endless love letter
初めての短編作品です!拙い文章ですが、どうぞよろしくお願いします。
「手紙が欲しいな……」
病院の一室で何気なく呟いた君の一言に、僕は俯いていた頭を上げた。
「ごめん、聞いてなかった。……何だって?」
僕のとぼけた顔を見て、君は少々呆れた顔をしながら笑っていた。
「手紙が欲しいなって言ったの。ねぇ、書いてくれる?」
君の一言に、思わず驚いた表情を見せてしまった。僕は手紙というものは苦手だった。いや、苦手というより書いたことも無かった。
もともと、自分の考えや気持ちを文字で表す事が苦手な為、僕は今まで手紙はおろかメールすらした事が無かった。僕にとって、それらは必要が無いと思っていたから……。
そんな僕だから、君の一言には本当に驚いてしまった。ごく普通の人なら当たり前のようにしている行為だが、僕にとってはただの面倒なものに過ぎないのだから。
「嫌だよ。そんな事をしなくても毎日見舞いには来るから……」
彼女=桂木由比は、生まれつき体が弱いせいで、何回も入退院を繰り返していた。僕はやっぱり君に会いたい為に、毎日見舞いに来ている。
「だめ、手紙が欲しいの。どんな事でもいいの。何をしたか、何を食べたか、何を考えているのか……」
そんな事なら、やはり直接話した方がいいじゃないか……。手紙なんて回りくどいやり方を使うなんて、ただの労力の無駄遣いに過ぎない。
そう思ったが、これは僕たちが付き合うようになってから今まで、一度も我がままを言った事が無かった君の初めての我がままだった。だから、僕はそんな君の初めての我がままを仕方なく受け入れる事にしたんだ。
「何でもいいの……。ノートの切れ端やメモ帳でもいいから書いて欲しいな」
君はそう言っていたけれど、変なところで見栄っ張りな僕は初めてレターセットを買いに行った。高校の帰りにそのまま買いに行ったから、制服姿の僕が真剣にレターセットを選んでいる姿を、周りの人間がチラチラ見ていた。
そんな恥ずかしい思いをしたのに、僕は君の為に毎日違うレターセットを買いに行った。そんな日々が続くと、徐々に恥ずかしさも消えていったんだ。
初めて書く手紙だから、上手く書けているかどうかも分からないけれど、不器用なりに書いた君への初めての手紙を毎日僕は君の病室へ届けた。
大した事も書いていない、綺麗な柄のレターセットでかろうじてフォローされた僕の手紙を君はとても嬉しそうな表情で読んでいた。
君の笑顔は見慣れているのに、その時の君の笑顔が今までの中で一番輝いていて素敵だったから、再びそんな笑顔を見たくて僕はこうして君が退院するまで手紙を書き続けた。
あれほど嫌がっていたのに、君の笑顔の為にだけ書いてしまう僕は単純な人間なんだ。
そして、君が退院した後の今も僕は君に手紙を書いている。君の喜ぶ顔が見たいから。そして、それを毎日君の元へ届けに行く。
“手紙が欲しいな……”
君の一言で初めて書いた、僕の君への恋文……今は誰も読む事の無いこの手紙を、僕は毎日書いている。
あの頃と同じ様に違う柄のレターセットを買いに行って、君の好きな青のペンで毎日手紙を書いている。大した内容では無い。今日の出来事や何を食べたのか、そして今、君に何を伝えたいか……。そんな内容を相変わらずの不器用な文章で並べただけの手紙。
そして、今日も僕は今から君に手紙を届けに行く。決して読まれる事の無い僕の不器用だけど永遠の恋文は、君が眠る丘の墓地に毎日届けられる……。
狂ったように書き続けるこの恋文を届けた後も、僕は再びペンを執る……。
いつまで待っていても、決して来る事の無い君からの返事を待ち続けながら……。壊れたレコードのように何度も何度も繰り返されるこの行為……。もはや狂っているとしか言い様が無い。けれど、書かなければならないんだ。だってほら、今日も君が僕の手紙を待っているから……。僕の不器用な恋文を待っていてくれる唯一の読者だから……。
だから……だから、僕に聞かせて?
君の僕が書いた恋文の感想を、僕に聞かせて……。
読んでばかりじゃなくて、感想を聞かせて。
君はそんな僕の願いを叶えてくれないのに、僕はこうして再び手紙を書き始めるんだ……。だって、君の笑顔が……見たいから。
“Dear 由比……”
こんにちは、山口維音です。読んで頂き本当にありがとうございます!
初めての短編作品『endless love letter』は如何だったでしょうか? これは、私が仕事をしている時にふと頭に浮かんだ“終わりのない恋文”を元にして話を考えてみました。今回の作品では、主人公の名前を出していません。あえて、彼女=由比だけ出してみました。
私、山口維音の初の短編作品『endless love letter』の感想等、お待ちしております。