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Trans Trip!  作者: 小紋
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幕間 4‐(6.5).無意識への警鐘

(ナイス演技、俺!)


 ニーファの質問から逃れ得たソーリスは、詰めていた息を心の中で小さく吐いた。


 危なかった、非常に危なかった。まさか、ニーファがあのタイミングで聞いてくるとは思っていなかったから、とっくに流された出来事だと思っていたのだ。もしくは、彼女は割合不思議な価値観を持っているから、気になんてしていないかと。

 不意を打たれたため、うまく表情を作れていたかがわからない。努めて無表情、さらには逆にこちらが彼女の反応について疑問を持つかのような体に見せかける演技。うまくいったかはわからない、だがその後のニーファたちの反応を見る限りでは大丈夫だったのだろう。

 でも、考えてみたら都合が良かったかもしれない。不自然さはかなり残るだろうが、これで先程の“うっかり”は“無意識の行動”として処理することが出来る。しれっとした顔で、何事もなかったように過ごすことが出来る。


(マジ、気をつけないと……)


 気をつけなければいけないのは、先程のような行動。涙を流すヤマトを見て、思わず頭に手を伸ばしてからの、一連。


 透明な滴が白皙の面に流れるのを間近で見てしまって、体の内から奔流が生まれた。そりゃもう、ぐわっと。理性が飛ぶというのはああいうことをいうのだろう。


 そもそも、頭を撫でるという選択をした時から何かがおかしかった。生まれに4年の差があるとはいえ、そう年の変わらない同性に取るべき選択肢ではなかったのだ。もう、自分が手を貸してヤマトが立ち上がってすぐ、彼の声が歪んだ時には、自分の理性はダメージを受けていたのだろう。

 それなのに、間近でヤマトと接してどうにかならないわけがなかった。気付いた時には彼を抱き込んでしまおうと体が動いていた。手を取り、引き寄せ……ギリギリのところで一歩だけ踏みとどまったのだが、それは不幸だったのか幸いだったのか。

 抱きしめる直前で踏みとどまってしまったせいだ。引き寄せた後どうしていいかわからず、手を取ったまま地べたに腰を下ろした。直後彼の手を離すことはできたものの、その手のやり場に困って何故か肩を抱いてしまい、密着したまま離れるタイミングも掴めなくなり、なんて……今考えてみればどれだけパニックに陥っていたのかと大笑いなことになってしまったのは。

 さらにはそのせいで路地裏でのやり取りがあんな妙な具合になった。ニーファは表情に出さずともおかしいと思っていたようだし、エナは思い切り困惑していたし、ヤマトは驚いて体を硬直させていたし。


 自分の中の中途半端な常識が、急に顔を出して叫んだのが全ていけない。「泣いてる男を、同性の友人が抱きしめるのはおかしいだろう常識的に考えて」なんて。そりゃあ間違いないだろうが、いっそのこと抱き締めてしまった方がよっぽど誤魔化しようがあった。彼がスキンシップを苦手としていることに気付いてからは、意識してスキンシップを多めにとっていたのだから。






 ここ一週間で、ヤマトに対する印象は固まりつつあった。穏健で優しく、自己主張が控えめ、何か言いたいことがあっても飲み込んでしまうことが多い、コミュニケーションが得意ではない、というのが主に立つものだ。彼ほどの並外れた美貌を持っていれば、高すぎるプライドをもってして他者を見下す傾向があっても不思議ではないのだが、そういう雰囲気は全くない。純真培養なのかとも思ったが、それにしては俗っぽい知識にも疎くない。かと思ったら、変に世間知らずだったりする。田舎暮らしの賜物だろうか?

 そしてごく最近、そこにスキンシップが苦手という項目も追加された。


 エディフはヒューマンと比べると、親愛の情を示すためのスキンシップを多く使う。自分も例に漏れず、仲良くなりたい人間にはガンガンいく。相手が触ってほしくないというオーラを漂わせていない限りだが。

 ヤマトにもガンガンいっていたのだが、ある時彼が体を硬くしていることに気付いた。ああ、苦手なのかなとは思ったが、押し返されたり止めろと言われることもなかったので、止めなかった。彼の我慢がキレる前に、慣れさせてしまおうと思ったのだ。意識してスキンシップを多く取るようにしていたのはそういうわけだ。

 そうだ、それの一環として誤魔化してもよかったじゃないか。


(無意識でしたー、とどっちが不自然かなぁ……)


 どちらにせよ不自然なことには変わりないか。……もういい、終わったことを考えるのは止そう。誤魔化せたんだからいいじゃないか。






 それにしても、自分があんな風になるとは思っていなかった。結構感情制御は得意な方だと思っていたのだが、そうでもなかったらしい。

 それとも、ヤマトにはそれを忘れさせる何かがあるのだろうか。最初に風呂場へと同伴したときの感情が蘇りかける。だがすぐに頭から追い払った。それ以上考えたらいけない。


 ヤマトは大事な友達だ。泣いているのを慰めずにはいられないくらい。そうだ、だから、それ以上考えるのは止そう。

 こんな些細なことでせっかく得た友人との関係をぎくしゃくさせるのは御免だ。


 これから先程の襲撃の犯人について話を聞くのだから、頭を切り替えなければ。


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