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384話:港町へ

 小一時間後。

 ヘイシェル邸を出た一良たちは、前回船を降りた船着き場にやって来ていた。

 タラップを降りた船の前で、一良とバレッタが並んでジルコニアたちと話している。


「あ、あの、本当にいいんですか?」


「いいんだって。楽しんできなよ」


 不安そうな顔のバレッタに、リーゼが微笑む。

 朝食の席で港町に出掛けないかという話を一良がしたところ、バレッタと2人で行ってこいとジルコニアに言われたのだ。

 リーゼも「ようやく結ばれたんだから」、と賛同した。

 護衛をどうするかという話にもなったのだが、バレッタが一緒なら大丈夫だろうということで、2人きりで行くことになったのだ。


「ちょっと早めの新婚旅行ってことでさ。村に戻ったらしばらくは出かける機会なんてないだろうし、ちょうどいいじゃない」


「……はい。ありがとうございます」


 バレッタが恐縮した様子で頭を下げる。


「ほら、辛気臭い顔しないで。4日後の夕方、またここで待ってるから」


 リーゼはそう言うと、一良を見た。


「カズラ、バレッタのこと、よろしくね」


「うん。ありがとな」


「お土産、期待してるからね! いってらっしゃい!」


 笑顔で手を振るリーゼたちに見送られ、一良とバレッタは船に乗り込む。

 すぐにタラップが上げられ、船は川を下って行った。


「……それじゃ、ハベル様、シルベストリア様。よろしくお願いします」


「「はっ!」」


 ハベルとシルベストリアが、先に話をつけていた船に乗り込む。

 一良たちには「2人きりで」とは言ったが、念のために彼らに後をつけさせることにしたのだ。


「さてと。観光に行きましょうか。どこがいい?」


 ジルコニアがリーゼを見る。


「商業区画で食べ歩きがしたいです」


「やけ食いかしら?」


「やけ食いです! 飲んで食べなきゃやってられません! ねえ、エイラ?」


 リーゼが話を振ると、エイラが苦笑しながら頷いた。


「はい。私も、ばっさり振られてしまったので」


「だよね……って、エイラも、カズラに告白してたの!?」


「実はしてました」


「いつ!?」


「先日、グリセア村に行った時……じゃないや。王都からお屋敷に戻った次の日ですね。お返事を貰ったのは、ヘイシェル様のお屋敷に着いた日です」


「あら。私もその日に告白したのよ。私の場合は、返事は保留にさせてあるけど」


「ええ!? お母様も!?」


「……保留、ですか?」


 口をパクパクさせているリーゼと、小首を傾げるエイラ。


「そ。きっぱり断られたら、その場で泣いちゃいそうだったから。返事は聞かないことにしたの」


「な、なるほど……」


「……お母様、そんなにカズラのことが好きだったんですね」


「ごめんね。私、あなたのお母さんなのに」


 苦笑しながら言うジルコニアに、リーゼも苦笑する。


「ほんとですよ。何が悲しくて、母親と男を取り合わないといけないんですか」


 リーゼはそう言うと、川へと目を向けた。


 ――ずっと好きでいるくらい、いいよね。うん。


 小さくなっていく船を、リーゼたちはしばらく見つめていた。




 船に乗ったシルベストリアとハベルは、お互いカツラを被ったり付け髭をしたりと変装を始めていた。

 カツラでロングになったシルベストリアが、ハベルに向き直る。


「どう? 似合う?」


 しゃなり、と肩に掛かる髪を手で払い、シルベストリアがポーズを決める。


「よくお似合いです。シルベストリア様は、髪が長いほうがお似合いですね」


「そう? そうかなぁ?」


「そうですよ。ほら」


 ハベルがハンディカメラを起動し、モニターをシルベストリアに向ける。


「おっ。我ながら、なかなかいい感じじゃん」


「ええ。アイザック様が見たら、きっとドキリとしますよ」


「なっ、何でそこでアイザックが出てくるわけっ?」


「シルベストリア様はアイザック様がお好きなのかと思っていたのですが」


 ハベルの指摘に、シルベストリアは「うっ」とたじろぐ。


「……もしかして、バレバレ?」


「そんなことは。そうなのかな、と思っていただけです」


「アイザックには『しー』だからね! あいつ、リーゼ様のことが好きなんだし」


「承知しました」


 ハベルはにこやかに微笑むと、先を行く一良たちが乗っている船に目を向けた。

 ここからでは彼らの姿は見えないが、船首から景色を眺めているのだろう。


「それにしても、カズラ様はもったいないことをしましたね」


「ん? 何がもったいないの?」


「リーゼ様たちのことですよ。どうせなら、全員手に入れてしまえばよかったのに」


 シルベストリアがハベルに、「えー」と非難めいた目を向ける。


「何それ。超引くんだけど」


「そうでしょうか? 少なくとも、リーゼ様たちはそれを望んでいるように思えますが」


「えっ!? そうなの!?」


 驚くシルベストリアに、ハベルが苦笑する。


「まあ、これからどうなるかはバレッタさん次第といったところでしょうか」


「ど、どうしてバレッタ次第なわけ? カズラ様次第って言うなら分かるけどさ」


「バレッタさんは、ああいう性格ですからね」


 シルベストリアは意味が分からず、頭にハテナマークを浮かべている。


「なるようになりますよ。温かく見守りましょう」


 そう言って、ハベルは金髪のカツラを取り出して被るのだった。




 数時間後。

 一良とバレッタは、船の客室でマグネット式の将棋で遊んでいた。

 村でのお祭りの景品で余ったものを、一良が持ってきたのだ。


「飛車取り」


「あっ。うーん……」


 うっかりミスで飛車取り状態になってしまい、バレッタが唸る。

 これで3戦目なのだが、バレッタはこのようなミスを連発していた。


「バレッタさんらしくないですね。俺、ボロ負けするかなって思ってたんですけど」


「う、うーん……」


 バレッタが盤面を見ながら唸る。

 勝負は五分といった感じで、先の勝負は互いに一勝一敗だ。


「やっぱり、リーゼのことが気になりますか?」


「……はい」


 はあ、とバレッタがため息をつく。

 すると、ぴしゃっと自分の頬を叩いた。


「でも、そんなの失礼ですよね。カズラさんにも、リーゼ様たちにも。とりあえずは考えないようにします!」


 むん、と気合を入れて盤面を見るバレッタ。

 すぐに、駒を動かした。


「そうしましょう。せっかく2人きりでって送り出してくれたんだし、楽しまないと……んー」


 一良が少し考え、自分の駒を動かす。

 そうして将棋を続けていると、船員が「そろそろ着きますよ」と伝えに来た。


「おっ、着いたか。行きましょう」


 見事に圧倒された状態の将棋盤を布袋に入れ、一良が立ち上がる。

 バレッタも荷物を手にし、一緒に外に向かった。


「それにしても、集中したバレッタさん、めっちゃ強かったですね。あれから、一方的だったし」


「えへへ。本気出しちゃいました……わあ!」


 目に飛び込んで来た光景に、バレッタが感嘆の声を上げる。

 船は大きな河川上を進んでいて、進む先には海が広がっていた。

 両岸にはたくさんの家々が立ち並び、大勢の人で賑わっている。

 フライシアのように屋根の色は統一されていないが、背の高い建物が数多くあり、まさに大都市といった様相だ。


「おー。これは大きな街だな」


「すごいですね! 船もたくさんありますよ!」


 遠目に見える海にはたくさんの漁船が浮かんでいて、港に向かって来る大きな商船もいくつか見える。

 船が河岸の停泊所に停まり、2人はいそいそと陸に上がった。


「おっ、エビだ。川エビかな?」


「美味しそうですね!」


 船を降りてすぐの場所にあった出店に、2人で歩み寄る。

 中年の店主が大鍋で小さなエビを揚げていて、すぐ傍では数人の客がエビの串揚げを食べていた。

 一良たちも1本ずつ買い、その場で食べ始める。


「んっ、こりゃ美味い」


「サクサクで美味しいです。殻の歯応えがいいですね」


 置かれていたゴミ箱に串を捨て、さて、と周囲を見渡した。

 まだ昼過ぎということもあり、人通りはかなり多い。


「んー。どこに行きますかね? 名所とかあったりするのかな」


「カズラさん、先に宿を確保しちゃいませんか?」


 バレッタが、傍にあった掲示板を指差す。

 そこには宿屋の案内が記されており、住所も書かれていた。


「私、海が見える宿に泊まってみたいです」


「おっ、いいですねぇ。この中にあるかな?」


「串揚げ屋さんに聞いてみましょう」


 そうして、2人は店主に話しかけるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まだだ……まだハーレムルートへの道は閉ざされてない……
[一言] 諸君、私はハーレムが好きだ 諸君、私はハーレムが大好きだ ジルコニアが好きだ、リーゼが好きだ、エイラが好きだ 敵国の科学大好きっ子が好きだ、現実世界の営業さんも好きだ
[良い点] ヒロインズの件をハベルに語らせているのがとても据わりが良くて感心しました。昔マリーの件で周囲を手玉に取ったときといい、人というものをよく見ていて、アロンドと同じ血が流れているだけのことはあ…
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