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Trans Trip!  作者: 小紋
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4‐(7).話が長い人は嫌われる

 ソルの無意識の行動に恐れ戦きつつ、帰途についてから十数分、ギルドハウスへ到着する頃。先程大泣きしたにも拘らず、私の頭はすっかり他のことにいってしまっていた。


(ソル……めっちゃ、受けじゃね?)


 そんな俗としか言えないような内容に。


(いやだっておま、無意識にくっついちゃうとか……どんだけ可愛いのっていう。受けだろ。慰め目的にとりあえずくっついちゃう! 泣かないで! みたいな。可愛すぎる。普段理性的チャラ男なくせに、こういう時は海千山千の手練手管が発揮できなくてとりあえずくっついちゃう! みたいなね、もう! ギャップ萌えってか、畜生!)


 占拠されていた。


(普段からスキンシップ大目なのはそういうわけか。意外と、言葉よりも手を出すタイプなんだな? さっきだって私が堂々たる攻めであればあんな妙な具合にならなかったはず……いや堂々たる攻めは恐怖で泣いたりしないわな。攻めいないか攻め。意外なギャップを見せる理性的チャラ男を落とす包容力を持った攻め。あー畜生男性の知り合いが少ない。ここ一週間でジェネラルさんが早々に心の聖域に殿堂入りしちゃったせいで彼は使えないし……レイさんにゃんこだからかわいいし、となると残りはキルケさん!? あーでもキルケさん奇抜な外見の割に常識人のお人よしっぽいし背ちっちゃいからなぁ……受けだろ。もうみんな受けだ畜生! あ、ジーンさん……ジーンさんも、受け。ああもう受け同士で百合ップル!? 百合ップル!! ひゃっほい!!! いやいやいやいや早まるな私厳選しろ。リサーチが必要だ。ソルの交友関係もチェックしたい。どんな人がいるんだ。ソルと仲のいい人を一列に並べて属性表示してくれ。ああー畜生なんかこう……野獣的な人が良い。野獣的な人。いないかなああああ私の知り合いにはいねええええ。みんな良い人やっちゅーねん俺様な人が今のところいないっちゅーねん。……いっそのこと、さっきの魔人たちをああくそなんかいい具合になりそうだ悔しいッでもビクンビクン)


 どうしようほんと。






「さて、何から聞きたい?」


 止まらない思考に毒されているうちに、話が始まったようだ。ハッと気付いて頭を切り替える。ここはギルドハウスの食堂。今は他に誰もおらず、広い空間の端っこに四人がぽつんと座っている状態だった。


(そうだよ、今から真面目な話だよ)


 そう、頭の中で涎を垂らしている場合ではない。


「とりあえず、あの魔人がどういうやつらなのか」

「そうね。レヴィ=リド=グランバーグと、オルドラ=ゼルドだったかしら?」


 視線で同意を求められて、頷きを返した。ニーファが話を続ける。


「レヴィって名は聞きおぼえがあるわね。魔国一変わり者が多いグランバーグ家。女王に心酔して尽くす女当主の名前が、アルザー=メイア=グランバーグ。そして確か、その弟がレヴィ=リド=グランバーグ。オルドラって奴はミドルネームもないし、レヴィに付き従ってたことから考えるとおそらくレヴィの付き人のようなものかしら。推測だけれど」


 魔国? 初めて聞く国名だ。気になって聞いてみたら、魔人や魔獣という種族を総称した魔族という人たちが統治する国家らしい。カオスサイドの住人が治めるカオスサイドの国……厨二心を擽られる。

 でもそうすると、なんだか話がすごく大きくなってしまっていないだろうか。同じ感想を持ったらしいソルが聞く。


「魔国の女王の関係者って……ずいぶん大げさな奴が出てきたね」

「そう、大げさね。公的地位もない1人の人間を狙うにしては随分大げさだわ」

「それなら、なんで?」


 エナが首を捻りながら問いを発した。


「ヤマトに公的地位以外の価値があるから。厳密に言うと、こいつの魂に」


 そんな設定もあった、と今更思い出す。ちょっと、いやちょっとどころじゃなく恥ずかしいのだが、口を挟まずに話を聞く。


「魂?」

「そうよ。どういう価値があるのか、っていう話をするには随分小難しくなるけど、それは必要かしら?」


 なんか、その聞き方だと「あほのこには理屈は必要ないでしょう」って言っている風に感じてしまうのだが。


「あー……いらない。敵の正体と俺らがヤマトをどんな風に守ればいいのかだけ教えて」


 言い方はさして問題としないようだ。そういえば、脳味噌筋肉にも反論してなかったしなぁ。

 私なんかは、細かいところが気になってしまうのだけれど。だが彼らにとってはこれは仕事なのだということを思い出した。把握しておくべき領分はわかっているということか。


「敵の正体って、簡単に言ってくれるけどね。……まあほんとに簡単に言うと、ヤマトを狙ってる黒幕が1人とその協力者が魔国の女王。だから、魔国が丸々敵だと思って」


 黒幕、恐怖美少女……ルイカのことだ。なんということだろう、あの恐怖美少女に、国家が一つ味方してしまったらしい。相当恐ろしい。大丈夫か私。


「は……魔国が丸々っつっても、あの国全然わかんないじゃんよ」

「そうなのよ。だから困ってるの」

「全然わかんないって……?」


 国が、わからない? どういうことだろうか。

 聞いてみるとニーファが答えてくれた。魔国とは国とは名ばかりの無法地帯で、統一はほぼなされていないらしい。王の権力もそんなにないとか。しかしだからこその未知数であり、対策が取りにくいとのこと。


「んー……ま、いいや。とりあえず怪しい魔族全部警戒する。そんで黒幕ってのは?」


 全部警戒、なんて男らしい対策だろうか。


「黒幕に関しては、何か地位を持ってたりするやつじゃないから外見的特徴で伝えるしかないわね。白い髪、白い瞳の若い女で、名前はルイカ。強いから要注意」

「白い髪に、白い瞳……? 情報、そんだけ?」

「あと性格最悪」


 追加情報になっていない。ほぼ私観ではないか。ソルもこれ以上の情報は諦めたようで、なるほどと投げやりに呟いた。


「ねえねえヤバい奴なのそいつ?」

「そうね、ヤバさに関しては今まで相手してきた奴らとは比べ物にならないから」

「えぇっマジでぇ?」

「大マジよ。……どんなふうに守るかに関しては、相手の出方がいまいちわからないから、断定してこうとは言えない。ケースバイケースで臨機応変に対応して。だけど……ヤマト」

「あ、何?」


 突然矛先が向いたので驚いて返事をする。


「その腕輪やったときの約束と違くなるけど、1人での単独行動はもうしないほうがいいわ。流石に本拠地に乗り込んでくることはないと思うからギルドハウスの中は問題ないけど、外に出るときは絶対に誰か連れて行って頂戴。……悪いわね」


 申し訳なさそうに言われて、逆に申し訳ない気分になった。言ってしまえば、私が外出やら何やらを諦め、ただ飯食らいな居心地の悪さにも耐え、ずっとギルドハウスにこもっていれば護衛のことは問題ないのだ。

 そもそも、私は守ってもらうことが前提になっている。色々考えてもらって感謝こそすれ、文句を言う筋合いなんか一切ない。






「……んじゃ、最後の質問。なんで俺たちはヤマトが狙われてること知らされてなかったの」


 険のある声でソルが聞いた。そうだ、先程駆けつけてくれた彼らは、魔人を見て随分驚いていたっけ。彼が怒っているのは、れっきとした任務であるのに、私の護衛に関しての情報がきちんと伝達されていなかったということに関してらしい。


「それについては……あたしが悪い」


 瞠目してニーファが言った。


「本来なら護衛はあたしだけでやるはずだったから、情報の伝達が遅れたのよ。近日中に言おうと思ってた。奴に協力者が出現するなんて思ってなかったから、まだ猶予はあると思ってたの……ああもう、これ言い訳ね。今の忘れて。結局、ヤマトが危ない目にあったのはあたしのせい。悪かったわ……反省してるの、これでも」


 ここまで彼女が言いきると、みんなが黙った。しばらく経ってから、ソルが小さく呟く。


「……反省……?」

「そうよ、悪い?」


 恨みがましげに周囲を睨むニーファに、エナが笑う。ソルも笑って、さらに続けた。


「……めっずらしー」


 それでニーファは完璧に機嫌を損ねたようだ。恐ろしい眼力でソルとエナを睨んだ。


「うるっさいわね……」

「ごめんごめん」


 笑って謝るソル。エナはまだニヤニヤしている。ぷい、とそっぽを向いたニーファが可愛くって、私も笑うと、また恐ろしい顔で睨みつけられた。怖い。


「……俺、いつもの秘密主義かと思ってたよ。違って良かった」


 若干安心したようにソルが言った。秘密主義……秘密の多いギルドだから、と言っていたなそういえば。日々生活していて納得できないところもけっこうあったりするのだろうか。

 違うわよ、と言うニーファ。ソルの心情は慮ることしかできないが、どうやらこの場はおさまったようだった。






◇ ◇ ◇






 あの後しばらく雑談を交わすと昼食の時間にちょうどいい頃合いとなっていたので、ジーンさんの酒場に繰り出すことにした。ここ一週間でも何度かお邪魔したが、この酒場は夜だけでなく昼も営業している。ランチメニューは値段も手ごろなため、これからもお世話になること請け合いだ。

 もうすっかり肉食男子として定着した私は、周囲がオシャレフードを食べているのにも拘らずがっつり肉を頼んだ。今日のチョイスは、聞いたところによると、山羊肉。雑食な私は臭みのある肉も嫌いではなく、なかなかいける。まあここの料理はきちんと調理されているので、そんなに臭いわけではないけど。


 余談だが、豹のエディフとか兎のエディフなんて言葉があるように、この世界での動物は元の世界とはそんなに変わらない。違うのは、動物以外に、モンスターとか先程聞いた魔獣といった存在がいることだけだ。モンスターはおいしいのかと聞いたら、モンスターを食べるのは大変な悪食だけだと返ってきた。そして一部のモンスターと魔獣の肉には毒があるそうで、それらに関しては絶対に食べられないらしい。魔獣とその他との違いは魔力を持っているかどうかとのことだが、動物とモンスターの明確な線引きはどこにあるのか気になった。だが聞いてみると答えられる人がいなかった。そんなこと気にして生きてない、とのことだ。本か何かを読んでみればわかるだろうか。


 得た知識を思い返しながらもりもり食べていると、ソルが何事かを思い出したように呟く。


「……あ」

「何よ?」

「あのさ、依頼人て誰。ヤマトの保護任務の」


 行儀悪くフォークを振りながら言うソルに、止めなさいみっともないなんてお母さんのようなことを言いながらニーファが対応した。


「今更?」

「今気になったんだよ」

「神王よ」


 ぴたりと会話が止まる。一拍置いて、ソルとエナが驚愕の声を出した。


「えっ……」

「うわ……噂、ほんとだったんだ……」


 私も驚いた。神王って言ったら王様だ。一国の主に気にかけられちゃってる私ってちょっとすごいんじゃないだろうか。まあでも、相手が相手だからかもしれない。恐怖美少女、世界的脅威らしいし。

 そしてエナが言った噂、という言葉も気になった。


「噂?」

「あ、あのね、だんちょーが、神王と繋がりがあるって噂」


 うわーすげーすげーとそればかりを騒ぐソルとエナ。しかし、ジェネラルさんなら王様の知り合いくらいいそうな気がするのだが。っていうか、ジェネラルさんが王様でもおかしくない気がする。一週間ぽっちでそのくらい人を心酔させるのだから、彼はすごい。しかしそれをもってしてもすげーと言わせてしまう神王。気になって聞いてみた。


「……神王って、そんなにすごい、の?」

「この国に住む人間とカエルム教の信徒からしてみたら現人神のようなもんだよぉ」


 あらひとがみ、とは。難しい言葉が出てきたものだ。普段やわやわとした喋りばかりするエナの口からそんな単語がでてきたことに驚いた。その言葉が浸透してしまうくらいには、神王っていうのはすごいのだろう。

 というか、もうひとつ聞き慣れない単語がある。


「カエルム教?」


 変な名前……と思ったが、教、とつくからには宗教だ。宗教のことを迂闊にバカにしたらどうなるかわからない。初めて会った人間とは宗教と野球の話はするなというものだ。

 エナは私がその名前を知らないということに驚いて、説明してくれた。


「そこからかぁ……あのね、カエルム教っていうのは、この世界で一番普及してる宗教。アスタリア神聖国の国教で……神王サフィールは、アスタリア神聖国の建国者であり、カエルム教の創始者にして教皇」

「えっ、じゃあ神王様って何歳なの?」


 世界で一番ときた。宗教って100年やそこらで世界中に広まるもんでもない気がする。世界中に普及してる宗教の創始者、ってことは、相当お年を召しているのではないだろうか。


「今年が天暦5038年だから、5038歳以上はいってるはずだよぉー」


 天暦というのは、この世界で一番使われている紀年法らしい。元の世界の西暦のようなもので、神聖国が建国されたのが、天暦元年だそうだ。途方もない。

 口からでたのは「ひえー」という正直な悲鳴。さまざまな種族が偏在し、寿命形態も種族ごとに違うというこの世界。一番長く生きる種族であるライトエルフの平均寿命は約3000年ということだが、神王様のお年はそれを優に超えていた。完璧なイレギュラーというわけだ。しかも、未だご健在らしい。


(つまり、お釈迦さまとかイエスさまとかが今でも生きてて国を治めてるって感じ? そりゃ、すごいわ)


「なるほど、このギルドに国の上層部から依頼が入ってくるのはそういうわけなんだ……って、あのバカみたいな依頼内容、神王が書いたの?」


 ソルが言う。国のトップと繋がりがあれば、上層部との繋がりも出来るというわけだ。しかしその後のコメントは果たして大丈夫なのか、不敬罪とかで怒られるのでは。

 そうよ、と返したニーファが意地悪く続けた。


「あんたのコメント伝えとくように兄貴に頼んどいてやろうかしら」

「あ、うそうそうそやめてほんとやめて」


 焦って頼み込むソルに、みんなで笑ったのであった。


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