277話:お詫びといっては何ですが
その日の夜。
一良は宿舎の屋上で、ナルソンとともに広場から立ち上る煙を眺めていた。
延々と上がり続ける煙は、戦死者たちが火葬されているものだ。
現在季節は夏であり、死体を放置し続けると腐敗して疫病が蔓延する恐れがある。
そのため、身元を確認次第、大急ぎで火葬を行っているというわけだ。
バルベール側にも戦場掃除の通達はなされており、使者が了解の返事を携えて先ほどやって来た。
明日にでも、彼らも死体の回収を始めることだろう。
その間は戦闘行為は一切しないということになっている。
バルベール軍としても大きな痛手を被った直後であり、立て直しの時間が必要なようだ。
「……そうですか。納骨堂でジルが調査したものと併せると、ウッドベルは間者ということで間違いなさそうですな」
ウッドベルに関する話を一良とジルコニアから聞いたナルソンが、煙を見つめながら言う。
「はい。コルツ君が火薬の持ち出しを未然に防いでくれたみたいです」
「しかし、徴募兵の中に間者が混じっていたとは……」
やれやれとナルソンがため息をつく。
「今一度、全兵士の身元確認をせねばなりません。それで他の間者の炙り出しができるかは、難しいとは思いますが」
「まあ、やらないよりはマシですよね……それで、メルフィさんのについてなんですけど、どうするつもりです?」
「それなのですが、扱いが難しく、頭を痛めました……」
メルフィの父親は近衛兵であり、弾薬庫管理の責任者だ。
近衛兵であるうえにかなりの地位にいた彼女の父親は、バイクの存在や無線機の存在を知っており、それに加えて地獄の動画を見ている。
彼がアルカディアに対して裏切り行為をした可能性は低く、無線機の窃盗には関与していないというのがナルソンの見解だ。
とはいえ、彼の娘がそんな大罪を犯してしまっていたとなれば、処罰しないわけにもいかない。
しかし、処罰したらしたで、いったい何をやらかしたんだ、という疑念が他の者に生まれてしまう。
当然、父親も連帯責任を負うことになり、いったいどんな大罪を、といった噂話が広まるだろう。
「軍部での窃盗は重罪です。それも、軍の機密品である無線機を盗み出したことは、ウッドベルが間者だと知らなかったとしても許されるものではありません。間者への協力は謀反と同じなので、本来ならば処刑なのですが、今回はウッドベルが間者だったということは秘匿することになっています」
ウッドベルの正体は公にはせず、彼は侵入してきた間者と戦って名誉の戦死を遂げた、という話にすることになっている。
間者に好き勝手やられていたということと、万が一にもコルツに疑惑の目が向くのを防ぐためだ。
ジルコニアが納骨堂で近衛兵長と話した内容が、そのまま採用されたかたちだった。
「メルフィはウッドベルと親密だったので、彼女を処罰すると『どういうことだ』と騒ぐ輩が必ず出るでしょう。ウッドベルは名誉の戦死扱いにせねばなりませんし、メルフィを処罰するには盗みを働いたことを公にせねばなりません。しかし、そうすると……」
「彼が死んだことと絡めて考えられたら、面倒なことになりかねませんね……」
「はい。なので、メルフィは当家で生涯飼殺すしかないかと」
「彼女の父親も、ですね?」
「そうなります。なので、メルフィにも地獄の動画を見せたいのです。ウッドベルに関しては、作り話を聞かせることになります」
最悪、メルフィは奴隷化か処刑だと一良は思っていたので、ナルソンの案は大歓迎だ。
もしメルフィが処刑されてしまったら、コルツが受ける衝撃は計り知れないものになるだろう。
代わりに、コルツにもメルフィに何か聞かれても、嘘をつき続けてもらわなければならないのだが。
「分かりました。メルフィさんには、無線機の盗み出しについては指摘するんですか?」
「はい。ニィナたちにも協力させ、他にも目撃者がいたということをでっちあげて尋問します。地獄の動画を見た後でしたら、正直に吐くでしょう」
「ですね……分かりました」
一良が頷く。
「それと、俺は明日からグリセア村に戻ろうと思うんですが、ジルコニアさんも連れて行って大丈夫ですかね?」
「ジルを、ですか? どういった用件で?」
「ここ最近、ジルコニアさんにとってつらい出来事ばかりだったので、気分転換になればと思って。リーゼも一緒に行ければ、少しの間ですけどのんびり過ごせるかなって」
「なるほど……分かりました。ぜひそうしてあげてください」
ナルソンが一良に微笑む。
「もしカズラ殿がいいようでしたら、できるだけジルの話し相手になってもらえませんか? あいつは、カズラ殿といる時が一番自然体でいられるように感じますので」
「あ、はい。それはもちろん」
「ありがとうございます。私では、どうにも力不足のようでして」
ナルソンが石作りの柵に肘をかけ、広場の煙に目を戻す。
「この戦いが終わったら、ジルはイステール家を出るということになっています」
「……はい。俺もそれは、ジルコニアさんから聞きました」
一良の答えに、ナルソンが頷く。
一良がそれを聞いているのは、想定内のようだ。
「ジルは今まで、本当につらい想いばかりしてきました。戦争が終わったら、今までの分も幸せになってもらいたいのです」
「そうですね……ただ、リーゼが何と言うか。きっと、寂しがるでしょうね」
「そうですな。しかし、あいつももう大人です。きっと分かってくれるでしょう」
ナルソンが再び、一良を見る。
「もし、カズラ殿さえよければ、そうなった折はジルの傍にいてやってはもらえないでしょうか?」
「えっ、お、俺がですか?」
驚く一良に、ナルソンが煙に目を向けたまま薄く微笑む。
「はい。1人きりになって、よからぬことを考えないとも限りません。何か、生きる目的が彼女にも必要だと思うのです」
「う、うーん……ジルコニアさん、戦争が終わったらセレットさんの村に行くっていう話を聞いたことがあるんですよ。彼女と一緒に、その村で暮らすって」
「ええ。しかし、そんな隠遁暮らしのような真似をしなくても、もっと別の生きかたもあるのではと思いまして。まあ、考えておいてください」
「は、はあ」
「カズラさん」
そんな話をしていると、階段からバレッタが上がって来た。
2人がバレッタに振り返る。
「あ、バレッタさん。薬の製造、上手くいきましたか?」
「いえ、まだラタにコルツ君の腕から採取した血を注入したところです。あと2週間くらいしないと、ラタに抗体ができないので」
コルツの腕を切断した折、バレッタはその場にいた医者に頼んで、手術の際に出た血液を瓶に採取してもらっていた。
その血液は一良の部屋にある冷蔵庫に保存しておき、先ほど回収してラタに注射したのだ。
約2週間後にはラタに抗体ができているはずなので、その血液を再度採取して、遠心分離にかけた後ろ過して血清を得るのだ。
「分離剤入りの採血管と遠心分離機が必要なんですが、カズラさん、お願いできますか?」
「もちろんです。科学実験用の物で大丈夫ですかね?」
「はい、それで大丈夫です」
「保存用の遮光瓶も必要ですよね?」
「ですね。それもお願いします」
「了解です。血清専用に使う冷蔵庫も、別に買ってきますかね」
一良がナルソンに目を向ける。
「それじゃ、俺はそろそろ部屋に戻りますね」
「はい。カズラ殿」
ナルソンが一良に向き直り、深々と頭を下げる。
「我々のためにご尽力、本当にありがとうございます。カズラ殿には、いくら感謝してもしきれません」
「いやいや、半分は自分のためにやってるようなものですから」
一良がナルソンに笑顔を向ける。
「前にも言いましたけど、俺だってナルソンさんたちにすごくよくしてもらってますし。お互い様ですよ」
「ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いいたします」
そうしてナルソンと別れ、一良とバレッタは屋上を後にした。
「バレッタさん、コルツ君の容体はどんな感じです?」
階段を降りながら、一良がバレッタに聞く。
「落ち着いてますよ。今、ご両親と一緒に部屋で休んでます」
「痛みはなさそうですか?」
「いえ、やっぱり時々痛むみたいで。ユマさんに精油と鎮痛剤を渡しておいたので、大丈夫だとは思いますけど」
コルツはあれから熱発することもなく、時折痛みを訴える以外は落ち着いていた。
ユマも当初は左腕を失ってしまったコルツの姿に動揺していたが、ことのあらましを聞いて「頑張ったね」とコルツに優しく接していた。
父親のコーネルなど、「お前は俺たちの誇りだ」とコルツを褒め称えていた。
コルツもそれで安堵し、今までの胸のつかえが取れたように穏やかな表情になっていた。
「抗生剤があって、本当によかったです。コルツ君だけじゃなく、負傷した兵士さんたちも大勢助かると思います」
「ですね。しかし、金魚用のものでも抗生剤って効くんですね。俺、半信半疑だったんですけど」
「カズラさんに貰った文献のなかに、魚用の抗生剤は人間にも効いたっていう事例がありましたから。私も実際に動物で試しておきましたし」
「やっぱり、バレッタさんはすごいなぁ。もう、バレッタシオールって名乗ってもいいんじゃないですか?」
「それ、シオールっていう語句の使いかた間違ってますよ」
そんな話をしながら、2人は一良の部屋の前にやって来た。
「さて、もういるかな?」
一良が扉を開け、2人して部屋の中に入る。
真っ暗な部屋の中、窓の傍に黒い人影があった。
「こんばんは」
ぱたんと扉が閉まると、人影が声を発した。
一良とバレッタが、傍に歩み寄る。
沈痛な表情の黒い女性の顔が、月明かりに照らされた。
「こんばんは。よく来てくれましたね」
一良が声をかけると、女性は少しうつむいた。
「彼のことですが……申しわけございませんでした」
「……他に方法はなかったんですか?」
謝る女性に、一良が言う。
「はい。彼の犠牲がなくては、この国の人々は多大な犠牲を被ることになったはずです。微かに、その未来が見えていたので」
女性が顔を上げ、一良を見る。
「彼の魂は、私が責任をもって取り扱います。彼さえよければ、これから迎えに行って私たちの傍に置こうと思います」
「え? これから迎えにって、コルツ君を連れて行くってことですか?」
「え?」
一良の問いかけに、女性がきょとんとした顔になる。
「どういうことでしょうか?」
「どういうことって、そのままなんですけど……」
一良がバレッタをちらりと見る。
バレッタも困惑した様子で、一良と目を合わせた。
「あの、オルマシオール様」
「はい」
バレッタの呼びかけに、女性が答える。
オルマシオールと呼ばれることを受け入れている様子だ。
「コルツ君を連れて行くのは、まだ許してはいただけないでしょうか。せめて、人生を全うした後にしていただけると……」
「彼は生きているのですか?」
「「えっ」」
驚いた顔の女性に、一良とバレッタの声が重なる。
2人の様子に、女性は一拍置いてから安堵した表情になった。
「……そうでしたか。私たちが彼について話したことは、いい未来に繋がったようですね」
「え、あの、どういうことなんですか?」
一良が聞くと、女性は微笑んだ。
「私の見た未来では、彼は首に短剣を突き刺されて絶命していたはずでした」
一良とバレッタが目を見開く。
まさか、本来ならばコルツは死ぬ運命にあったとは。
「しかし、先日ここで私たちが彼について話したことで、予定されていた未来が少し変わったようです。彼は、無事なのですね?」
「は、はい」
「じゃあ、腕を無くしたのって、不幸中の幸いだったのか……」
「腕?」
一良の漏らした言葉に、女性が小首を傾げる。
「ええ。コルツ君、ウッドベルっていうバルベールの間者と戦って、左腕に大怪我をしてしまって。感染症に罹っていたので、今日の昼間に手術をして切断したんです」
「そうでしたか。腕を……」
女性が沈痛な表情で目を伏せる。
そして、再び一良を見た。
「分かりました。腕でしたら、私のものを代わりに彼に差し上げましょう」
「「えっ!?」」
一良とバレッタの驚いた声が重なる。
「そ、そんな簡単に、取ったりくっつけたりできるものなんですか?」
「私のものでしたら。それだけで許される話ではありませんが、やらせていただけませんでしょうか?」
「え、ええと……」
どうしよう、といった顔になる一良。
コルツの腕が復活するのはありがたい話だが、ここで自分が勝手に返事をしてもいいようにも思えない。
勝手に彼女の腕をコルツに挿げ替えて、それを彼が後から知ったらどう思うだろうか。
バレッタを見ると、彼女も同じ気持ちのようで、困惑した顔をしていた。
「……俺が勝手に決めていい話じゃないと思います。コルツ君に、ちゃんと説明してからでもいいですか?」
「分かりました。では、今から彼のところに案内していただけますでしょうか?」
一良が頷き、扉へと向かう。
女性とバレッタも、その後に続いた。
「カズラ様、少々お待ちを」
「え? あ、はい」
扉に手をかけたところで静止され、一良が振り返る。
女性は少しの間目を閉じ、再び開いた。
「もう大丈夫です。行きましょう」
一良が扉を開け、廊下に出る。
3人でコルツがいる客室へと向かって歩いていると、途中に立っている警備兵が槍を手にこくりこくりと船を漕いでいた。
「ね、寝てる……」
「寝てますね……」
「さ、今のうちに」
女性にうながされ、客室へと入る。
暗い部屋の中、ベッドではコルツがユマに添い寝されていた。
コーネルはベッドに寝てはおらず、コルツたちの寝るベッドの傍で椅子に座って腕組みして眠っていた。
「コルツ君、コルツ君」
一良がコルツの肩に手をかけ、そっと揺さぶる。
「ん……」
コルツは薄っすらと目を開き、一良を見た。
「あ、カズラさ……お姉ちゃん?」
コルツが一良の背後にいる女性に気付き、驚いた顔になる。
ユマは熟睡している様子で、ピクリとも動かない。
「こんばんは。起きてこちらに下りてこられますか?」
「うん!」
コルツは元気に返事をすると、ベッドから降りて女性に駆け寄った。
「お姉ちゃん、俺、やったよ! ちゃんと約束守って、役に立てたんだ!」
とびきりの明るい笑顔で言うコルツ。
ウッドベルのことは、彼なりに割り切っているようだ。
女性はコルツに、にっこりと微笑んだ。
コルツの頭を、よしよしと優しく撫でる。
「はい。よく頑張りましたね。偉かったですよ。あなたは、私の自慢の弟子です」
「うん」
照れ臭そうに、右手で鼻を掻くコルツ。
うっかり怪我をしているところを掻いてしまい、「いてっ!」と慌てて手を引っ込めた。
「左腕、本当に申し訳ないことをしてしまいました。痛かったでしょう?」
「うん。でも、大丈夫だよ。腕くらい、なんてことないよ。へっちゃらだよ」
一切の曇りのない笑顔で言うコルツ。
一良からしてみればつらいどころの話ではないはずなのだが、そういった感じはまったく見受けられない。
それほどまでに、コルツにとっては彼女との約束と、一良のことをバラしてしまった件が重荷になっていたのだろう。
「……あなたは、本当に強い子ですね」
女性はコルツの頭をもう一度撫でると、床に膝をついて彼と目線を合わせた。
「でも、あなたが腕を失ってしまったのは私の責任です。代わりに、私の腕をあなたに差し上げます」
「え?」
コルツがきょとんとした顔になる。
一拍して言葉の意味を理解したのか、慌てた顔になった。
「あげるって、お姉ちゃんの腕を俺にくっつけるってこと!?」
「はい」
彼女が答えた時、彼女の姿はコルツと同年代の年恰好のそれになっていた。
いつ姿かたちが変わったのか一良たちはまったく認識できておらず、「え」と3人の唖然とした声が重なった。
「これくらいの大きさなら、ちょうどですね。さあ、左腕を出してください」
そう言って、腰の剣をすらりと抜く彼女。
まさか文字通り切り取ってくっつけるつもりなのかと、一良たちの表情が引き攣った。
「いいい、いらないよっ! お姉ちゃん、やめてよ!」
「でも、そのままでは困るでしょう?」
少女の姿の女性が、困った顔でコルツを見る。
「いらないって! 俺、片手がなくても大丈夫だよ! 食事だってできるし、服だって1人で着れるもん!」
「しかし、私のせいで腕をなくしてしまって……お詫びにどうか、受け取ってくれませんか?」
「だから、いらないって……あ、それならさ!」
コルツが思いついた様子で声を上げる。
「カズラ様と、仲直りしてよ」
「仲直り?」
何のことだ、と女性が小首を傾げる。
「うん。ずっとカズラ様と喧嘩してるんでしょ? 村で俺が呼んでも、カズラ様に会いに行ってくれなかったじゃんか」
「ああ、あのことですか」
女性がグリセア村での一件を思い出して苦笑する。
あの時彼女が一良の呼び出しに応じなかったのは、一良と喧嘩したからだろうとコルツに疑われたのだ。
それは違うと彼女は話したのだが、信じていなかったらしい。
一良とバレッタは、何が何やら分からないといった顔になっていた。
「うん。だから、カズラ様との仲直りがお詫びでいいよ。腕なんていらないから」
「……分かりました。仲直り、ですね」
女性が立ち上がる。
再びその姿が大人のそれに瞬時に戻り、一良たちは「うわっ」と驚いた。
女性が一良に、右手を差し出す。
「カズラ様。仲直りの握手です」
「は、はあ」
一良が彼女の手を握り、しっかりと握手した。
それを見て、コルツがほっとした顔になる。
「よかった。もう喧嘩しちゃダメだからね?」
「はい。分かりました」
女性が手を離し、コルツに向き直った。
「それと、これからは私たちがあなたの腕の代わりになりましょう。いつでも、あなたの傍にいますから」
「え? 一緒にいてくれるの?」
「はい。迷惑でなければ、ですが」
「……うん! 迷惑なんかじゃないよ!」
コルツが笑顔で頷く。
女性は一良に顔を向けた。
「そういうことですので、私たちもここでお世話になってもよろしいでしょうか?」
「え。あ、はい」
思いもよらぬ展開に、一良とバレッタはぽかんとした顔になっている。
「ありがとうございます。明日の朝、皆で西門に行きますね。ですが、私以外は人の姿になることはできません。他の者たちが来ても人々が驚かないよう、手配していただけると」
「分かりま……他の者たち!?」
ぎょっとした顔になる一良に女性は微笑む。
「はい。どうやら、私たちが関わっても必ずしも悪い方向に未来が変わるといったことはないようですから」
そう言う女性は、心なしか嬉しそうに一良には見えた。
「今一度、昔のような関係に戻れるかもしれませんね……それと、私も大勢の人がいるところでは人の姿を維持できないので、普段は獣の姿でいることをお許しください。これから、よろしくお願いいたします」
女性はそう言うと、窓へと歩み寄った。
窓を開き、少し振り返って一良に会釈をし、ぴょんと飛び降りる。
しんとした静寂が、部屋に戻った。
「ああ、びっくりした……カズラ様、お姉ちゃんと仲直りできてよかったね!」
女性が消えた窓から一良に目を戻し、コルツがにっこりとした笑顔で言う。
「お、おお……? 何だこの展開は……」
「な、何か、すごい話になっちゃったような……」
一良とバレッタが言った時、ユマが目を開いた。
コーネルも目を覚まし、部屋にいる一良とバレッタを見て驚いた顔になる。
「ん……コルツ、どうし……あ、カズラ様!」
「む。バレッタさんも。どうかしましたか?」
「母ちゃん、父ちゃん。今ね、オルマシオール様が――」
困惑している両親に、コルツは今しがたの出来事を話して聞かせるのだった。