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宝くじで40億当たったんだけど異世界に移住する  作者: すずの木くろ


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390話:おひさです

「ここまで文明レベルが違うなんて……」


 バレッタは両手で大事そうにスプライトを持ち、助手席の窓から外を見ている。

 街なかに入ったということもあり、先ほどまでののどかな景色が一転して、一気ににぎやかになった。

 歩く人々、すれ違う車やバイク、自動で切り替わる信号機、大きなガラス窓を備えた家々。

 見るものすべてが珍しく、バレッタは感動しっぱなしだ。


「これからは、あちこち見物し放題ですよ。バレッタさんも行き来自由になったんですから」


「はい、すごく楽しみです。でも、子供が産まれたら、行き来ってどうなるんでしょうか?」


 バレッタが自分のお腹を摩る。


「あー、そういえばそうですね。後で、父さんたちに聞いておかないと」


 そうしてしばらく車を走らせ、大型書店にやって来た。

 大きな看板に書かれた「本」という文字に、バレッタが目を輝かせる。


「本屋さんだ!」


「前に、行ってみたいって言ってましたよね。少し覗いていきましょう」


 駐車場に車を停め、店の入口へと向かう。

 勝手に開いた自動ドアに、バレッタが「わっ」と驚いた。


「び、びっくりした……」


「あはは。いい反応だ」


「うう、何を見てもびっくりしちゃいます……わあ!」


 店に入ると、所狭しと並んでいる本に、バレッタが感嘆の声を漏らす。

 目の前にある「今月の新刊」と張り紙がされた、本の山へと駆け寄った。


「すごい量……これ、全部今月に出た本なんですね」


「ここに並んでるもの以外にも、大量に出版されてますよ。気になるものがあったら、買って行きましょう」


「はい!」


 あまり時間を食ってはいけないと、速足で店内を巡る。

 金髪碧眼はこの街では珍しいのか、ちらちらと他の客がバレッタに視線を送っていた。

 服装は特に場違いというわけではないので、大丈夫そうだ。

 目についた本を数冊手に、レジへと向かう。


「バレッタさんが会計してみます?」


「あ、いいんですか? やってみたいです。日本語で話さないとですね」


「お金は、これが千円で――」


 バレッタは一良から財布を受け取り、レジの前に立った。

 少し緊張した様子で、本を差し出す。

 本は、妊娠・出産・子育てについての雑誌、群馬県の旅行雑誌、看護師向けの解剖生理学の参考書だ。

 参考書は、あちらの世界の医療に役立つだろうから、とのことだった。


「これください」


「はい。3点で、2845円です」


 無事に支払いを済ませて本を受け取り、一良に振り向いた。


「買えました!」


「お疲れ様」


 ホクホク顔のバレッタを連れ、一良は店を出た。

 スマートフォンを取り出して、時間を確認する。


「10時半か。スーパーでも寄って、帰りましょう」


「もうそんな時間なんですね。あっという間です」


「屋敷からここまで、40分くらいかかってますしね。あ、俺、ちょっとトイレに行ってきます。バレッタさんは大丈夫ですか?」


「私は平気です。ここで待ってますね」


 店の脇にあるトイレに、一良が向かう。

 バレッタが買った旅行雑誌をぱらぱらと見ていると、バイクに乗った若い男の2人組が傍を通りかかった。


「うわ、めっちゃ可愛い。1人かな?」


 男がヘルメットを外し、隣の男に言う。


「そうっぽいな。お前、声かけてみろよ。英語、話せるだろ?」


「よーし」


 男たちがバイクから降り、バレッタに歩み寄る。

 英語が話せる、と言われた男が口を開こうとした時、バレッタは読んでいた雑誌から顔を上げ、にこりと微笑んだ。


「Hola. Hace buen tiempo(こんにちは。いい天気ですね)」


「「……」」


 バレッタから発せられた言葉に、男たちが固まる。


「お、おい。何語だ?」


「たぶん、スペイン語だと思うけど……」


「Necesitas algo de mi?(私に何か用ですか?)」


 戸惑う彼らに、バレッタが続ける。


「何て言ってるんだ?」


「分かんねえよ。こりゃダメだ」


 彼らはバレッタに愛想笑いすると、そそくさとバイクに乗って去って行った。

 バレッタが小さく手を振って彼らを見送っていると、一良がトイレから帰ってきた。


「ん? 何してるんです?」


「あの男の人たちに、声をかけられちゃいました」


「うわ、ナンパかな? 上手く断ったんですね」


「英語で話しかけてこようとしてるみたいだったんで、先にスペイン語で話しかけたら、諦めてくれました」


「……スペイン語、話せるんですか?」


「日常会話くらいなら。映画で少し覚えただけなので」


「この天才め」


 そうして、2人は車へと戻るのだった。




 数分後。

 駅前のスーパーにやって来た2人は、総菜コーナーで商品を選んでいた。


「すごい量ですね。こんなにたくさん食べ物が並んでるなんて」


「ですよね。お弁当とかパンなんて、山のように置いてあっても一日でほとんど売れちゃうみたいですし」


「生産力と輸送力が、あっちの世界とは桁違いですね」


 ローストポークと大学芋をカゴに入れ、デザートコーナーに向かう。

 美味しそうな商品の数々に、バレッタが「おー」と声を漏らす。


「美味しそうですね!」


「食べたいものがあったら、何でもどうぞ」


「えっと、えっと……あっ! ミルクレープ!」


 冷蔵品の棚にあったミルクレープを、バレッタが手に取る。

 長方形にカットされた少し大きめのもので、お値段は398円だ。


「ケーキ、こんなに安く買えるんですね。3アルちょっとくらいなんだ……」


「アル換算だと、それくらいですね」


「このエクレアっていうのも、すごく美味しそう。買っていいですか?」


「どうぞどうぞ」


「あっ、志野さん!」


 背後から声をかけられて一良が振り返ると、買い物カゴを手にした私服の宮崎が立っていた。

 今日は日曜日なので、買い物に来ていたのだ。


「宮崎さん! おひさしぶりです!」


「おひさです! 偶然ですね!」


 嬉しそうに宮崎は微笑むと、バレッタを見た。

 バレッタが彼女に、ぺこりと頭を下げる。


「えっと、そちらのかたは?」


「妻のバレッタです」


「つ、妻!?」


「初めまして。いつも夫がお世話になっております」


 呆然としている宮崎に、バレッタが微笑む。


「宮崎さんの話は、いつも夫から聞いています。仕事を助けていただいて、ありがとうございます」


「い、いえいえ! こちらこそ、何かと助けていただいて……」


 宮崎が目を白黒させながら、一良とバレッタを交互に見る。


「もう! こんなに美人な奥さんがいたなんて! 志野さん、教えてくださいよ!」


 ぽん、と宮崎が一良の肩を叩く。


「この間結婚したばかりで。言うのが遅くなっちゃって、すみません」


「そ、そうなんですね! 奥さん、すごく日本語が上手ですね。日本に住んで長いんですか?」


「ありがとうございます。こっちに来たのは2年前くらいですね。母国でずっと日本語を勉強していたので――」


 宮崎の質問に、バレッタは上手に話を合わせる。

 バレッタの話す日本語の発音は完璧で、まるで日本人同士で話しているかのようだ。

 数分立ち話をし、それじゃあ、と別れた。

 レジへと向かう一良たちを見送り、宮崎は「はあ」とため息をついた。


「だよね。あんないい人、お手付きじゃないはずがないよね……若くて美人さんだったなぁ」


 そうつぶやくと、ケーキやシュークリームなどを、片っ端からカゴに放り込むのだった。




「カズラさん、モテるんですね」


 車に乗り込んで一良がエンジンをかけると、バレッタがそんなことを言った。


「え?」


「宮崎さん、絶対にカズラさんのことが好きですよ。私を紹介した時、思いっきりショックを受けてましたもん。アプローチかけられてたんじゃないですか?」


「あ、あー。思い当たるフシは確かにありますけど、普通の友達付き合いしかしてないですよ」


「あっちでもこっちでも、モテモテです」


「いやいや、勘弁してください。俺はバレッタさん一筋ですって」


「えへへ。冗談です。……えっと」


「ん?」


 一良が見ると、バレッタは何かを言いよどんでいる様子だった。


「……やっぱり、もうちょっと後にします」


「な、何を?」


「まだ秘密です。帰りましょう」


 一良は首を傾げながらも、アクセルを踏み込んだ。

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― 新着の感想 ―
バレッタがナンパされる(未遂?)シーンと、宮崎さんとバッタリのシーンが微笑ましくて良いですね(^_^)。
[一言] 夜の夫婦生活はどこで読めるんだ!?
[良い点] バレッタさんが、すごく日本を楽しんでいる事。 [気になる点] バレッタさんが、ハーレム容認…みたいな雰囲気を出して居る事。 出産後に、バレッタさんの日本との行き来が、どうなるかが心配。 […
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