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宝くじで40億当たったんだけど異世界に移住する  作者: すずの木くろ


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60話:目的と手段とおいしいごはん

 次の日の昼。

 バリン邸の一良の部屋では、一良が日本から持ってきた数十個のダンボール箱の蓋を開け、バレッタに中身の説明をしていた。

 ダンボール箱の中身は缶詰やリポDなどの食料品と、包帯や消毒液などの医療品であり、一良が数ヶ月の間グリセア村に戻ってくることが出来なかったとしても大丈夫なようにと、かなり多めに用意してある。

 更に、ダンボール箱の隣には、精米された米の入った袋が500キロ分積まれている。

 これだけあれば、もし一良が長期にわたって村に戻ってくることが出来なくなったとしても、かなりの期間を持たせることが出来るだろう。


 最近では村の作物が大量に収穫できるようになったので、村の食糧問題は既に解決している。

 だが、一良が村に対する食糧支援を中止してしまうと、折角強化された村人の身体能力が元に戻ってしまうかもしれないという懸念があるのだ。

 まだ推測の段階だが、村人達の身体能力が強化された過程を考慮すると、一良が持ってきた食べ物を食べなくなった場合、身体能力は徐々に元に戻ってしまうのではないかと一良は考えていた。


 先日の野盗による襲撃のような出来事が再び起こらないとも限らないので、村人たちの身体能力はこのままの状態を維持させておくのが望ましいのだ。


 何らかの理由で一良が持ってきた食料を使い切ってしまったとしても、村の食料自給率は100%を優に超えているので、飢えに関しては心配いらない。

 また、身体能力が強化済みの人間は、こちらの世界の食べ物だけを摂取し続けた場合でも飢えることはないということは、先日アイザックの部隊に同行した際のバリンとバレッタの様子から明らかになっている。


 気をつけるべきは、外敵からの襲撃だけなのだ。


「すごい量ですね……カズラさんは、暫くは戻ってこられないんですか?」


「いや、10日後にはまた戻ってくるつもりですよ。日本の工務店に発注している水力発電機を回収しないといけないんで」


 積み上げられた物資に目を見張りながらも、少し不安そうに尋ねるバレッタに一良が答えると、バレッタは驚いて目を見開いた。


「えっ!? イステリアに発電機を持っていくんですか!?」


「うん。冷蔵庫とかの電化製品をあっちで使おうかと思って。冷蔵庫が使えれば、日本の生鮮食品もある程度持ち込めるから便利かなって思ったんです。他にも、発電機さえあれば電動工具とかパソコンとかも使えるなって思って」


「そ、そうですか。随分と思い切りましたね……でも、大丈夫でしょうか……」


 電化製品と聞いて、バレッタは不安そうな声を漏らした。

 電化製品のようなオーバーテクノロジーの塊を持って行って、もし誰かに見られでもしたらと心配しているのだ。


「まあ、ナルソンさんたちに協力してもらって、他の人には見せないようにするから大丈夫ですよ。私の持っている物を他の人に見られたくないのはナルソンさんたちも同じはずですから、進んで手伝ってくれるはずです」


 万が一ナルソンたち以外の人物に見られたとしても、少し見た程度では何に使う物なのかすら理解できないはずだ。

 イステリアに自動車で突入するといった突飛な真似でもするのなら話は別だが、据え置き型の発電機や冷蔵庫ならば、もし何かの拍子で盗み見られても「何やら奇妙な箱があるぞ」といった感想に留まるだろう。

 ただし、冷蔵庫を開けて中身を見られたり、起動中のノートパソコンや電動工具を見られたりしたら騒ぎになりかねないので、それらの使用場所には十分注意しなければならないのだが。


「そう……ですね。ナルソン様のご協力があれば……。あの、昨日カズラさんが最後に運んできた大きな箱ってもしかして……」


「うん、あれに冷蔵庫が入ってます。冷凍野菜とかも沢山持ってきたんで、イステリアに行ってからもそれなりにマシな食生活が送れそうですよ」


 今後の食生活について自信ありげに答える一良に、バレッタは怪訝な表情をした。


「えっ、でも、発電機は10日後に日本から持ってくるんですよね? それまでの間は冷蔵庫が使えないから、凍らせてあるお野菜は溶けちゃうんじゃないですか?」


「あ、それは平気です。今回持っていく荷物の中に、ガソリン式の発電機も入ってますから。ガソリンもドラム缶2本分ちょっとあるんで、暫くの間は持つはずです」


「そ、そうですか」


 あまりにも思い切った行動を取ろうとしている一良に、バレッタは少々心配になった。

 だが、イステリアの領主であるナルソンが味方である以上、ある程度の無茶は許容範囲なのだろう。

 ナルソンは是が非でも一良の支援を得たいはずなので、一良の言うことには絶対に逆らわないはずだ。

 むしろ、今後の一良の心証も考えて、自ら進んであれこれと協力を申し出るだろう。


 それに、一良は事を起こすと決めるとかなり思い切った行動に出るということは、今までの村での行動で実証済みである。

 もう少し自重した方が、と思わなくもないのだが、それも今更なのだ。


「それと、もし他にも何か必要になったり困ったことが起こったりしたら、いつでも私に知らせてくださいね。すぐに戻ってきますから」


「はい、ありがとうございます」


 バレッタは笑顔で礼を述べながらも、胸が締め付けられるような寂しさを覚えていた。

 あと数十分もすれば、一良は再びイステリアへ行ってしまう。

 次に一良に会えるのは10日後であり、恐らくその後も長期にわたってイステリアへ行きっきりになってしまうだろう。


 少しでも気を緩めれば目に涙が浮かんでしまいそうになるが、ばれないようにぐっと堪えて笑顔を作る。


 何度も何度も、一良の前で醜態を晒すわけにはいかないのだ。


「でも、村のことは大丈夫ですから、カズラさんはイステリアへの支援に集中してください。カズラさんの力がどうしても必要になった時は、ちゃんと連絡しますから」


 バレッタがそう言うと、一良は少し驚いたような表情を見せた。

 だが、すぐに


「うん」


 と笑顔で頷いた。




 それから30分後。

 荷物を全て馬車に積み込み、身支度を整えた一良は、村の入り口で村人たちに別れの挨拶をしていた。

 村人の中には、イステリアへ行ってしまう一良を不安そうな表情で見つめている者が何人かいたが、大半のものは笑顔を見せていた。

 皆、一度はイステリアへ行ってしまった一良が無事に戻ってきたことにより、多少なりとも安心しているのだろう。


 それに加え、先程ジルコニアは村人全員の前で演説を行った。

 演説の内容は、一良がイステリアで行う支援の内容と、現在のイステール領内で発生している飢饉の概況、加えて、一良の身の安全はイステール家が保証するので安心して欲しいといった旨の説明だった。

 普通、数十万人もの民草を纏める貴族が、このような寒村の村人を相手取って自ら演説を行うなどありえないことである。

 演説を聴く村人たちは多少なりとも緊張した様子だったが、ジルコニアの説明に一応は納得したようだった。


 また、次は10日後に村へ帰ってくると先に宣言してあるということも、村人たちには安心できる要素であったに違いない。

 グリセア村の人々にとって、既に一良は救世の神であるとともに心の拠り所になっており、無くてはならない存在なのだ。


「それでは、行ってきますね。10日後には戻って来ますが、もしその間に何かあったらすぐに連絡を寄越してください」


 一良は集まった村人たちにそう伝えると、傍に控えていたアイザックに連れられて馬車へと向かう。

 馬車の傍にはマリーが待機しており、帰りも一緒に乗って行くようだ。


「カズラさん!」


 だが、一良が馬車に乗り込もうとした時、バレッタが一良の元に駆け寄ってきた。


「ん、どうしました?」


 バレッタは一良の前に立つと、一良を真っ直ぐ見上げて目を合わせた。


「私、頑張ります。だから……」


 バレッタはそこまで言うと、何かを言いかけていた口を閉じ、一旦一良の胸元に視線を落とした。

 そして、再び一良を見上げる。


「うん?」


 続きを促すように一良が微笑んで見せると、バレッタは少し寂しそうに苦笑した。


「……いえ、何でもないです。お体に気をつけて、あまり無理はしないでくださいね」


「うん。バレッタさんも、あまり無理はしないでくださいね。勉強が楽しいからって、夜更かししてはダメですよ?」


 一良が冗談めかしてそう言うと、バレッタはくすりと微笑んだ。


「それはちょっと約束できないです」


「こらこら、背が伸びなくなっても知らないぞ」


「いいですよ、別に小さくたって困りませんから」


「この分からず屋め」


 一良はバレッタの頭をくしゃくしゃっと撫でると、バレッタはくすぐったそうに目を細めた。

 そして、バレッタの表情から寂しそうな影が消えたことを確認し、バレッタの頭から手を離す。


「では、また10日後に。それまで、元気で」


「はい。カズラさんも、どうかお元気で」


 一良はバレッタに微笑むと、アイザックが扉を開けて待機している馬車へと乗り込んで行った。

 一良に続いて、マリーも一良の手を借りて馬車に乗り込む。


 一良たちが馬車に乗り終えると、ジルコニアの号令の下、護衛の近衛兵300名を含んだ総勢1000人近い大部隊は、ゆっくりとイステリアへ向けて移動を開始した。


 バレッタは去っていく部隊を見送りながら、


「だから……待っていてください」


 と、小さな声で呟いた。




 部隊がイステリアへ向けて移動を開始してから数十分が経過した頃。

 ジルコニアは部隊の先頭をラタに乗って進みながら、隣に呼び寄せたハベルと話をしていた。


 話の内容は、以前ルーソン邸で一良に出された料理についてである。


「カズラ様にお出しした料理ですか?」


「ええ。前にカズラさんをあなたの屋敷に泊めた時、どんなものを出したのか教えてもらえる?」


「あの時はカズラ様の好みがわからなかったので、その時に手に入る食材で用意することの出来る全ての料理を作らせました。かなりの量になってしまいましたが、その甲斐あってカズラ様もご満足しておられるようでした」


「用意できる全てって……急な指示に、よくあなたの家の料理人は対応出来たわね。そんなに沢山食材を備蓄してあるの?」


 ハベルの答えを聞いて、ジルコニアは少し驚いたように問い返した。

 ジルコニアがアイザックから聞いている話では、一良がルーソン邸に泊まることは急な話だったはずであり、何の事前準備も出来ていないはずだったのだ。


 一良がナルソン邸に滞在している間、ナルソンたちも料理には気を使って、毎食違った趣向の料理を一良に提供していた。

 だが、今回一良が用意した大量の食料から推測するに、ナルソンたちがあれこれ考えて出した料理の数々は、一良の舌を満足させるには至らなかったのだろう。


 それにもかかわらず、一良が納得するような料理を、一度目の食事で提供できたルーソン家の料理人とは、一体どれほど腕がいいのだろうか。


「そこまで沢山の食材を備蓄しているわけではありませんが、父の趣向で肉や野菜などは常に一定量は確保するようにしていますね。あと、あの時は近場の商人などに使いを出して、新鮮な肉や芋虫を買いに走らせました」


「そう……」


 ジルコニアは少しの間考えると、ハベルに本題を切り出すべく口を開いた。


「ハベル、その時にカズラさんに出した料理を作っていた料理人を、1人私のところに譲ってもらえないかしら。もちろん、それ相応のお金は出すわ」


「料理人を、ですか?」


「ええ。どうも、カズラさんには私達の屋敷で出してる料理が口に合わないみたいなの。色々と趣向を変えて料理を出してはいたんだけど、どれもダメだったみたいで」


 不思議そうに問い返すハベルに、ジルコニアは理由を説明する。

 この説明の仕方では、自分の屋敷の料理人がルーソン家の料理人よりも劣っていると宣言しているようなものなのだが、ジルコニアは全く気にしている様子はない。

 プライドの高い貴族ならば絶対に言い出せなかっただろうが、生憎ジルコニアにはそのようなプライドは存在しない。

 今必要とされるものを、最善最短の手段で手に入れることが出来ればそれでいいのだ。


 ジルコニアの説明を聞き、ハベルは少しの間沈黙して考え込んだ後、口を開いた。


「それならば、1人適任がおります。まだ歳は若いですが、料理の腕は確かですし、カズラ様との面識もあります」


「まあ、それは良かったわ。その料理人は何歳なの?」


「13歳です。名をマリーと言いまして、今カズラ様と一緒に馬車に乗っている者がそうです。職業は料理人ではなく、屋敷の侍女ですね。今回は私の従者として部隊に同行させました」


「それは随分若いわね……でも、カズラさんと一緒に馬車に乗っているということは、カズラさんはその娘を気に入っているってことかしら」


 ジルコニアの独り言のような呟きに、ハベルは特に表情も変えずに黙っている。

 ジルコニアはその沈黙を肯定と受け取ったのか、よし、と頷いた。


「じゃあ、その娘を譲ってもらえるかしら? お金は言い値でいいから」


「はい。ですが、マリーは私の父であるノールが所有している奴隷なのです。なので、所有権の話は父にしていただけると助かるのですが……」


「あら、そうなの。じゃあ、イステリアに戻ったら私が直接話をつけに行くわね」


 奴隷という単語にも全く反応せずに、ジルコニアは一良の食事問題という懸念が解消してほっとした様子を見せていた。


 ハベルはそんなジルコニアの様子を横目で見ながら、そっと小さく息を吐いた。

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