


 ソルの質問を受けたエデルさんが、宿泊施設の手配を担当したという彼らに向き直って発言を促す。


「今年は神聖国キングズホテルでェス」

「おおっ、マジで!」

「運良くコネクションが繋がったからな」

「やったぁー!」


 ソルとエナの嬉しそうな歓声が響いた。そんな2人を見て、キルケさんもレイさんも満足そうだ。程度の差はあれど他のみんなも嬉しそうにしている。だが、ヴィーフニルだけは相変わらず舟をこいだまま戻ってこない。後でいろいろ連絡事項を伝えてあげなければ。


 神聖国キングズホテル、名前と評判だけなら聞いたことがあった。超高級で有名なホテルだ。私の世界で言う帝国ホテルのようなものかとも思ったが、神聖国キングズホテルは国営の宿泊施設。個人的には、公営のホテルって言うと、あんまりすごそうなイメージはないのだが……ソルとエナの喜びようからして、けっこうすごいんだろうか?

 興奮気味に瞳を輝かせているソルたちの会話の横で、キルケさんがニーファに「頑張ったんだよォ褒めてニーファちゃン」と擦り寄って殴られていた。歪みないな。


 だが、みんなが概ね喜びを表現する中、一人だけ不平を唱える人物がいた。


「ええーっ今年は神聖国ホテルなんですぅ!? だったら私も行きたかった!!」


 ジェーニアさんだ。彼女はいつもの仕事のように大規模掃討作戦には参加せず、ギルドハウスで留守番をすることによって家事をやらなくていい休みを満喫していたそうだが……今年は何故だか違うらしい。


「ジェーニアはこの時期は家事をやらずに研究に没頭できると言って喜んでいただろう」

「豪華な食事や部屋なんぞに興味はありませんよう! あの建造物に使用されてる魔法技術が世界的にも珍しいんですよう!」


(あ、なるほど)


 納得した。彼女が熱くなる出来事は、ほとんど全てが魔法絡みというわけか。


「残念でスが、既に9名で予約済みだからァ無理ィ」

「……うううー! いいですもん! そのうち有給とって行ってやるんだから!!」


 すごく意地悪な表情でキルケさんが断言する。ニーファに殴られた腹いせだろうか。彼は悔しがるジェーニアさんに向かってにやにやしながら舌を出した。長い舌についたピアスが鈍く光っている。よくもまああんなところに穴をあけられるものだ。


 地団太を踏みそうな勢いのジェーニアさんを散々いじった後、ふと思い出したようにキルケさんが言いだした。


「ソういや、大規模掃討任務の時カヴァリエ幹部陣が神聖国ホテルに泊まるらシーよ」

「は!? なんで!?」


 カヴァリエ? と聞き慣れない単語に反応する間もなく、ソルが思い切り嫌そうな顔をして立ち上がる。椅子を倒さんばかりの勢いだ。カヴァリエ、について何か嫌なことでもあるのだろうか?


「カヴァリエは大規模掃討作戦のときは毎朝ギルドハウスで集会やるからねェ?」

「うっわー……マジかよ……顔合わせなきゃいいけど」


 二の句を聞いたソルは、今度は先程の勢いとは対照的にすとんと力無く椅子に座り込んだ。


「カヴァリエ?」


 やっとのことで疑問を口に出せた私の問いには、レイさんが答える。


「国内最大規模の剣士ギルドだ。ソルはそこのギルド長と仲が悪くてな」


 なるほど、顔合わせなきゃいいけど、というのはそのギルド長の話か。私の中では人当たりが良く対人関係が良好だと思われていた彼だが、ここ最近ではその評価を覆している。ヴィーフニルとのこともそうだが、そんなに嫌がるほど仲が悪い人がいるなんて思わなかった。


(大丈夫かなぁ……問題が起きなきゃいいけど)


 はらはらと心配の念が湧いてきた私だが、次の瞬間エナに耳打ちをされたことの内容によって、派手にそれを崩されることになった。


「カヴァリエのギルド長、イクサーって言うんだけどね……ソルとは年も同じだし、剣の腕前も一緒くらいなんだぁ。ライバル視しあってるんだよ、二人とも」


 イクサーは女の子にもモテモテだからねー。エナはそう続けた。


 脳内で爆発が起こるのを感じる。同じ年齢のイケメン2人、しかもライバル関係といったら……これはもう、言うべくもない。私の獲物だ。


(喧嘩ップルっすか? マジで? うわあ喧嘩ップル大好き! 是非遭遇してくれ、私の目の前で!)


 これでもう、以前ソルのカップリング相手にと望んで妄想した通りの俺様暴君であったら言うことはない。そこまではどうだかわからないが、期待の一途だ。


 嫌そうな顔をして黙りこむソルを見ながら、彼の不幸を望む友達甲斐のない私であった。


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