231話:期間限定
翌日の朝。
ナルソン邸の広場で、一良たちはダイアスとヘイシェルを見送っていた。
エルミア国王は数日中に来るというクレイラッツの軍司令官と会合をするため、予定を延長してもうしばらく滞在する予定だ。
ルグロ一家もそれに付き合うかたちで、一良と一緒にダイアスたちを見送っている。
エルミアは疲れたとのことで、朝食を食べてからすぐに部屋に戻って休んでいる。
いろいろと心労が重なっているようだ。
「はあ、これで一息つけますね」
やれやれと疲れたように言う一良に、隣に立つバレッタが微笑む。
「ですね。あとは今までどおり、兵器の生産を続けるだけですね。でも、急がないと」
「うん。フライス領が本格生産に入るまでには時間がかかるでしょうし、こっちで可能な限り量産しないとだ。職人さんたちには、もうしばらく頑張ってもらわないと」
ヘイシェルにはクロスボウ、スコーピオン、鐙、製材機、鍛造機の見本と設計図を渡してあり、職人とグリセア村の村人も数名同行させた。
村人には無線機と携帯用アンテナを持たせており、毎日イステリアと定時連絡をすることになっている。
ダイアスには離反の件が発覚したため、時期尚早ということで設計図は渡していない。
彼の主だった臣下に地獄の動画を見せて恐怖を植え付けた後で、イステール領からアドバイザーという名の監督官にしっかりと見張りをさせたうえでの生産となる予定だ。
軍船については生産力の問題から、王都で集中的に作ることになっている。
「なあ、カズラ」
広場を出ていく馬車を一良が見送っていると、ルグロが話しかけてきた。
「ん、どうかした?」
「クレイラッツの軍司令官が来るまで、とりあえず俺たちは好きにしてていいんだろ?」
「うん。特にやることもないし、自由にしてていいよ」
「ならさ。俺、バイクを運転してみたいんだ! 少し貸してくれねえかな?」
ルグロが「お願い」と言うように、両手を合わせる。
「庭園を一回りするだけでもいいからさ。な、頼むよ」
「うん、いいよ。すぐに用意するね」
「おっ、さすがカズラ! 恩に着るぜ!」
「カズラ様、私も乗ってみたいです!」
「私も乗りたいです!」
ルグロの隣で、ルルーナとロローナが手を上げる。
リーネとロンも、自分もまた乗りたいとルグロの服を引っ張っていた。
それを見て、ルティーナが慌てた顔になる。
「ちょ、ちょっと! リーネはもう止めておきなさい。また泣いちゃうわよ?」
「大丈夫です! お父様、もう怒らないって言ってましたから!」
「え? どういうこと?」
ルティーナがルグロを見る。
「あー、いや、ちょっとな。まあ、大丈夫だから心配すんな」
「で、でも……」
「カズラ、子供らとルティも隣に乗せてやっていいか?」
「いいけど、あんまりスピードを出しすぎないように注意してね。しっかり練習してからにしよう」
「え、ええ……」
ルティーナが表情を引きつらせる。
どうやら、怖いようだ。
「ルティーナさん、大丈夫ですって。ちゃんと運転できるように、ルグロさんにはしっかり教えますから」
「は、はい」
「カズラさん、私も運転してみたいです。一緒に練習するって、約束しましたし」
傍にいたジルコニアが話に加わる。
彼女との約束は一良も覚えていたし、もともとこちらから誘う予定だった。
「ええ、いいですよ。でも、その恰好だと運転しにくいと思うんで、運動着に着替えてもらえます?」
「運動着ですか? このままじゃダメなんですか?」
ジルコニアが自分の体を見る。
いつもどおりの、薄紅色のワンピースだ。
「ダメってわけじゃないんですけど、その恰好だとちょっと運転には不向きかなって。スカートだと捲れ上がっちゃうんで、ズボン必須なんですよ」
バイクは跨る格好で運転するので、今のジルコニアの服装だと風に煽られて「大変なことに」なってしまう可能性が高い。
こちらの世界の女性は下着を着けていないので、なおさらだ。
「そうですか。じゃあ、鎧下に着替えてきますね」
「鎧下ですか。もっとラフな服装はないんですか?」
「んー、ズボンは軍服しか持っていないんですよね。普段着で出歩くにしても、いつもワンピースなので」
ジルコニアは服装にはまったく頓着しておらず、あまり気にしたことがない。
運動する時は鎧下。そうでない時はワンピースばかりだ。
理由は単純で、着るにも選ぶにも楽な鎧下やワンピースが好きなのだ。
「あ、そうだ。もしよければ、カズラさんの服を貸してもらえませんか?」
「えっ、俺の服ですか?」
「はい。バイクにも、日本の服のほうが似合いそうですし」
ジルコニアは身長が160センチ半ば(正確には163センチ)なので、170センチの一良の服を着ても大丈夫だろう。
足も長いので、ズボンの丈が余ってしまうということもないはずだ。
以前、ルーソン家の裏切り騒動があった際にTシャツを貸したことがあったが、その時も肩幅が少し大きく感じる程度で普通に着れていた。
「別にいいですよ。じゃあ、ジーパンとTシャツを貸しますね。ジーパンなら、男物を女性が穿いてもおかしくないですし」
「ねね、カズラ。私もカズラの服、着てみたいな」
リーゼが横から口を挟む。
「いや、リーゼだとサイズが全然合わないと思うぞ。身長差がありすぎるって。エイラさんくらいでギリギリなんじゃないかな」
「ふふ、リーゼ様だと『彼シャツ』みたいになっちゃいそうですね」
くすくすとエイラが笑う。
「彼シャツ? なにそれ?」
リーゼが小首を傾げる。
「彼氏のシャツのことです。彼女が着るとだぼだぼになって、それが男性にはすごくウケるんだとか」
「……エイラさん、よくそんな単語知ってますね」
「カズラ様が持ってきてくださった旅行雑誌に載っていましたよ。『夜を盛り上げるお手軽アイテム』って書いてありました」
「そ、そうですか」
「へえ、そうなんだ。カズラも、そういうの好きなの?」
リーゼが一良に流し目を送る。
リーゼの彼シャツ姿を想像してしまい、思わず生唾を飲み込みそうになる。
「……そんなことはない」
「好きなんだね。覚えておこ」
「い、いや、覚えなくていいって」
「いっひっひ」
リーゼが何か企んでいるような表情で笑う。
傍にいるナルソンは娘のそんな態度にどう反応すればいいのか分からず、聞こえないふりをしている。
ジルコニアは楽しそうに、くすくすと笑っていた。
「でも、こんなことなら村に行った時に、カズラに日本の服をお願いすればよかったな。かわいい服とか、いろいろありそうだし」
「なら、次にあっちに戻った時に買ってきてやるよ」
一良の言葉に、リーゼが瞳を輝かせる。
「えっ、ほんと!?」
「うん。カタログも持ってくるから、それを見て選んでもいいし。何十着でも、好きなだけ買ってやるから」
「さっすがカズラ! お金持ちは言うことが違うね!」
ぺしぺしと、リーゼが一良の肩を叩く。
ルグロがそれを見て、不思議そうな顔になった。
「ん? 神の国っていうのは、日本って国名なのか?」
「あ、ああ、うん。あっちも、いろいろと国が分かれててさ。俺のとこは、日本っていう国名なんだ」
「へえ、そうなのか。お金持ちがどうとか言ってたけど、俺たちの世界みたいに金も必要なのか?」
「うん。物を買うにはお金がいるね」
「ふーん。なんだかそれ聞くと、ただ珍しい物があるだけの別の世界みたいな感じだな。なんか意外だ」
特に疑っている様子もなく、頷いているルグロ。
素直でとてもありがたい。
「はは、そう感じるかもしれないね。それじゃ、バイクの用意をするかな。エイラさん、ジルコニアさんに俺の服を出してあげてください」
「かしこまりました」
「リーゼとバレッタさんも、もし運転するようなら着替えて……バレッタさん?」
「彼シャツか……あ、はい!?」
なにやら真剣な表情で考え込んでいたバレッタが、びくっと顔を上げる。
「バイクを運転するようなら、ズボンを穿いてきたほうがいいですよ」
「はい! 穿いてきます!」
こうして、皆でバイクの練習をすることになったのだった。
十数分後。
一良はバイクに跨るルグロに、運転方法を教えていた。
ナルソンも運転してみたいということで、一良の隣で見学している。
ルティーナや子供たちもまだサイドカーには乗っておらず、ナルソンと一緒に見学中だ。
バイクは運転する人数分用意してあり、ルグロが乗っているものと合わせて全部で5台並んでいる。
「それじゃあ、今度はそこの赤いボタンを押して」
「おう」
ルグロがハンドルに付いているセルスイッチを押し込む。
すると、キュルキュルッという音とともにエンジンが起動した。
「おお! すげえ!」
力強いエンジン音と振動に、ルグロの瞳が子供のように輝く。
子供たちから、「わあ!」と歓声が上がった。
「これ、もう走らせられるのか!? このハンドルを捻るんだよな!?」
「待って待って! いきなり走らせちゃ――」
「カズラさん、お待たせしました」
背後からの呼びかけに、一良が振り向く。
ジーパンに無地の白Tシャツ姿のジルコニアが、こちらに歩み寄って来ていた。
靴も革製のブーツに履き替えている。
「ズボンもシャツも、ちょうどいい大きさでした。これなら大丈夫ですよね?」
ジルコニアが両手を広げて、自分を見る。
上下とも、特に問題ないサイズのようだ。
「ええ、大丈夫です。ぴったりですね!」
「ふふ、この格好なら、日本で出歩いてもおかしくないですよね?」
「そうですね。ばっちりですよ」
ロシア人とか言っておけばバレないんじゃないかな、と一良が考えていると、ルグロが一良の肩を揺すった。
「おいカズラ! この後どうすればいいんだ!?」
ルグロが待ちきれないといった様子で、一良に声をかける。
「あ、ごめんごめん。ジルコニアさんも、こっちに来てやり方を見ててください」
ジルコニアも交ざり、皆で一良のバイク指導を受ける。
そうしているうちにバレッタとリーゼも戻ってきて、いよいよバイクを走らせることとなった。
「それじゃ、動かしてみようか。ルティーナさん、助手席にどうぞ」
「えっ、わ、私ですか!?」
「まずは大人からということで。ささ、乗ってください」
「うう……怖いなぁ」
ルティーナが恐る恐るサイドカーに乗り込む。
「よし。ルグロ、ゆっくり動かしてみて」
「おう!」
ルグロがアクセルを回し、バイクが少しずつ動き出す。
「おおっ、動いた! すげえなこれ!」
「大丈夫そうだね。そのまま屋敷の周りを回ってきていいよ。あんまりスピードは出しすぎないようにね」
「よっしゃ! ルティ、行くぞ!」
軽快なエンジン音を響かせて、バイクが走り去っていく。
「じゃあ、次はナルソンさん乗ってみましょうか」
「はい。リーゼ、隣に乗ってくれないか。少々不安でな」
ナルソンがバイクに跨り、リーゼに声をかける。
「はい、いいですよ。危なくなったら、途中で代わってあげますね!」
「うむ。そうならないよう、安全運転で行こう」
「あ、カズラ、髪紐持ってて。縛ろうと思ったけど、やっぱりいいや」
「ん? ああ」
一良が手を差し出すと、リーゼは何故か一良の手を両手で握り、それをしっかりと手渡した。
髪紐にしてはカサカサとした感触に、一良は内心首を傾げる。
握っている指の間からそれを見てみると、どうやらそれは、紙切れのようだった。
「お願いね! それじゃ、行ってきます!」
リーゼがサイドカーに乗り込み、ナルソンがアクセルを捻る。
「カズラ様、僕も早く乗りたいです!」
「私も!」
ロンとリーネが一良を見上げる。
「ん、そっか。バレッタさん、2人をお願いしても大丈夫ですか?」
「はい、いいですよ」
下の子2人をバレッタが抱っこして、サイドカーに乗せる。
2人並んで座席に座り、ご満悦の様子だ。
バレッタは子供の相手はお手の物なので、任せておけば安心だろう。
「「行ってきまーす!」」
「行ってらっしゃい!」
手を振る一良たちに見送られ、大騒ぎする2人を乗せてバイクが走り出していった。
バレッタたちが去っていくのを皆が見送っている隙に、一良はこっそり手を開いて紙を見た。
リーゼの奇麗な字で、何か書いてあるようだ。
『今朝からお母様の様子がちょっと変だから、どうしたのかそれとなく聞いてみて。ただし、カズラが気付いたって言うこと!』
なんだこれは、と一良が思考停止していると、ルルーナとロローナが一良を見上げた。
「カズラ様。お父様が戻ってきたら、次は私たちでサイドカーに乗ってもいいですか?」
「2人ででも、たぶん並んで乗れますから」
「え? あ、いいですよ。そしたら、戻ってくるまで待ってましょうかね」
これ幸いと、一良が頷く。
まさかこうなることも、リーゼは予見していたというのだろうか。
「そしたら、ジルコニアさんの隣には俺が乗りますか。ジルコニアさん、それでいいですか?」
「はい。カズラさんが一緒に乗ってくれるなら安心です」
ジルコニアがにっこりと微笑む。
一良の目には、彼女は特にいつもと変わったようには見えない。
「よし、行きましょう。エイラさん、マリーさん、2人をお願いしますね」
「「かしこまりました」」
ルルーナとロローナをエイラたちに任せ、一良はサイドカーに乗り込んだ。
非常にゆっくりとしたペースで、バイクが庭園の脇道を走る。
ジルコニアは強張った表情で、おっかなびっくりといった様子だ。
「そうそう、上手ですよ。もう少し速度を上げてみましょうか」
「は、はい!」
ジルコニアがアクセルを捻り、徐々に加速する。
「おお」、と声を漏らし、少しだけ表情が緩んだ。
「ね、簡単でしょう?」
「はい! これは楽しいですね!」
ジルコニアが楽しそうに微笑む。
一良からはどう見ても、いつもどおりの彼女だ。
Tシャツにジーパン姿という以外、特に変わりはない。
どう切り出したものかと考えるが思いつかないので、ストレートに聞いてみてしまうことにした。
「ジルコニアさん。昨日、何かありました?」
「えっ?」
ジルコニアが驚いた顔で一良を見る。
「あっ、前は見てて! 脇見運転はダメです!」
「ご、ごめんなさい!」
ジルコニアが前に向き直る。
「えっと……私、何かおかしなところありましたか?」
「いや、その……なんていうのかな、少し雰囲気がいつもと違う気がして。勘違いだったらすみません」
内心冷や汗を掻きながら一良が聞く。
「雰囲気が、ですか」
「は、はい」
「……リーゼにもバレてなかったのに。カズラさん、よく分かりましたね」
「な、なんとなくですけどね。なんか、様子が変だなって」
「そうですか……うーん」
ジルコニアが悩むような表情で唸る。
そして、ちらりと一良を横目で見た。
「前に私が、ニーベルを殺してしまおうと言ったのを覚えてますか?」
「え? あ、えっと……リーゼが彼に脅されたんじゃないかって話が出た時のことですよね?」
「はい。私、どうしても諦めきれなくて」
ジルコニアが視線を前に戻す。
「やっぱり、彼は近いうちに殺してしまおうって思って。でも、今のままだと彼の立場上、騒ぎになるからダメだってナルソンとカズラさんは言ってたじゃないですか」
なんでもないことのようにジルコニアが話す。
「それなら、今いる立場から引きずり降ろせばいいかなって。その小細工を、昨日やってきたんです。それで少し、ピリピリしてたのかもしれないですね」
唖然とした顔になっている一良をジルコニアはちらりと見て、くすっと笑った。
「なんて顔をしてるんですか。そんなに驚きました?」
「い、いや、驚くに決まってるじゃないですか。殺すって、そんな……」
「そこまでする必要はない、ですか? リーゼが辱められたかもしれないんですよ?」
「……」
一良が言葉に詰まる。
リーゼがニーベルに辱められたという確証は得られていないが、面会があるたびにセクハラを受けていたというのは知っている。
アロンドの推察では、塩取引を盾に結婚や付き合いを強要されたのでは、ということだった。
正直なところ、一良もそんな人間は死んでしまったほうがいいという気持ちはある。
だが、実際にそれを実行できる人間を目の前にして、「殺してしまおう」と言うのはかなり抵抗があった。
それが普段から親しくしている人物では、なおさらだ。
「本当は、誰にも言わないで自分だけでやるつもりだったんですが……そうですね、カズラさんには……」
ジルコニアがバイクの速度を緩め、停車した。
エンジンを切り、んー、と背伸びをする。
「停めると風がなくなって、少し暑いですね」
そう言いながら、ジルコニアが空を見上げる。
つられて、一良も空を見上げた。
小さな雲がいくつか浮かんだ、真っ青な空がそこにはあった。
「今、私がこうしていられるのは、カズラさんのおかげです。だから、カズラさんには、隠し事はしないでおきますね」
ジルコニアが一良に顔を向ける。
「私にとって、家族に危険が及ぶ『かもしれない』というだけで、その相手を殺すのには十分な理由になるんです。それは相手が誰であっても同じこと。国王でも領主でも、関係ありません」
「いや、気持ちは分かりますが、いきなり殺すっていうのは……」
「そうでしょうか? 大切なものを守るためなら、手段を選んでいる場合じゃないと思いますけど」
「それは……そうですね」
ジルコニアの言い分に、一良は思わず頷いてしまった。
過激な手段は大きなリスクを伴うので、本当ならばジルコニアを諫めなければならない。
だが、手をこまねいていたせいで大切な人が傷ついたり失うことにでもなったら、それこそ取り返しがつかないというのも理解できるからだ。
「私はもう、後悔はしたくないんです。大切なものを守るためなら、どんなことでもしますし、誰だって殺します。カズラさんも、それは同じなんじゃないですか?」
「……ええ、そうですね。もう、何百人も何千人も、この手で殺してしまっているようなものですし」
先日の戦いで使われた兵器は、一良がこの世界にこなければ登場しなかったものばかりだ。
自分が直接兵器を手に取らなかったというだけで、実質自分がバルベールの兵士たちを虐殺したことには変わりない。
手段を選んでいないのは、一良とて同じだ。
「甘ったれたこと言ってすみませんでした。ジルコニアさんの言うとおりですね。取り返しのつかないことにならないように、リスクは排除するべきですね」
「いえ、甘ったれてなどいないですよ。意見なんて、人それぞれですからね。でも……」
ジルコニアがにっこりと微笑む。
「カズラさんに分かってもらえて、私、嬉しいです」
「そ、それはどうも」
ジルコニアがバイクのエンジンをかける。
「少し、ゆっくり走って戻ってもいいですか?」
「いいですけど、どうしてです?」
「もっと、カズラさんとおしゃべりしたくて。なんでもいいから、楽しい話題がいいです」
「う、うーん……殺すだなんだって話をした後に、なにを話せばいいのやら」
「んー、それじゃあ……カズラさんの好きな女性のタイプって、どんな人ですか?」
ジルコニアがゆっくりとバイクを走らせる。
「こりゃまた唐突な話題ですね」
「前にされたお返しです。あの時は私は答えたんですから、カズラさんもちゃんと答えてくださいね」
しばらく前に、野営地の天幕でしたやり取りを一良は思い出した。
あの時撮影した動画は、パソコンに保存してあるはずだ。
「そんなこともしましたね……って、それよりも、ニーベルさんを引きずり下ろすためにした小細工のほうが気になるんですが」
「えっ、それ聞いちゃいます?」
「聞いちゃまずい内容なんですか?」
「まずいっていうか……ダイアスに色仕掛けをした話ですし」
「え、ええっ!?」
驚く一良に、ジルコニアがくすっと笑う。
「ふふ、そんなに驚かないでください。別に身体を触らせたりはしてないですから」
「そ、そうですか」
「あら、ちょっとほっとしました? もしかして、カズラさんの好みって私だったりします?」
「いや、何言ってるんですか。ていうか、ジルコニアさん、少しは自分が人妻だっていう自覚を持ってくれませんかね。いつもいつも、からかうにしても発言が不穏すぎますよ」
「そんなこと言っても。人妻なのは期間限定ですし、むしろ、逆にいいんじゃないですか?」
「いや、何がどう逆にいいのかさっぱり分からないんですけど……」
そんな話をしながら、バイクはゆっくりと走っていくのだった。




