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宝くじで40億当たったんだけど異世界に移住する  作者: すずの木くろ


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382話:本当の気持ち

「カズラ、こっちこっち!」


 一良が屋上に出ると、屋上の端でリーゼが手を振っていた。

 一良は彼女に歩み寄り、保冷バッグからペットボトルのスポーツドリンクを手渡す。

 大きめの保冷剤を入れてあったので、イステリアから丸一日以上経っているがしっかりと冷えている。

 今夜は満月で、夜にもかかわらずかなり明るい。

 屋上はかなり広いのだが、他には誰もおらず貸切状態だ。


「ほら、よく冷えてるぞ」


「ありがと……って、お酒じゃないの?」


「脱水状態でお酒は危ないって」


 一良は自分のペットボトルのフタを捻り、口をつける。

 リーゼも一口飲み、はあ、とため息をついた。


「いい景色だねー」


「だな。フライシアが一望だ」


 ヘイシェル邸は4階建てで、街で一番背の高い建物だ。

 夜中にもかかわらず家々の窓からは明かりが漏れており、通りを行き交う人もちらほらいるようだ。


「おっ。夜中なのに船が出てる」


「えっ、どれどれ?」


「あっちの開けてるところ。川を照らしてるのか」


 一良の指差す方を見て、リーゼが「おー」と声を漏らす。

 舷側から吊るされた棒の先にはお椀型のカバーが付いていて、中に松明が付いているようだ。

 金属のカバーに光が反射して、水面を照らしているように見える。


「あれって確か、『集魚灯』だよね?」


「ああ、魚を集めるやつだっけ? よく知ってるな」


「百科事典に載ってたの。でも、川で使うのは虫を集めるやつだよ。虫を食べに来た魚を釣り上げるんだって」


「へぇ。リーゼもいろいろと勉強してるんだな」


「えへへ。いつ何が役に立つか分からないから、暇な時に百科事典を読み漁ってるの」


「偉いなぁ。将来有望だ」


 あれこれと、勉強のことや今日の観光のことについて話す。

 そうしてしばらくして、話が途切れた。


「そういえばさ。カズラ、話したいことがあるって、さっき言ってたよね?」


 横目で一良の目を見ながら、リーゼが言う。


「あ、うん……その、さ」


「私もね、話したいことがあるんだ」


 一良が続きを言うのをさえぎるように、リーゼが口を開く。


「ん、何だ?」


 一良が言うと、リーゼは一良に向き直った。


「前にさ、氷池の場所を決めに、お母様の故郷に行った時のこと、覚えてる?」


「うん。だいぶ前の話だよな。行くだけで4日もかかったっけ」


「すごく遠くて大変だったよね。でさ、着いた日の夜に、ご飯食べながら話したことは覚えてる?」


「えっと……どの話だろ。ニーベルさんのことを、『死ねばいいのに』って言ってたこと?」


 思い出しながら言う一良に、リーゼが苦笑する。


「ううん。その後のこと」


「……うん、覚えてるよ」


 あの日の夜に、リーゼに「私と結婚してくれる?」と唐突に言われたことを一良は思い出す。


「あの時のこと……もう一度言わせてほしいの」


「……」


「私、ね」


 リーゼはそう言って言葉を止め、その表情がふっと悲しげなものになった。

 そして一良に一歩歩み寄ると、背伸びをして彼の唇に自分の唇を重ねた。

 不意打ち気味になされたキスに、一良が驚いて目を見開く。

 リーゼはすぐに、唇を離した。


「お、お前――」


「お願い……少しの間だけでいいから……今だけでいいから、夢を見させて?」


 リーゼが目に涙を浮かべて微笑み、震える声で言う。 

 縋りつくように、一良の胸に両手を添えた。

 瞳を閉じ、涙が頬を流れる。


「リーゼ……」


 一良は彼女をそっと抱き寄せると、その唇に自身の唇を重ねた。




 しんと静まり返った薄暗い廊下を、バレッタは緊張した顔で歩いていた。

 風呂を出た後に部屋でお土産の整理をしていたところ、突然部屋に入ってきたシルベストリアに、「カズラ様は屋上にいるから告白してきな!」と放り出されたのだ。

 突然そんなことを言われて「まだ心の準備が」と抵抗したのだが、「いつまでも受け身でどうする」「他の女に掠め取られるぞ」と怒られてしまった。


――はあ、急にこんなことになるなんて……。


 近いうちに一良から告白してもらえるのではと、バレッタは考えていた。

 そう確信できるほどの言葉を今までに何度も彼からは貰っていたし、互いにはっきり言っていないだけで両想いである自信がある。

 今は旅行中で他の皆もいることだし、きっと村に戻ってから進展があるだろうと思っていたのだ。

 しかし、シルベストリアの言うとおり、ここ最近の他の女性陣の一良に対するアプローチはかなり激しい。

 正直なところ、それを見るたびにモヤモヤした気持ちになっているのも事実だ。 


――……うん。私から、ちゃんと言おう。今なら、カズラさんもリーゼ様のことで困らないだろうし。


 以前、リーゼと約束した「抜け駆けなし」の話が頭を過ったが、いずれはっきりさせなければいけないことだ。

 しっかりと一良の気持ちを確かめて、リーゼにはその後で報告すればいいだろう。

 よし、と両手の拳を握って気合を入れ、屋上へと向かう。

 ドキドキと早鐘を打つ自身の胸の音を聞きながら、階段を上がる。

 緊張しながら一歩一歩階段を上り、屋上に出る扉が目に入った。

 深呼吸しながら階段を上り切り、開きっぱなしになっている扉の前に立った。


「あっ」


 開けた屋上の一角に、一良とリーゼの姿があった。

 向かい合って、何かを話している様子だ。

 一良だけじゃなかったのかと、ため息をつく。

 がっかりしたような、少しほっとしたような気持になりながら、彼らに声をかけようと一歩を踏み出した時。

 リーゼが背伸びをし、一良の唇にキスをした。


「……え?」


 バレッタは思わず声を漏らし、目を見開いた。

 リーゼは顔をすぐに離し、一良に何かを言っている。

 バレッタが立ち尽くしていると、一良はリーゼを抱き寄せて、今度は自分から彼女にキスをした。


「カ、カズラさ……な……んで……」


 唇を重ねる一良とリーゼを、呆然と見つめる。

 足が震え、その場に崩れ落ちそうになった。


「っ!」


 バレッタは踵を返し、階段を駆け下りた。




 数秒唇を重ね、一良が顔を離す。


「……俺、バレッタさんが好きなんだ。リーゼの気持ちには、応えられない」


「……うん。分かってたよ。分かってた」


 悲しげな表情で言う一良に、リーゼは頬を涙で濡らしながら微笑む。


「いきなりキスして、ごめんなさい。でも、どうしても、初めてはあなたがよかったの。断られた後じゃ、もうできないから」


「……ごめん」


「謝るなら、私と結婚してよ。こんなにかわいい娘振って他の女を選ぶなんて、あなたどうかしてるわよ」


「……ごめんな」


 いつものような軽口を叩いて場を和ませようとするリーゼが痛々しくて、一良は再び謝ってしまう。


「謝らないでよ……せ、せっかく……わた……し……っ……」


 我慢が限界を超え、リーゼは一良の胸に縋りつき泣きじゃくる。

 一良は再びその背を抱き寄せようとして、止めた。

 そんなことを、今の自分がしていいはずがない。

 リーゼはしばらく泣き続けたが、やがて落ち着くと一良の胸から離れた。


「……もう、大丈夫だから。バレッタのところ、行ってあげて?」


「え?」


 突然出たバレッタの名に、一良が困惑する。

 リーゼはくすりと笑うと、屋上の入口に目を向けた。


「さっきね、そこの入口から、バレッタが私たちのことを見てたの」


「は!? み、見てたって」


「私たちがキスしてるところ、ばっちり見られてた。で、その後、どこかに走って行っちゃった」


「お、おま、見られてるって分かっててやったのか!?」


「好きな人と初めてキスできたのに、それよりも優先するようなことがあると思う?」


 驚愕する一良に、リーゼがいたずらっ子のような顔をする。

 口をぱくぱくさせている一良に、リーゼはくすりと笑う。


「ほら、早く行きなよ。きっとあの娘、部屋で泣いてるからさ」


「っ! ああもう!」


 一良が慌てた様子で、屋上を出ていく。

 彼の姿が見えなくなると、リーゼは歯を食いしばって再びぼろぼろと涙をこぼし始めた。


「……大丈夫なわけないじゃない。ばか」


 一人きりになった屋上の闇に、リーゼの絞り出すような声がぽつりと漏れた。




 階段を一段飛ばしで一良は駆け下り、1階のバレッタの部屋へと向かう。

 息を切らせて彼女の部屋の前にたどり着き、扉を開いて中に飛び込んだ。


「バレッタさん!」


「っ!?」


 部屋の真ん中でへたり込んでいたバレッタが肩を跳ねさせ、一良に振り向く。

 その目は恐怖と動揺に塗りつぶされていて、頬は涙で濡れていた。


「バ、バレッタさん、あれは――」


「や、やだ……」


 怯えて後ずさるバレッタに一良は歩み寄って、しゃがみ込む。

 そして、彼女の肩に手をかけようと手を伸ばす。


「バレッタさん、あれは――」


「やだ!」


 バレッタは叫ぶように言うと、一良の両肩を掴んで床に押し倒した。

 ごん、と一良の後頭部が床に叩きつけられる。


「あだっ!?」


「どうしてリーゼ様なんですか!? どうして私じゃないんですか!? 私、あんなに、こんなに頑張ってるのに! ずっと一緒にいてくれるって言ったのに! どうして! どうしてっ!?」


 バレッタの血を吐くような叫びに、一良は頭の痛みに目をチカチカさせながらも口を開く。


「ちょ、ちょっと落ち着い――」


 一良がそこまで言いかけたところで、バレッタは自身の唇を一良の唇に押し付けた。

 数秒その状態が続き、一良の頬に熱いものがぽたぽたと落ちてきた。


「っ……うっ……ひっぐ……」


 バレッタが一良から口を離し、顔をくしゃくしゃにして涙を流す。


「やだ……やだよ……こんなの、やだよぅ……」


「……バレッタさん」


 一良は泣きじゃくるバレッタの肩に手を添え、身を起こす。

 バレッタはぼろぼろと涙をこぼしながら、縋るような目で一良を見た。


「わ……たしっ……カズラさんがいないと……っ」


 嗚咽交じりに言うバレッタの肩を一良は掴み、真っ直ぐに彼女の目を見る。


「好きだ」


 一良の言葉に、バレッタが固まった。


「他の誰よりも、俺は君が好きだ。ずっと俺の傍にいてほしい」


「え? え?」


 なぜ一良がそんなことを言うのか理解できず、バレッタが混乱する。


「で、でも……リーゼ様、は?」


 擦れる声で言うバレッタに、一良はバツの悪そうな顔で頭を掻く。


「さっき、屋上で告白されたんです。で、断る前にいきなりキスされて」


「だ、だけど、抱き合ってカズラさんからキスしてたじゃないですか!?」


「あ、あれはその、今だけって懇願されて……でも、その後でちゃんと断ったんです。バレッタさんが好きだから、リーゼの気持ちには応えられないって」


「そ、そう……ですか……」


 呆然とした表情で言うバレッタに、一良がすまなそうに微笑む。


「本当に、ごめん。これからはずっと、バレッタさんだけを見てるから」


「っ……は、はい!」


 涙に濡れた顔で、バレッタが微笑む。


「……でも、言葉だけじゃ、嫌です」


 そう言うと、一良の頬に両手を添えた。


「カズラさんを全部……私に、ください」


 そして、再び2人は唇を重ねた。

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おぉー、ヘタレがやりおった(/・ω・)/ やっとかー
386話もくっつきそうでくっつかないハーレムごっこ さっさと結婚して子供作ってと言う主人公じゃ駄目なの? オタク小説のこの部分が嫌い
散々引っ張ってこれは無いわ もっと早く振ってやれや
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